第266話

 ――翌朝。

 いつも通り、朝は冒険者クエスト会館に寄る。

 その間も、リゼの頭の中はスタンピードのことで一杯だった。

 口には出さないが、レティオールとシャルルもリゼの違和感に気付いていた。


「今日も迷宮ダンジョンだね」

「仕方ないよ。目ぼしいクエストは先に取られてるからね」

「迷宮の方が勝手が分かっていいですしね」


 リゼの発言に同意すると三人は、いつもの道で迷宮ダンジョンへと向かう。


「あれ、なんだろうね?」


 レティオールが指差す方向に大きな土煙が見える。


「竜巻ってことはないよね?」


 不思議そうにシャルルが答える。

 すると、数人も冒険者が走って来る姿が見えた。


迷宮ダンジョンから魔物が出てきた‼」


 冒険者の表情から、嘘を言っているようには思えない。


「どれくらいですか⁉」

「どれくらいって……もの凄い数だ。お前たちも引き返した方がいいぞ」

「その魔物たちと戦っている人は⁉」

「その場のいたリャンリーたちと、何人かの冒険者が町に来ないようにと戦っている。俺は逃げ出したんじゃなくて、冒険者ギルドに報告するために走って来たんだ」


 そういう冒険者だったが、何人も同じように走ってきているので、本当は逃げてきたのだとリゼは疑ったが、そんなことよりも早くリャンリーたちを助けに行かなければという思いが強かった。

 それよりも自分の勘違いに後悔する。

 迷宮ダンジョンから魔物が出て来る……スタンピードが起きるなど想像していなかったからだ。

 レティオールとシャルルを見ると二人も頷き、迷宮ダンジョンへと走り出した。


「二人に聞きたいんだけど――」


 走りながらリゼはリャンリーとシャルルに尋ねる。

 迷宮ダンジョンには迷宮主ダンジョンマスターの意思に基づいて、迷宮ダンジョン内の魔物たちが生息している。

 それは迷宮ダンジョン内だけで、迷宮ダンジョンから出れば迷宮主ダンジョンマスターの管理化ではなくなる。

 迷宮ダンジョンから出た魔物が、どのような行動に出るのかを二人であれば何か知っているかと思ったからだ。


「ゴメン。僕も初めてのことだから……シャルルは、どう?」

「過去に、小さな迷宮ダンジョンで幾つか事例はあったと思う。迷宮ダンジョン内と違って、自我が芽生えて無意識のうちに押さえつけられていた感情が爆発して、凶暴になると教えられたかな……って、レティオールも一緒に習っていたでしょう⁈」

「えっ、そうだっけ⁉」


 とぼけるように答えるレティオール。

 リゼはシャルルの回答に引っ掛かるものがあった。

 それは「自我が芽生えて」という言葉だった。

 迷宮ダンジョンの魔物は、迷宮主ダンジョンマスターの所有物で、迷宮ダンジョン内にいる時は自我が無いという前提だとすれば、迷宮ダンジョンの魔物は迷宮主ダンジョンマスターの指示で動いていることになる。

 その魔物たちが自ら迷宮ダンジョンを出るということは、迷宮主ダンジョンマスターの意思に反することではないだろうか?

 徐々に戦闘音が大きくなると、激しい戦闘が行われていることが分かる。

 到着すると、迷宮ダンジョンの扉を大きな魔物が閉門を阻止するかのように抵抗していた。


「そんな……あれって、ゴーレムじゃ――」


 シャルルは大きな魔物を見て驚愕する。

 声にこそ出していないが、レティオールも同じだった。

 一度だけ遭遇して、敵わないと命からがら逃げてきた。

 レティオールにおいては、囮として置いて行かれそうになった経験から、明らかに委縮している。


 冒険者の間を抜けて来る魔物を発見する……スケルトライダーだ。

 他の魔物を相手にしているため、移動速度が早いスケルトンライダーに反応できずにいた。

 スケルトンが乗っている魔物が生前何かだったかは分からないが、凄い速さでリゼたちに迫ってくる。


「シャ……黒棘‼」


 慣れているシャドウバインドと唱えそうになり、すぐに言い直す。

 口に出さなくてもいいのだが、慣れの問題だった。

 スケルトンライダーを拘束したリゼは、そのまま攻撃に移る。


「リゼ、まだだ‼ 魔核を破壊するか、体から取り出して! 乗っていた武器を持っているスケルトンと、乗り物のスケルトン別々に魔核があるから‼」


 レティオールの言葉で、スケルトンライダーが活動可能だということに気付く。 

 すぐに胸中央に光っていた魔核を粉々に破壊すると、別々に動いていた骨の動きが止まる。


「レティオール、ありがとう」

「良かった。このスケルトンライダーも迷宮ダンジョンから出てきたってことだよね?」

「そうだと思う」

「……それは変だと思います。スケルトンライダーは、私たちも会ったことがありませんので、かなり深い階層の魔物です。なにより、魔物が迷宮ダンジョンから出ること自体……」

「それって、リャンリーさんたちは、もっと強い魔物を相手にしているかも知れないってこと?」

「多分……」

「とりあえず、リャンリーさんたちと合流をしよう」

「そうだね」


 三人は再び走り出してリャンリーたちと合流する。


「リャンリーさん‼」

「おぉ、リゼ。それにレティオールとシャルルも。悪いが長話していられる状況じゃないんでな」


 戦闘しながらリゼに冗談を言う余裕はあるようだった。

 だが、戦っている魔物は以前に戦ったミノタウロスや、初見の魔物が多いが戦闘の状況からも、明らかに中層よりも下にいる魔物たちだということだけは分かっていた。


「結界が機能していないのですか?」

「現状見る限り、そうとしてしか考えられないな」


 視線を合わせることなく、目の前の魔物を駆逐していく。

 ただ、明らかに冒険者の数が少ない。

 徐々に抑えられず、町へ向かう魔物たちが多くなる。

 町に残っている冒険者たちに託すしかない。


「ここを任せられるか?」


 リゼと視線を合わせたリャンリーは言い終わると、閉門を阻止しているゴーレムを見た。 

 何人かの冒険者たちは扉を閉めようとしながらも、出て来る魔物とも戦っている。

 リャンリーたちも一刻も早く、あの場所に向かいたいようだった。


「はい!」

「頼んだぞ。俺たちは、あのゴーレムをどうにかして、扉を閉めてくる」

「お願いします」


 リャンリーたちはゴーレムに向かって行く。


「リャンリーさんたち、人数少なくない?」

「そうね。多分、迷宮ダンジョンに取り残されているんじゃないかしら」


 走って行くリャンリーたちを見たレティオールが違和感を感じて、シャルルに聞いていた。

 リャンリーは仲間の生存確認もあるため、焦っていたのだとリゼは二人の会話を聞いていた。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十三』

 『魔力:三十二』

 『力:二十七』

 『防御:十九』

 『魔法力:二十五』

 『魔力耐性:十二』

 『敏捷:百七』

 『回避:五十五』

 『魅力:二十三』

 『運:五十七』

 『万能能力値:五』

 

■メインクエスト

 ・スタンピードからバビロニアを防衛。期限:スタンピード終息まで

 ・報酬:達成度により変動。最高報酬(万能能力値:十増加)


■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


 ・殺人(一人)。期限:無

 ・報酬:万能能力値:(十増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)

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