第258話
ドヴォルク国を出立する朝になる。
朝の弱いカリスだったが起きて、門まで送ってくれた。
「じゃあ、元気でな」
「いろいろと御世話になりました。この宵姫は大事に使わさせて頂きます。カリスさんもお元気で」
カリスがリゼの体を抱きしめる。
突然のことでリゼは固まる……そして、懐かしい感触に包まれた。
抱きしめ終えると、優しい目で「行け」と言ってるようだった。
最後にもう一度、カリスに頭を下げて感謝の意を伝える。
顔を上げると視線が重なり、お互いに「これ以上の会話は必要ない」と感じ、無言のまま別れる。
門衛に自分の名を告げると、丁重な受け答えをされて商人の所へと案内された。
「ヤンガスさん。こちら、お話させて頂いた冒険者のリゼ様です」
「リゼです。宜しくお願いします」
「こちらこそ、宜しくお願いします。護衛の冒険者は外で待っていますので、後で紹介します」
「はい、分かりました」
その後、話を聞いていくと、ヤンガスたちはバビロニアを経由して地元に戻るそうだ。
「聞くところによると、リゼ殿はかなり優秀な冒険者のようですね?」
「い、いいえ‼ そんなことありません」
ヤンガスに自分のことが、どのように伝わっているのか不安になる。
「優秀な冒険者に護衛していただけるとは、こちらとしてもありがたいことです」
「……」
どこかで話が間違って伝わっているのだろうと思いながらも、無料で馬車に乗れると思っていた自分が間違っていたのではないかとも思いながら、ヤンガスに追求することが出来なかった。
「では、行きましょうか」
「はい」
ヤンガスと共にドヴォルク国を出国する。
短い期間であったが忘れることが出来ないくらい記憶に刻まれるほどの経験をした期間だった。
最後に門を出る前、ドヴォルク国に軽く頭を下げる。
門の外には四人の冒険者が野営を片付け終えた直後らしく、慌ててヤンガスを出迎えた。
リゼは初めて見た女性だけのパーティーに、少しだけ驚く。
ヤンガスから彼女たちを紹介してもらう。
前衛は騎士のマチスに、重戦士のナヨク。
後衛には中級魔術師のシキギと、回復魔術師のミズキの姉妹だ。
「リーダーのマチスです。宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」
マチスの丁寧な挨拶にリゼも同じように丁寧に挨拶を返す。
ナヨクは女性とは思えないほど、背も大きく筋肉質で性格も豪快なようで、華奢なリゼを子供のように扱う。
シキギとミズキは軽く頭を下げるだけだったが、警戒心を抱いているようだとリゼは感じる。
「一緒に護衛をしていくうえで、リゼさんのことを教えて頂けますか?」
「はい、分かりました」
リゼは簡単な自己紹介をする。
職業が忍のランクBだと伝えると、聞きなれない職業にマチスたちは顔を見合わせていた。
補足説明として、盗賊から転職したことを伝えると、前衛職だということは理解したようだった。
時間が迫っているので、とりあえず馬車に乗り込む。
基本的には四人で対応するそうだ。
相手が単体の場合は、リゼの実力を確認することも踏まえて、リゼ一人で対応することとなる。
ヤンガスはドヴォルク国から頼まれた物を納品する商人だった。
武具の購入はせずに、使用しなくなった素材などがあれば買取をすることもしてるが多くは無いため、帰りの荷は無く広いスペースにシキギとミズキ、リゼの三人が座る。
リゼもミズキも人見知り気質なので、積極的に言葉を発しない。
シキギはリゼを警戒しているが、後方の様子に神経を尖らせていた。
路面の音と荷馬車の軋む音がするなか、リゼの目の前に突然クエスト達成の表示が現れる。
『メインクエスト達成』 『報酬(万能能力値:三増加)』と……。
声を出しそうになったが、寸前のところで抑える。
クエスト内容のドヴォルク国王を満足させる……リゼにとって、全く心当たりがないので、少しだけ考える。
(もしかしたら、ナングウさんが‼)
ドヴォルク国王と接点がある知り合いと言えば、ナングウしかいない。
自分が忍だったことが関係しているとも思いながら、ナングウに渡した果汁酒のことを思い出す。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――リゼが出国する少し前。
ドヴォルク国では、国王ヴォルクがナングウと、宰相のビドロの三人で話をしていた。
議題はリリア聖国のことだった。
随分前からドヴォルク国に対して、リリア聖国に高ランクの武具を卸すようにと通達していた。
しかし、ドヴォルク国が特定の国に肩入れすることはない。
よって、リリス聖国に応えることは無かった。
なにより、同盟国であったヤマト大国を侵略したと考えているため、リリア聖国に対して不信感しかない。
それに戦争に自分たちの武具が使用されることを、良く思っていなかった。
「我らも改革の時が迫られているのかも知れんの」
重い口調でナングウが話すと、ヴォルクとビドロも険しい表情でナングウの言葉を受け止める。
「私としてはリリア聖国に肩入れするのは反対です。もし、同盟を結ぶのであれば、エルガレム王国か、ラバンニアル共和国でしょう。アルカントラ法国は明確にリリア聖国と敵対することを意味しますし、他国ですと地形的にも同盟の意味がありません」
「たしかにそうだな……父上はどう考えますか?」
ヴォルクはナングウのことを”父上”と呼んだ。
現国王ヴォルクは、ナングウの息子だった。
世襲制を反対する国民はおらず、ナングウが退いた後の国王は彼しかいないと誰もが思っていた。
代々、国王はヴォルクと名乗ることとなっているので、ヴォルクの名はナングウから引き継がれた。
「国として考えるのであれば、間違いなくエルガレム王国じゃろう。国を見て回ったが、間違いなく素晴らしい国じゃった」
「そうですか……結論は急がないにしても、エルガレム王国と同盟ということで、他の者たちの意見を聞いてみるが、ビトロも異論は無いか?」
「御座いません。私もナングウ様と同じで、エルガレム王国と考えておりました」
「分かった。では、明日にでも皆を集めてくれ」
ビドロは頷き「承知しました」と答えた。
この問題もそうだが、国外を回っていたナングウの意見を聞いていた。
ナングウは国王を退いた後、国外に出ることでドヴォルク国の力になろうと考えていた。
「そういえば、珍しい果汁酒が手に入ったぞ」
「珍しい果汁酒?」
「これじゃ」
ナングウはリゼから貰った十五年物のレトゥーリアンを使用した果汁酒を二人に見せる。
「これは……生産量が少なく幻と言われている果汁酒‼ 一体、どこで手に入れたんですか!」
ヴォルクは興奮していた。
隣にいるビドロも生唾を飲み込んでいた。
「知り合いのリゼちゃんにお礼ということで貰ったんじゃ。とりあえず、少しだけ頂こうかの」
「いいのですか‼」
ヴォルクより先にビドロが声をあげたが、我に返りヴォルクとナングウに謝罪をする。
ビドロの果汁酒を呑みたい気持ちが伝わり、ナングウは笑っていた。
手前に置かれたグラスに残った飲み物を飲み干すと、ナングウが空いたグラスに果汁酒を注ぐ。
「では、リゼちゃんに感謝して呑もうかの」
再度、グラスを重ねて果汁酒を呑む。
「これは‼」
あまりのビドロは驚き、ヴォルクは言葉を失いグラスに残った果汁酒を、じっと見つめていた。
「素晴らしい出来ですね。これを作った職人には感服します」
職種は違えど、物を作りだす職人としての言葉だった。
残った果汁酒を一気に飲み干して堪能する。
それはヴォルクが果汁酒に満足した瞬間だった。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十三』
『魔力:三十二』
『力:二十七』
『防御:十九』
『魔法力:二十三』
『魔力耐性:十二』
『敏捷:百六』
『回避:五十五』
『魅力:二十三』
『運:五十七』
『万能能力値:五』(三増加)
■メインクエスト
■サブクエスト
・瀕死の重傷を負う。期限:三年
・報酬:全ての能力値(一増加)
・闇糸の習得。期限:二十日
・報酬:魔法力(二増加)
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)
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