第278話

 リゼの傷も完治して、バビロニアを出立することにした。

 冒険者と商人の多くは既に町は去っているためか、町全体に寂寞感が漂っていた。

 長く滞在していたわけでは無いが、リゼは寂しいと感じていた。

 これからの活動について、三人で話し合う。

 レティオールとシャルルの最終目標は、リゼと共にエルガレム王国に戻り、銀翼に入ることだと真剣な眼差しで言われた。

 その眼差しで、二人がリゼの背中を追いかけているのだと実感する。

 二人はリゼに同行するだけなので、リゼの行きたい場所で良いと、意見を口にすることは無かったがリゼも引き下がらず二人の意見を聞こうとする。

 自分の意思をはっきりと伝えることが大事だと……自身がなく、自分の意見を抑え込んでいた昔の自分から実感していた。

 遠慮がちにシャルルはフォークオリア法国でバフ支援魔法ブック魔法書購入をしたいと話す。

 フォークオリア法国と言ったのは、 魔法大国と言われるだけあり多くのブック魔法書が販売されていると考えていた。

 ただ、バビロニアからはかなり遠い。

 シャルル自身も明確に、どのブック魔法書を購入したいという理由もないため、立ち寄った町で気に入るブック魔法書があれば購入することも出来ると、フォークオリア法国に拘っているわけでは無いことを補足する。

 移動しながら、自分の成長するイメージを考えたいそうだ。

 レティオールは、守護戦士として強くなりたいため、場所は問わないと発言する。

 強くなるのに場所は関係ないが、まだ購入出来ていないアイテムバッグを購入はしたいと笑顔で話す。

 優先目的は、職業スキルの習得だと語る目は真剣だった。

 結局、いくつかの町を渡りながらエルガレム王国に戻るということで合意する。

 王都に戻る期日があるため、ルートはリゼに一任された。

 しっかりとした目標を持っていること……周りに流されない意思の強さを感じたリゼは嬉しかった。


「私の我儘でもいいかな?」


 二人の優しさに甘える形になると思いながら、リゼは自分の意見を二人に伝えるつもりだった。


「うん、いいよ」

「リゼに任せているんだから、気にせずに言って」


 レティオールとシャルルから、優しい言葉が返ってくる。


「パマフロストに行ってみたい」


 アルドゥルフロスト連邦の一国パマフロストだった。

 銀髪に青い瞳……母親以外に同じ人間に出会ったことがない。

 自分の容姿からパマフロスト出身か? と聞かれたことを思い出した。

 自分の生い立ち……というより母親のことが分かるかも知れないと思い、パマフロストにあるパセキという村に立ち寄ることを決める。

 二人には話していないが、パマフロストからシークレットクエストのヴェルべ村を経由して、エルガレム王国の王都エルドラードに戻ろうと考えていた。

 幾つかの大きな町を経由するため、シャルルが気に入るブック魔法書や、レティオールのアイテムバッグを購入することも出来る。


 バビロニアを出立する馬車も、一時に比べれば落ち着いたので予約は簡単に出来た。

 ただ、以前に比べて運行している馬車の数は減っていた。

 バビロニアの迷宮ダンジョンが無期限の封鎖による影響だ。

 首都ラパンにバビロニアから移動してきた冒険者や商人たちが、スタンピードや迷宮ダンジョンのことを話すため、バビロニアが危険な状況だという認識だった。

 それを裏付けるかのように、国主からバビロニアへの渡航に関して、注意事項が発表された。

 国主は未だバビロニアに滞在しているので、結界石が機能していないことを首都に伝令を走らせた

 パマフロストまで直行する馬車は無いので、ラバンニアル共和国の首都ラバンまで一度移動してから、アルドゥルフロスト連邦の首都アルブレストを目指すことにする。

 リゼたちは世話になった人たちへの挨拶を今日中に済ませていた。

 残りはリャンリーだけだった……バビロニアに来て一番、世話になったからこそ最後にしたいと思い、宿屋に戻って来るのを待っていた。

 陽も沈み切った頃に戻ってくるリャンリー。

 その様子から、疲労が溜まっていることは明白だった。

 声を掛けることを躊躇っているリゼに気付いたリャンリーは、即座に笑顔を作った。

 自分のために、気を使ってくれたことに気付いていたリゼは、申し訳ないと思いながらもリャンリーに近付く。


「町を出るんだな」


 先にリャンリーが話し掛ける。

 リゼの表情から察したようだ。


「はい、いろいろとお世話になりました。本当に有難う御座います」


 リゼが頭を下げると、リャンリーはリゼ頭を激しく髪型が乱れるように撫でる。


「こっちこそ、有難うな」


 寂しそうなリャンリー。

 仲間を失い、顔見知りの冒険者たちもいなくなる。

 冒険者になって初めてのことで戸惑っていたが、それを表情に出さないようにしていた。

 笑って送り出すと決めていたからだ。


「私もリャンリーさんのように強い女性になりますね」

「おぅ、そうだな。ここで名付けられた宵姫の名が、噂で私に届くくらい強くなれよ」

「はい、頑張ります」


 リゼは笑顔で答えた。

 強くなる理由が一つ増えた瞬間だった。


「行き先は決まったのか?」

「はい。ラバンに寄ってから、アルドゥルフロスト連邦に入って首都のアルブレストに行こうと思っています」

「……パセキに行くつもりか?」

「はい。私の容姿からパセキに行くと思ったのですか?」

「あぁ、銀髪に透き通る白い肌は、あの村特有の特集だからな。私も詳しくは知らないが、その容姿から、一昔前までは物珍しさから観光客が多かったと聞く。それに――」


 これ以上は話さないほうが良いと気付き、リャンリーは口を噤んだ。


「私に気にせずに話してください」


 リゼの覚悟を組み、話を続けた。


「噂では人身売買が行われていると言われていた。あくまでも噂だ。貴族たちが銀髪で美しい女性を愛人にすることが流行ったと聞いている。私が冒険者になる前に聞いた噂だから、真意の程は知らない。だから、噂だから気にするなよ」

「有難う御座います」


 リゼは母親のことを重ねて、リャンリーの話を聞いた。

 母親は自分の妊娠と同時に、父親たちと別離したが、立場の弱い関係だったので愛人に近い立場だったのかも知れない。

 ただ……故郷の村に戻ったと聞かされていた。

 生まれ育った村が母親の故郷だと思っていたので、父親が母親の人身売買に関与していたのであれば、話の辻褄が合わない。

 そう考えると……幼い頃の記憶が蘇る。

 よく家に来ていた村長が、「金貨さえ貰っていなければ……」と冷たい目で、何度も見られたことを思い出す。

 今なら分かる。多分、村長は父親から母親と私を監視する報酬を貰っていたこと。

 母親が亡くなって、すぐに父親の使いの者が、自分を連れて行ったことにも納得がいく。

 あくまでも憶測だが、それが真実だと信じたい気持ちになっていた。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十四』

 『魔力:三十三』

 『力:二十八』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十六』

 『魔力耐性:十三』

 『敏捷:百八』

 『回避:五十六』

 『魅力:二十四』

 『運:五十八』

 『万能能力値:十四』

 

■メインクエスト



■サブクエスト

 ・殺人(一人)。期限:無

 ・報酬:万能能力値(十増加)

■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)

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