第267話

 リゼは、見たことのない黒い体に紅い目のヘルハウンドを相手にしていた。

 広範囲に攻撃が出来る魔法を使えるパーティーが、向かって来る魔物を駆逐する。

 自然とリゼたちは魔法攻撃に巻き込まれないように、魔法攻撃で仕留めきれなった魔物を相手にしていた。

 だが、魔物の数は一向に減る気配が無い。

 魔力が尽きる前に、魔術師たちを交代させて回復させる。

 シャルルも、他の冒険者を回復させていた。

 魔物の数と疲労の影響で、次第に押され始める冒険者たち。

 それは町に魔物の侵入を許すことを意味する。

 町に残っている冒険者たちの援軍を期待しながら戦い続けていた。


 前方の迷宮ダンジョン入口部では激しい戦闘が繰り広げられているのかさえ確認出来ない。

 魔物たちが町に向かっていることは間違いないが、その目的は?

 異なる種族の魔物が同じ行動をしている。

 シャルルから聞いた内容と違うため、戦いながら違和感を感じていた。

 その時、前方で大きな音を立てて視界を遮るくらいの土埃が舞う。

 視界を遮られて一瞬の隙に、魔物たちは一気にリゼたちの横を通り過ぎる。

 

(しまった‼)


 そう思った時は、既に遅く何匹も突破させてしまった後だった。

 土煙が引くと絶望の光景がリゼたちの目に飛び込んできた。

 迷宮ダンジョンの門……扉が破壊されていたのだ。

 当然、今までとは比にならない程の魔物が襲ってくると身構える。

 そして、閉門を阻止しようとしていたゴーレムも、一仕事を終えたかのようにゆっくりと進行を始めた。

 このゴーレムが扉を破壊したことは、近くで見ていない冒険者たちでさえ、説明されずとも明確なことだった。

 近くにいた魔物たちと戦闘を始めるが、扉が壊されたことで魔物の数が増える。

 ゴーレムが最後尾を守るかのように、ゴーレムの後から迷宮ダンジョンを飛び出してくる魔物はいない。

 その姿を見た冒険者たちはゴーレムが魔物たちに指示を出しているかのように映る。

 それは、ゴーレムは命令に従って動く魔物だということを忘れさせてしまうほどだった。

 ゴーレム討伐の難易度は、熟練された連携の取れたパーティーだ。

 今、バビロニアにいる冒険者たちで、そのパーティーに匹敵するのはリャンリーたちだ。

 しかし、何人かの冒険者が、この場にいないことをなんとなく分かっていたから、冒険者たちに「絶望」という言葉が頭に浮かんだ。

 迷宮ダンジョンの門が破壊されたことは、冒険者たちに精神的影響をもたらしていた。


 冒険者の何人かが、魔物たちの特徴に気が付く。

 たしかに戦っている魔物の体に、青白く光る小さな魔法陣のような印がある。

 倒された魔物は、絶命とともに印が消えるのを目にしていた。


「これは、魔物を誘導させる魔法陣です‼」


 一人の魔術師が叫ぶと、魔法陣に見覚えのある何人かの魔術師たちも思い出したかのように魔物に着いた魔法陣を見直す。

 すぐに町の中に魔物を誘導させる何かが設置されていることに気付くが、この場を離れることが出来ない。

 町の状況を気にしながら戦うことで、注意散漫な状態となってしまう。

 魔物に魔法陣を施すことは、とても困難で上級魔術師でも一握りしかいない。

 なにより術者しか解除方法が分からないので

 学習院などで一例として紹介する程度なので、記憶の片隅に追いやられる程度の知識だった。


 ゴーレムを追い越して、一人戻って来たリャンリー。

 一緒に向かった仲間は迷宮ダンジョンから出て来る魔物を警戒するため、待機させていた。

 そもそも人力で簡単に開閉できる扉ではないので、開閉装置が設けられている。

 その開閉装置もアルカントラ法国製で魔物の力よりも強いとされていた。

 迷宮ダンジョンの安全が崩壊し、アルカントラ法国に対しての信用を失ったことになる。

 そんなことを考えながら、リャンリーは苦戦しているこちらに急いで戻ってきた。

 流石というべきか、先程とは変わった戦況を一瞬で理解する。

 ゴーレムの所に向かう前は、他の冒険者たちに指示を出したりしていなかったのは、突然のことで周囲を気に掛ける余裕がなかったし、すぐに元凶となるゴーレムの所へ向かうことを優先にしていた。

 迷宮ダンジョンに潜っていることが多いため、ここで戦っている冒険者全員を詳しく知っているわけではないが、既に同じ魔物を攻撃している冒険者たちのリーダー格にだけ指示を出していた。

 指示を受けた冒険者たちも、リャンリーに従う。

 迷宮ダンジョンから、新たな冒険者が出てこないこともあり、徐々に戦況は冒険者たちが有利に傾く。

 スタンピードを聞きつけた町にいた冒険者たちも駆けつける。

 町への被害はあったが、最小限に抑えられたため、手の空いた冒険者たちは応援に駆け付けたそうだ。

 そのなかにギルドマスターの姿を見つけると、リャンリーは簡潔に説明する。

 町の中に魔物を誘導させている装置の破壊に何人かの冒険者を回すように話すと、すぐに冒険者たちと一緒に戻ることにする。

 ただ、その装置が簡単に破壊出来るかは、この段階では分からない。

 不安を抱えながらも、町へとんぼ返りする。


 増援のおかげでスタンピードを、この場で止めることが出来ると誰もが考えていた。

 その反面、大型魔物と言われても疑わないほどの大きさがあるゴーレムを止めなければ、スタンピードを止めたことにはならないことは、戦ってる誰もが分かっていた。

 目の前の戦闘で手一杯のため、言葉にこそ出さないが「リャンリーか誰かがゴーレムを討伐してくれる!」という期待……他人任せになっていた。

 それに魔物を誘導している物を破壊すれば、この進行が止まることも分かっているので、積極的にゴーレムへの討伐はせずにいたのだった――。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十三』

 『魔力:三十二』

 『力:二十七』

 『防御:十九』

 『魔法力:二十五』

 『魔力耐性:十二』

 『敏捷:百七』

 『回避:五十五』

 『魅力:二十三』

 『運:五十七』

 『万能能力値:五』

 

■メインクエスト

 ・スタンピードからバビロニアを防衛。期限:スタンピード終息まで

 ・報酬:達成度により変動。最高報酬(万能能力値:十増加)


■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


 ・殺人(一人)。期限:無

 ・報酬:万能能力値:(十増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)

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