第251話

 サイゾウの話を聞いて、スキルに依存していたことに気付かされる。

 長年の鍛錬の末、習得した技術の重さを知る。

 操糸は、あらかじめ武器などのアラクネの糸を仕込む必要があり、糸も頑丈なので力を入れれば切断することも可能らしい。


「似た術もありますが」


 サイゾウは足元の小石を拾うと、先程と同じように板に向けて投げると、小石は板に少しだけめり込み、地面に落ちた。

 そして、先程のクナイと同じように手元に戻って来た。

 ただ、違うのは小石に黒い糸のような物が、はっきりと見えたことだ。


「これは操糸と似ていますが、忍として初歩の術です」


 アラクネの糸の代わりに影を使用したそうだが、影が出来る状況が必要だった。

 術を見せることを嫌っていると思っていたリゼは、サイゾウの行動に疑問を感じていたが、隠すような術でもないという回答に納得する。

 自分も習得できる可能性があることに期待していた。

 改めて、クナイの基本的な投げ方をサイゾウに聞く。

 幾つかの修正内容を聞くと、良い感じで投げられるようになる。

 狙った場所に当てることはまだ難しいが……。

 反復練習あるのみだと、リゼは投げてはクナイと取りに走り又、投げるを繰り返す。

 暫くリゼの様子を見ていたサイゾウだったが、リゼに戻ることを伝える。

 リゼは再度、サイゾウに礼を言うと、頭を下げると一瞬で姿を消した。

 一気に三本のクナイを投げたサイゾウの姿が目に焼き付いている。

 その理想の姿を思い出しながら、何度も何度もクナイを投げ続けた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「なんだ、リゼか」


 窓からカリスが顔を出す。


「うるさかったですか?」

「いいや、目を覚ましたら聞きなれない音がしただけだ」


 寝ぼけ眼で頭を掻く。


「私は、もうひと眠りするから夕飯時になったら起こしてくれるか?」

「はい、分かりました」


 夕食時になれば、誰か彼かは家を訪れると思っているだろうと思いながら、再びクナイを投げる練習を再開した。

 何十回に一度だが、腕を振り抜く早さに角度、そしてクナイを離すタイミング全てが一致した時、腕自体が軽くなるので、投げた瞬間に良い感じなのが分かる。

 この感覚が当たり前になるように投げ続けた。

 指と指の間の皮がめくれ、血が垂れる。

 痛みを感じながらも、投げることを止めなかった。

 程よい脱力感が、腕にしなりをつくることや、クナイを離すタイミングが、サイゾウの投げる動作に近くなる。

 だが、意識をすれば、上手く投げられずにいた。

 なまじ上手く投げられたという意識があったため、リゼはフラストレーションは溜まっていく。

 そして、クナイが血で滑るようになると、リゼの握力もなくなり、左手に激痛が走る。

 血だらけの左手を見ながら、ここまでしても上達しないことへの憤りを感じていた。

 一朝一夕で習得できる者ではないと頭で分かってはいるが、心が納得していなかった。

 メインクエスト失敗で、能力値が下がってしまった。

 強くならなければという焦りがリゼを突き動かしていた。


 カリスに来客なのか、家の方から大きな声が聞こえてきた。

 聞き覚えのある声の主はスミスだった。

 家に中で寝ているカリスに気が付かないのか、入り口でカリスの名を叫んでいた。

 リゼが駆けつけて、奥で寝ていたカリスを起こす。

 後ろにはスミスもいるが気付かずに、目を覚ましても寝ているように視線が定まらず、再び目を閉じる。


「起きろ、カリス」


 再び寝そうになったカリスの頭を思いっきり叩く。

 その痛みに目が覚めたのか、不機嫌そうに睨んでいた。


「もう少し、寝かせてくれよ」


 周囲を見て、まだ陽が落ち切っていないのに気付いた。

 しかし、スミスが取り出した物を見て、カリスの目が覚める。


「お前が武器を作っているって聞いてな。以前に預かっていた物を返しに来た」

「あ~、そんなこともあったな」

「次に作る武器に使うと言っていただろう。作業しているのは聞いていたが、邪魔になると思ってな」

「面倒臭いな……今朝、打ち終わったところだぞ」

「打ち直せばいいだろう?」


 カリスとスミスの会話にリゼはついていけていなかった。

 なにより、スイスが出した鉱石がなにかさえ分かっていない。

 スミスの出した鉱石は”ヒヒイロカネ”で、希少な鉱石の一つだ。

 アダマンタイトよりも希少な鉱石だ。


「悪いが、今回は使うつもりはないんで、又暫く預かっておいてくれ」

「おいおい。今を逃したら、後何年待てばいいんだ?」

「私の気が向くまでだ。頼むよ」

「ったく……しょうがねぇな」


 スミスは諦めたのか、面倒臭さと少しだけ嬉しいのが混ざった表情を浮かべていた。


「今回はダークドラゴンの爪を使用しているから、相性が悪いだけだ」

「そういうことか……それなら仕方がないな」


 武具職人同士の会話を理解することなく聞き続けるリゼ。

 その後も二人の会話は一時間以上も続いていたが、酒樽を持って来たドワーフの登場とともに、話を切り上げて宴へと移行する。

 話の途中だったのかとも考えていたリゼだったが、何事もなかったかのように呑み続けるカリスとスミスを見ながら、部屋の隅で左手の手当てをする。

 以前にも同じようなことがあったことを思い出しながら、成長していない自分を情けないと感じていた。

 手当てを終えると、机の上に置いたクナイも綺麗に吹く。

 あれだけ板に打ち付けていたのに刃こぼれどころか、切れ味も落ちていない。


「ほぉ~、いい物を持っているな」


 話し掛けてきたのはカシムだった。

 カシムもスミスもそうだが、昨日までのカリスたちのように夜通しで作業はしないのだろうか? と疑問を感じながらも表情に出さぬようにカシムとの会話をする。


「ハンゾウさんからの頂き物です」

「ほ~、ハンゾウの奴が」


 置いてあるクナイを手に取り笑っていた。


「それで、どれが一番いいクナイだと思った」

「えっ!」


 手に持っていたクナイを机に置いて、リゼに質問をする。

 三本のクナイの優劣など考えたことなかった。

 個体差でもあるのかと思い、机の上に置かれた三本を見比べてみる。

 だが、違いが全く分からなかった。

 適当に答えてもいいがリゼの性格上、それは出来なかった。


 クナイを比べながら、細かな違いなどを見つけようとする。

 違いを見つけるのが目的ではない。

 一番いいと思ったクナイがどれかだ……。

 真剣に考える姿が面白く映ったのか、リゼとカシムの周りに人が集まってきた。

 


――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十一』

 『魔力:三十』

 『力:二十五』

 『防御:十七』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十三』

 『敏捷:百一』

 『回避:五十三』

 『魅力:二十一』

 『運:五十五』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト



■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加) 

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