第233話
冒険者ギルドに、ミノタウロス襲撃の報告をする。
犯人はまだ見つかっていない。
だが、襲撃を受けたリャンリーたちは嘘をついているように思えた。
犯人を知って隠しているか、それとも仲間を殺した犯人を自分たちの手で――。
リャンリーの仲間たちからも、シャルルは感謝される。
シャルルが治癒師を回復させなかったら、この場に立っていることさえ出来ない冒険者が多くいたからだ。
クランではないが長く共に
仲間意識が強いのもリャンリーのパーティーの特徴だった。
商業ギルドでミノタウロスの素材を持ち込むと、希少な素材に商業ギルドがざわめく。
「こっちの二体分は、リゼたちに回してくれ」
リャンリーはジャンロードの言ったことを引き継いでいた。
ミノタウロスの魔核の買取価格もかなり高い。
それに加えて、ミノタウロスの攻撃で破壊されたレティオールの盾や、シャルルの服購入に使ってくれと、リャンリーたちから通貨を貰う。
必死で断るレティオールとシャルルだったが、気持ちだから受け取ってくれと強引に押し付けられた。
今回のことで、レティオールとシャルルのことはバビロニアでも名前が知られることになる。
もちろんリゼもだが、リゼの場合は間違った噂が広まる。
実際は一体も倒していないが、冒険者ギルドへの報告の際に証拠として、ミノタウロスの魔核を二つ差し出したことが原因だった。
この噂がリゼの耳に入るのは数日後だった――。
商業ギルドでの用事を終えたリゼたちは、商業ギルド会館でリャンリーたちと別れる。
「いろいろと大変だったから、宿に戻る?」
「いいえ、大丈夫です。その……職業案内所に行きたいのですが」
「うん、いいよ」
解呪されたことで本来の能力を取り戻した。
今までの自分には自信がなかったが、それが間違いだったと確信するために必要なことだった。
職業案内所でリゼは有名になっていたので、視線が集まる。
混み合うなか、シャルルは並び転職の手続きをする。
転職できるのは”治癒師”だけだった。
とはいえ、冒険者を始めて間もないシャルルが治癒師になれるだけでも凄かった。
それだけ毎日何回も何回も回復魔法をかけ続けたのだろう。
治癒師になれたことで、少しだけ自信を取り戻す。
まだ、元気があるようだったので、そのまま武具屋へ行くことにした。
「レティオールは壊れた盾の購入ね。シャルルは新しい服だよ。必ず気に入った物を選んでね」
リゼは念を押す。
今回のミノタウロス討伐で得た通貨は予想外に多かった。
冒険者ギルドからも謝礼が多く出た。
そもそも、ミノタウロスは二十三階層くらいで出現する。
凶暴なため要注意とされる魔物だ。
リゼも飛び出して二階層へ行ったことが軽率な行動だったと反省していた。
リャンリーとジャンロードがいなければ、間違いなく死んでいただろう……。
「これ、どうかな?」
シャルルが気に入った服を持って、リゼの意見を聞きに来た。
「うん、似合っていいると思うよ」
リゼの言葉にシャルルは笑顔になる。
久しぶりに見る顔だった。
笑顔にならないと、話し掛けた人が不安になることをリゼは知る。
自分もいままで、このような気持ちを何回も相手にさせていたのかと考える。
レティオールは店主に話を聞いているようだった。
気に入った物がないのか、価格が高すぎて悩んでいるのか分からない。
装備も剣士時代の物なので、装備としては買い替えるべきなのだろう。
店主がレティオールと離れたので、レティオールとシャルルを呼ぶ。
「どうしたの?」
「何かあった?」
急に呼ばれた二人にリゼは通貨の入った袋を出す。
「今回のミノタウロス討伐の分も入っているから」
「でも討伐したのはリゼだし……」
「違うよ。シャルルたちが来てくれたから、多くの冒険者が助かったんだよ。それに報酬は三等分という約束でしょ」
「うん、ありがとう」
袋を受け取った二人は予想以上に重いことに驚く。
中身を見てさらに驚いていた。
「こ、こんなに……」
「きちんと三等分しているし、リャンリーさんたちから貰った通貨も足してある。これが二人の全財産になるのかな?」
自分たちがどれだけの通貨を所持しているかを明確に分かっていないだろうと思い、リゼは実感させるために持たせた。
無駄使いせずに最低限の物だけ購入をしていた。
三人とも質素な生活に慣れていたので、誰からも文句は出なかったし、それが普通だった。
宿で報酬の分配時も、それぞれ分けた通貨をレティオールとシャルルの袋に入れて、リゼのアイテムバッグに戻す作業だったからだ。
基本的にリゼが支払い、あとで回収の繰り返しだったので、そろそろアイテムバッグを購入して自分で管理するには、いい機会だと思った。
今まで貯めた通貨とミノタウロス討伐の報酬で、アイテムバッグを購入出来るくらいはあるはずだ。
シャルルは堅実なのか、先程選んだ服の付与効果などを聞き、購入を決める。
そして、それに合うアイテムバッグも購入した。
気に入った杖もあったが、もう少し後に購入するか、
購入する際に取り扱い方法などの説明を受ける。
隣にいたリゼも何となく話を聞いていた。
「アイテムをしまうときは、アイテムバッグに近付けると自動的に収納されます。反対に取り出すときは、手を入れて取り出したい物を頭の中で思い描くか、心の中で念じてもらえれば大丈夫です」
「その……アイテムバッグに中身を確認したい場合は、どうすれば良いですか?」
「そういった時は、アイテムバッグに手を入れて”リスト”と心の中で言ってください。ステータスを開くときと同じ要領です」
リゼはアイテムバッグの知らない機能に驚きながらも、自分のアイテムバッグに手を入れて「リスト」と心の中で呟く。
すると目の前に収納された物の一覧が表示された。
視線を動かして、取り出したい物を頭に浮かべると、手が何かを掴んだ感触になる。
便利な機能だと思いながら、自分が聞き漏らしたのか忘れていたのか、それとも説明されていなかったかは今となっては分からない。
レティオールは、相変わらず悩んでいた。
なんとかシリーズという一体感がある装備だったが、盾などの装備と剣を一式を購入するとかなりの高額になる。
「気に入ったのなら、私が貸すよ」
「でも……」
「盾が無いと
「そうだよ。レティオールがいないと、私なんてすぐに死んじゃうかもしれないよ」
リゼとシャルルの好意に甘えて、レティオールは武器と装備を一式購入する。
ただし、アイテムバッグを購入することは出来なかったので、暫くはシャルルのアイテムバッグに入れさせてもらうそうだ。
大きな買い物に店主も喜んでいた。
レティオールの防具の調整に時間がかかるそうなので一旦、武具屋を出て軽めの食事をすることにした。
リゼは事後報告になるが、分配した内容を二人に説明をする。
「これで二人とも、一人前の冒険者だとバビロニアの冒険者から認知されたね」
「それはリゼも同じでしょう」
「うーん、どうだろうね。私の場合は……」
いずれは王都に戻ることになる。
そのことが二人を裏切る行為では無いかと考えると、少しだけ胸が痛くなった。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十一』
『魔力:三十』
『力:二十五』
『防御:二十』
『魔法力:二十一』
『魔力耐性:十六』
『敏捷:百一』
『回避:五十三』
『魅力:二十四』
『運:五十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
・購入した品を二倍の販売価格で売る。
ただし、販売価格は金貨一枚以上とすること。期限:六十日
・報酬:観察眼の進化。
■サブクエスト
・瀕死の重傷を負う。期限:三年
・報酬:全ての能力値(一増加)
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)
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