第219話

「残念ですが、リャンリーさんは戻ってきていませんね」


 リゼの思いとは裏腹にリャンリーは宿にいなかった。

 やはり迷宮ダンジョン内にいるのだろうと落胆する。


「そのフルオロさんという冒険者から、バビロニアに着いたらリャンリーさんを訪ねろと言われまして、戻られたら教えてもらうことは可能ですか?」


 リゼは嘘ではないとフルオロからの招待状見せる。


「そうですね……戻られたら、リャンリーさんにお伝えします」

「ありがとうございます」


 リゼは自分の部屋へ移動すると、読みかけの魔物図鑑を再読する。

 今日戦ったストーンスネークやロックステーク、ジャンボラットにマッドバット。

 五階層で苦戦したスワロウトードにシェイプシフター。

 そして、悲惨な目にあわされたにスクィッドニュート。

 記載してある内容と自分の経験を比べてみるが、シェイプシフターとスクィッドニュートの内容に気になる点があった。

 シェイプシフターは冒険者に成り代わり、パーティーに入り込んで隙を見て殺す。

 もし、メンバーに別のシェイプシフターがいた場合は、同族同士で協力することもある。


(すぐに殺すんじゃなくて、暫くは冒険者として行動するってこと?)


 出現階層も八階層以下となっているので、五階層の霧がかった階層でなくても冒険者と入れ替わることが可能ということは、それだけ攻撃力があり冒険者を欺けるのだと考えると怖くなった。

 スクィッドニュートの出現階層は五階層が主となっていたが、極稀に大きな水辺のある階層にも出現する。と書いてある。

 五階層以外にも水辺があることが引っ掛かった。

 それと、スクィッドニュートの墨袋は染料にも使用されると書かれているので、昔から使用されていたことを知る。

 ただし、眩しい光が苦手なことやライトボールを推奨するようなことは載っていない。

 読み進めるとケルピーの文字が目に止まる。

 五階層で見た魔物だ。

 かなり強いようなことが書かれていて、自信が無ければ戦闘は避けるべきとまで書かれていた。

 読み終えると、四分の一はオリシスの迷宮ダンジョンや洞窟にいる魔物の内容だった。

 銀貨五枚の価値があるかと言われれば、リゼは価値がないと答える。

 改訂され続ければ、情報も更新されて冒険者に有意義な情報も載っているはずだが、この図鑑に至っては重要なことが少なすぎた。

 損をしたような気分のリゼだったが、何年後かには希少な本としてかなりの高額で取引されることを、今のリゼは知らない――。



 目を覚ましたリゼは起き上がらずに、部屋の天井を見ていた。

 武器も防具もないため迷宮ダンジョンに入ることが出来ないため、暇を持て余していたのだ。

 昨日、購入した魔物図鑑を読もうとも考えたが、既に三回読んでいるので、ある程度は頭に入っていた。

 おもむろにステータスを開き、クエスト内容について考えていた。

 メインクエストの迷宮ダンジョンで未討伐の魔物討伐だが、討伐種類の表示が七/三十となっていた。


(あと、二十三匹か……)


 魔物図鑑によれば、五階層までに他の魔物があと二種類いることになる。

 古い情報なので当てにならないが二十階層くらいまでの全ての階層に岩の隙間から襲い掛かってくる“ストーンワーム”が生息するとある。

 五階層までは、毒の鱗粉をまき散らして飛ぶ大きな蛾の魔物“ポイズンモス”も生息すると書いてあった。

 羽根を広げた姿が岩に似ているそうなので、見逃した可能性は高い。

 他には一見、魔物に感じない小さな蛭に似た“ニアリーチ”。

 羽根を持っているため、移動しながら冒険者や魔物の体から血を吸う。

 長時間、血を吸われると痛みを感じるが、その時には大量の血を吸われた後で、噛まれた箇所は血が止まらない状態になる。

 火や光に弱いため、松明やライトボールを近付けただけで即死する。

 冒険者の前には滅多に現れないが、魔物などにくっついている場合もあるので、小さくても危険な魔物だと注意事項の記載があった。


「やっぱり、ライトボールのスクロール魔法巻物を買うしか無いか……」


 落胆のあまり、言葉を口に出してしまう。

 スクロール魔法巻物も永遠に使用できるわけではない。

 一言でライトボールというが、攻撃に使用する場合と、松明の代用として使用する場合がある。

 スクロール魔法巻物を破く時、攻撃のイメージして魔法を発動させれば攻撃対象に発射される。

 松明のように使用する場合は、自分の周りに浮かんでいるイメージでスクロール魔法巻物を破けばよい。

 光量や持続時間でスクロール魔法巻物の価格も変わる。

 一般的に売られているのは、四人パーティーを想定した光量で、一日程度になる。

 同じものを大量生産することで利益を出していることもあるが、スクロール魔法巻物を製作する魔術師が簡単だということもある。

 バビロニアから一番多く出ている馬車が、フォークオリア法国なのもスクロール魔法巻物ブック魔法書が他の町よりも需要が高く、割高でも売れるからだ。


 リゼは思い出したように近くにあるものを触る。

 だが光る気配は無い。


(やっぱり……)


 光った時のことを思い出す。

 サンドリザードの爪に短剣、丸い苔の生えた石……。


(たしか、散らかった爪を片付けていて――)


 最初に光ったサンドリザードの爪から思い出す。

 少し大きな爪だなと思って気になっていた。

 遠くにあった数ある爪の中から、自然と目が止まったことを思い出した。

 次の短剣も同じように無性に気になり、他の武器のことはどうでもいいよな感覚だった。

 骨董市の時も、無性に気になったこと。


(なぜだか無意識に気になった物を触った時に光ったような……無意識のうちに入手するように導かれている?)


 ただ、短剣は良い物だと分かっていたが、サンドリザードの爪は珍しいものではない。

 サンドリザードの爪を報酬と選んだことで、商人から追加で報酬は貰えたが……。

 謎なのは丸い苔の生えた石だ。

 とても高価な物には感じない。

 光る理由が自分に必要な物なのか、付加価値を与えてくれるものなのか分からない。

 何故、このような現象が突然発動したことに考えを変える。

 考えられるのはステータスで表示されず、クエスト報酬だった”観察力”だ。

 観察という言葉の意味を詳しく知る必要があると感じていた。


 起き上がると”ドッペルゲンガー”を発動して、自分相手に素手での格闘を行う。

 相手が自分なので自分の弱点なども理解しやすい。

 体を動かすことで、いろいろと考えていることを一旦、忘れたいという気持ちもあった。

 リゼは魔力が続く限り、ドッペルゲンガーとの稽古を続けた。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十三』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十六』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十四』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・迷宮ダンジョンで未討伐の魔物討伐(討伐種類:三十)。期限:三十日

 ・報酬:転職ステータス値向上


■サブクエスト

 ・防具の変更。期限:二年

 ・報酬:ドヴォルグ国での武器製作率向上


 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加) 

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