第257話

 カリスの家に戻ると、家の中にカリスの姿は無かった。

 てっきり、夜まで寝て過ごすと考えていたリゼは、カリスに対して失礼だったと反省する。

 今夜が最後になるので、家の掃除を始める。

 勝手に触ると怒られそうな箇所は残しておく。

 机の上に乗り棒で天井の蜘蛛の巣を払い終えると、床を掃く。

そして、拭き掃除を半分ほど終えたところでカリスが帰宅する。


「そんなに掃除しなくてもいいんだぞ?」

「いいえ。泊めさせて頂いたお礼もありますし、出来る限り綺麗にして帰りたいと思っていますが……駄目でしょうか?」

「私としては有難いからいいんだが……」


 カリスとしてはリゼに掃除をしてもらっても、数日で汚れてしまう自覚があったため、罪悪感から申し訳ない気持ちだった。


「では、気のすむまで掃除させて下さい」


 リゼはカリスの了承を得たということで、掃除を再開した。

 カリスは黙って、その様子を見ながらリゼから譲ってもらった短刀を触る。

 小さい体で機敏に動くリゼが成長したら、どんな姿になるだろうと想像していた。

 可憐に舞いながら戦うのだろうと思いながら、今の防具もいずれは小さくなり買い替える時期が来る。

 これもなにかの縁だとカリスは、掃除中のリゼに話しかける。


「もし、防具が小さくなったりしたら、バビロニアの宿屋を訪れろ。すぐとはいかないが、防具も新調してやる」


 リゼは首を左右に振り、カリスの申し出を断る。

 カリスの好意に甘えることに抵抗があったからだ。


「そんなこと言うな。きちんと代金も貰う。高いかもしれないが商売だと思えば、変じゃないだろう?」

「ですけど……」


 困惑するリゼの表情を見て、本当に優しい子だと感じる。

 今まで出会た嘘をついてまで武具の製作を頼む者。

 断れば、報酬が足りないと勘違いをしてさらに高額な報酬を口にする。

 報酬を多めに支払えば、製作してもらえる……製作させることが出来ると思っている者たちとは雲泥の差だ。

 断られるほど、反対に製作してあげたくなってしまう天邪鬼な性格だと自嘲する。

 リゼはカリスが引かないことを感じ取り、カリスの思いを汲み取り頷いた。


「ありがとうな。最後の晩餐じゃないが、今晩はオスカーと三人で食事をするか?」

「はい」


 大勢だと自分が輪に溶け込めないため、三人での食事を提案してくれたのだと、カリスの気遣いに感謝する。

 どのみち、オスカーにも挨拶はするつもりだったので、リゼ的にも好都合だった。

 ただ、オスカーは黙々と作業をする口数が少ない印象だったので、会話の中心はカリスに任せることにする。

 夕食までは時間があるので、リゼは掃除を再開した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 夕食時前になると、カリスは一足先に出かけていった。

 行き先はオスカーの所だった。

 買い物してからオスカーの所へ向かうため、リゼは後から合流することとなる。


「これくらいかな」


 一通りの掃除を終えたリゼは、オスカーの工房に向かう時間になったので、掃除道具を片付けて、綺麗になった部屋を見て一礼する。

 食事後に戻って来るので、最後ではない。

 なんとなくそうしたいと思った素直な感情の行動だった。

 ドワーフ族に施錠という概念がないのか、工房や家は誰でも入れるようだ。

 だが、リゼが知らないだけで道具や武具を保管している場所には、施錠をして第三者が入れないようにしている。


 オスカーの所へ向かう道中、何人かから声を掛けられる。

 明日、ドヴォルク国を出立することを伝えると、名残惜しい言葉を掛けてもらえた。

 最後だからと、今夜は呑もうとも言われるが用事があるとだけ伝えて、その場を去る。

 カリスやオスカーたちのことを伝えると、無理にでも合流するかも知れないと考えて、敢えて名前を出さなかった。

 それに三人でと言ったカリスの言葉を軽んじることはしたくない思いもあった。

 改めてドヴォルク国の街並みを見る。

 同じように見えた工房も見方を変えたせいか、細かく違うことに気付く。

 一概に武具といえど製作工程に違いがあり、武器専門のなかでも、剣などに特化した工房など細分化されていた。

 カリスやオスカーのように、どの武具でも高品質の物が製作できるのは特殊だ。

 だからこそ、名匠と言われているのだろう。

 そう考えながら、腰に差している宵姫を触る。

 名匠に製作して貰った武器の重みを改めて認識していたと同時に、今更ながら使いこなせるかの重圧を感じていた。


 オスカーの工房に到着するが、カリスとオスカーの姿が見えない。

 奥の部屋かと思い進むと、談笑している二人がいた。

 入室したリゼを椅子に座らせて、改めて三人での食事会が始まる。

 いつものように酒を浴びるように呑むわけでなく、会話を楽しみながら食事をしていた。

 会話と言っても、カリスが話の大半を占める。

 オスカーはカリスの質問や、意見を聞かれた時に答えるだけ、リゼに至っては相づちを打つしか出来なかった。

 それでもカリスの話は面白かった。

 オスカーはドヴォルク国以外の世界を知らないので、カリスの話は新鮮だったようで楽しそうに聞いている。

 生まれてから死ぬまで国外に出ない生活。

 しかもドワーフ族は長寿族だ。

 自分と違うオスカーたちは辛いのか? それとも幸せなのかとも考えながらカリスの話を聞いていた。

 各国での武具の扱いや、珍しい武器の話をするとオスカーの目の色が変わる。

 言葉で伝えきれないと感じたカリスは、オスカーに絵というか図に近いものを書いて説明を始めた。

 手の届くところに書くものがあるのは、普段からこういった会話がされているため用意されていた。


「あっ! これ、使っている人を見たことあります」

「ほぉ、それは珍しいな」


 リゼはレイピアを指差す。

 レイピアはバビロニアに来る時に馬車で一緒にいたエンヴィーが使用していた武器だ。

 カリスはレイピアの特徴を教えてくれる。

 他にも特殊な剣のことを教えてくれるが、リゼは気になる形状の件があった。


「これって、なんていう名前の剣ですか?」

「これはショーテルだな。厄介な武器だぞ」


 ショーテルという武器は大きく弧を描く三日月のような形状だった。

 もし剣で攻撃を防いでも弧を描いているため、反転させると切先が体に突き刺さる。

 それに弧を描いているため、直線的な剣よりも攻撃が届くのが早い。

 戸惑っている間に倒されてしまう。

 そんな恐ろしいが普及していないのは、扱いが難しいのが理由らしい。

 他の武器についても説明をしてくれるが、徐々に専門的な話をカリスとオスカーが始めたため、リゼは会話に入れなくなった。

 だが、少しでも知識を得られたことにリゼは満足していた。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十三』

 『魔力:三十二』

 『力:二十七』

 『防御:十九』

 『魔法力:二十三』

 『魔力耐性:十二』

 『敏捷:百六』

 『回避:五十五』

 『魅力:二十三』

 『運:五十七』

 『万能能力値:二』

 

■メインクエスト

 ・ドヴォルク国王を満足させる。期限:七日

 ・報酬:万能能力値(三増加)


■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


 ・闇糸の習得。期限:二十日

 ・報酬:魔法力(二増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加) 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る