第249話

 カリスとの会話の途中だったが、リゼには気になっていることがあった。

 メインクエストが発生しない。

 リゼの予想では『名匠による武器の制作』を受注できると思っていたからだ。

 今ならクエスト達成できるという思いが、リゼには強くあった。

 だが、自分のスキルはそれに応えてくれない。

 悲しさと、むなしさを感じていた。


 カリスはオスカーに一つの提案をする。

 それは、一緒にリゼの忍刀を製作しないかということだった。

 カリスの助手として手伝って欲しいということ。

 オスカーにとっては願っても無いことだった。

 憧れの武具職人の武器製作を間近で見ることが出来る。

 当然、断る理由などないオスカーは即答する。 


 その時、リゼの目の前に『メインクエスト』の表示が現れる。

 『自分の武器の製作完成まで、全ての作業に立会う。(休憩時間:九十分)期限:製作終了まで』『報酬(能力値:ランダムで一つ五増加)』と表示されていた。

 思っていたクエスト内容と違うことが残念だったが、武器製作に立ち会うだけにしては報酬が良いと表示を眺めていた。

 カリスたちに忍刀の製作に立会いたいと願い出る。

 自分の武器の製作に立会いたいというリゼの思いに、カリスもオスカーも快く承諾する。

 だが、製作中は相手をしていられないことを伝える。

 リゼも製作の邪魔をするつもりはないので、黙って見ているとだけ伝える。

 オスカーの工房を借りるそうで、カリスとオスカーは準備に取り掛かる。

 ナングウは用事があるそうで一旦、この場を離れるが後で戻って来ると言い去って行った。

 カリスにダークドラゴンの爪を渡す。

 その時にイディオームから貰ったアダマンタイトも使えないかと差し出すと、カリスはとりあえず受け取る。

 素材にも相性というものがあるそうなので、使用するかは考えるそうだ。

 料理と同じようなものなのだと聞いていた。


 近くにいると危険ということで、少し離れたところで製作する様子を見ることにする。


「さぁ、始めるか」


 カリスの声でリゼの忍刀の製作が始まった。

 離れているが、思っていたよりも熱気が凄い。

 カリスは、いつものふざけた表情ではなく真剣な眼差しだった。

 オスカーとも阿吽の呼吸で作業を進める。

 休憩を取らずに、ひたすら鉄を打ち続けるカリスとオスカー。

 ただ、立って作業の様子を見ているリゼだったが、作業場の熱さで思った以上に体力が奪われていく。


 ――何時間経っただろう。

 同じ作業の繰り返しだった。


「ふぉふぉ、順調かの?」


 ナングウが用事を済ませて戻って来た。


「あれは鉄と素材を合わせながら、不純物を取り除く作業での最低でも三日三晩は続くかの」

「三日三晩ですか……」


 解説してくれたナングウの言葉に絶句する。

 鉄を打って刀の形にしてから研ぐという認識しかなかったからだ。

 カリスとオスカーたちは三日三晩は集中を継続しながら、ひたすら打ち続ける。

 まだ、材料を作っている最中だった……。


「疲れているじゃろうから、あっちの椅子に座ってみてはどうかの?」


 正直、立ち続けることに疲れていたので、ナングウの言葉に甘えて、今の場所よりも少し離れた場所に設置されていた椅子まで、ナングウと一緒に移動する。

 少し離れただけなのに肌に感じる温度が全然違った。

 外から吹き込んでくる風が、とても心地よい。


「これも飲むとよかろうに」


 ナングウはリゼの脱水症状を心配して、飲み物を用意してくれていた。

 ドヴォルク国の飲み物らしく、少しだけアルコールが入っていると教えてくれた。

 一応、リゼにも飲めると思いナングウが用意したようなので、リゼは喉の渇きもあり、その飲み物を一気に飲み干す。

 その様子にナングウは驚くが、よほど喉が乾いていたのだとリゼの体調を気にする。


「やっているな」


 工房の入口に体格の良い男性二人が立っていた。


「おぉ、カシムにスミス。遅かったの」

「ナングウ様。遅くなりました」

「こいつが用意に手間取っていたので」

「お前だって、迎えに来るの遅かっただろうが」

「何を言っている‼」

「二人とも喧嘩するんじゃない」


 ナングウが二人を諫める。

 ナングウは二人のことを”カシム”と”スミス”だと言った。……名匠二人の名だ。

 一言でいえば、豪快という言葉がピッタリだ。

 それは話し方も同じだった。

 リゼとも気さくに話す姿は、カリスを彷彿とさせる。

 やはり名匠は、似た性格なのだと勝手に納得していた。

 自然とオスカーの話に変わっていく。

 ナングウに対して、カシムとスミスから見たオスカーについて話すようだった。


「スランプというより、自信がないからか思っていた物が出来ないんでしょう」

「同意見ですね。俺たちには無い女性ならではの感性の武器に感心していたんですが……」

「ふぉふぉふぉ。お主たちだって、何度も壁にぶつかっておったであろう。その度に不機嫌になるから、周りは大変じゃったのだぞ」

「それは――」


 痛いところを突かれたのか、申し訳なさそうに苦笑いをする。


「まぁ、その心配も大丈夫じゃろう」


 ナングウの視線は作業をするオスカーに向けられていた。


「そのようですな」

「あぁ、あの目を見れば分かります」


 カリスを手伝うオスカーの目は、以前と違うようだった。

 スミス曰く、「生きた目をしている」そうだ。


「それで、あいつは何を打っているんだ?」


 スミスの質問にナングウが「リゼの忍刀」だと伝えると、カシムとスミス二人の目の色が変わる。


「忍刀ってことは……忍なのか?」

「はい、盗賊から転職しました」


 カシムの質問にリゼは敢えて、転職という言葉を付け加えて答えた。

 ドヴォルク国とヤマト大国の関係を知っていたからだ。


「コジロウやハンゾウとは?」

「昨日、カリスと一緒に挨拶に行っておる」

「そうですか」


 ヤマト大国だけでなく、ドヴォルク国にとっても”忍”という職業は特別なんだと感じた。

 昨日、コジロウたちから聞いたヤマト大国の歴史に大きく関係しているのだろう。

 それ以上のことをカシムとスミスは聞いて来なかった。

 コジロウたちと話をしたことで、なにかしら納得したのだろうと、リゼは推測する。

 リゼはカリスたちが持って来た飲み物を、無意識に口にする。

 いままで味わったことのない喉が焼ける感覚を感じた。

 咽るリゼに驚く、ナングウたちはアルコール度の低い飲み物を出す。


「すみません」


 リゼは自分の不手際で迷惑をかけたことを謝罪する。

 安心したナングウたちは、リゼを気に掛けながら別の話を始めた。

 三人の話はリゼに関係ないということもあり、リゼはカリスとオスカーの作業を見続けていた。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:四十一』

 『魔力:三十』

 『力:二十五』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:百一』

 『回避:五十三』

 『魅力:二十四』

 『運:五十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・自分の武器の製作完成まで、全ての作業に立会う。期限:製作終了まで

 ・報酬:能力値(ランダムで一つ五増加)


■サブクエスト

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加) 

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