第216話
行く方向に悩んでいると、下りてきた階段の方向だと思っている所から灯かりが近付いて来る。
「もしかして、迷ったのかい?」
「はい」
ライトボールを照らす一人の冒険者が近付いて来た。
リゼは助かったと思い、返事をする。
「そう……僕が案内してあげるよ。六階層の階段でいいかな?」
「はい、御願いします」
本当であれば引き返して、四階層へ戻ろうと考えていたが、訂正する勇気が無かった。
冒険者はリゼの前を歩き、六階層まで案内するように歩いてくれた。
その間、特に会話をすることなく進む。
歩きながら冒険者の後姿にリゼは違和感を抱いた。
防具は剣士なのに、腰や背中に剣を持っていない。
ライトボールの灯りも心なしか、小さいようにも感じる。
明らかにおかしい……。
「その……職業は何ですか?」
リゼは思い切って声を掛ける。
「剣士だよ」
と、答えが返って来た。
違和感だったものが確信に変わる瞬間だった。
リゼが、さらに質問をする。
「剣士なら当然、剣を持っていますよね? その剣は、どこにありますか?」
「そんなの、ここに――」
腰に手をやり剣を確認する冒険者だったが、そこに剣が無いことに気付く。
すると俯いたまま、リゼに近寄り攻撃をしてきた。
警戒していたリゼは間一髪、攻撃を躱す。
攻撃してきた右手は先程までの冒険者と違い、変色して大きく長い爪が飛び出していた。
正体がバレた魔物は姿を変える。
冒険者に化けていた魔物の正体は”シェイプシフター”だった。
見た冒険者の姿を真似て、自由自在に変化する。
厄介なのは自身で殺した相手の能力を劣化版として模写出来ることだ。
ライトボールの灯りが小さいと、リゼが感じたのは模写していたからだ。
冒険者を騙して殺すため、
ただ、単独行動することが多いため、警戒して正体を現す前に討伐することが多い。
シェイプシフターも学習能力があるので、出来るだけ少人数のパーティーを選んで倒すか、背後から声を掛けて襲うことが多い。
リゼのように
騙し打ちを得意とするシェイプシフターにとって、最初の一撃が不発に終わったことで逃亡を図ろうとするが、リゼの攻撃の方が早く、一撃でシェイプシフターを倒す。
強い魔物では無いので、正体がバレれば討伐するのは簡単な魔物だ。
シェイプシフターを討伐したのはいいが、自分の場所が全く分からないリゼ。
下手に動けば余計に迷うと思い、その場で次の行動を考える。
近くの岩に持たれかかると、岩陰に冒険者がいることに気付く……が既に白骨化していた。
見覚えのある防具……先程のシェイプシフターが装備していた防具だと気付き、シェイプシフターが殺した冒険者だと知る。
腰には剣が刺さっておらず、手のあたりにも剣は見当たらなかった。
その代わり右手には方位計が握られていた。
シェイプシフターに襲われる時には剣を落としたかで、手元にはなかったのだろう。
そのおかげでリゼは助かったと思い、白骨化した冒険者に感謝していた。
シェイプシアターが食べ残した肉は他の魔物が綺麗に食したのか、骨だけになるまで発見されなかったのか……名の知らない剣士に、騙された自分の姿だったかも知れないと思うと怖くなった。
(あれ?)
握られていた方位計に印が付いていることに気付く。
リゼはアイテムバッグから方位計を取り出して、自分の方位計と確認をする。
指している針の向きは同じなので、狂ってはおらず正確に動作している。
(この印は……)
印は“四”と“六”と書いてあるので、間違いなく階段の位置を示しているのだと確信する。
一縷の望みに賭ける思いで、自分の方位計にも同じ場所に印をつけると、白骨化した死体に手を合わせて感謝の意を示した。
自分の窮地を救ってくれた冒険者から、防具などを回収する気分にならなかったリゼは針の示す方向へと歩き始める。
歩いていると遠くで灯りが見えるが、惑わされてはいけないと方位計の針を信じて進む。
途中で自分と同じ
笑顔で近付く冒険者に警戒をしながら会話をするが、先程のシェイプシフターと同じような内容だったため、より一層警戒を強めた。
「戻る道は分かっているので大丈夫です」
「そうですか。お気をつけて」
リゼが一人で大丈夫だと伝えて背中を向けて去ろうとする。
一呼吸置いた後に、冒険者から攻撃を察知する。
警戒していたリゼは横目で冒険者の様子を見ていたため、簡単に攻撃を回避して反撃する。
やはり、シェイプシフターが化けた冒険者だった。
このまま元の場所に戻って、自分がシェイプシフターだと誤解されないかを心配する。
魔物はシェイプシフターだけではない。
霞に隠れて冒険者を狩る“スクィッドニュート”。
体長が一メートル程度で両手両足を使い、壁を自在に移動するのが特徴の魔物だ。
水中と陸上の両方で行動できるため、湖から離れた場所でも出現する。
尾の先端についている棘で攻撃をする。
スクィッドニュートはバビロニアの
不気味な動きでリゼを翻弄する。
影だけが見える状況で対応に遅れるが、次第に目が慣れてくる。
霞の中から一瞬光る青い目は隠すことが出来ないため、スクィッドニュートの攻撃を最小限の動きで避けて反撃をするが、決定打を与えることが出来なかった。
片手に松明を持ちながら、スクィッドニュートとの攻防が続く。
必死でスクィッドニュートを目を追っていると、リゼは大きな勘違いをしていたことに気付いた。
傷を付けたはずのスクィッドニュートの体に、その傷があったりなかったりしていた。
(一匹じゃない……)
ただ、何匹から攻撃を受けているのかが分からない。
二匹……いいや、三匹。
リゼは戸惑いながら応戦する。
なぜ、一斉に襲ってこないのか不思議だったが、その理由はすぐに判明する。
気付かない間にリゼは追い込まれていた。
岩壁に背中がぶつかったことでリゼは周囲の状況確認が出来ていなかった。
視界が悪いのは言い訳にはならない。
壁沿いにスクィッドニュートがいる気配を感じる。
左手に持っていた松明を岩に立てかけると、すぐに短刀に持ち替えた。
岩壁に背中を預けるようにしてスクィッドニュートからの攻撃に備える。
だが、この選択は間違いだった。
岩壁を歩いて攻撃するスクィッドニュートにとって、獲物が壁近くにいることは格好の的だったからだ。
目の前にスクィッドニュートが現れたので、攻撃をしようとすると、岩壁に張り付いていたスクィッドニュートが上部から攻撃をしてくる。振り返ろうとすると別のスクィッドニュートに襲われる。
岩壁を自由に歩けるのはスクィッドニュートだけではない。
リゼはシャドウステップで岩壁に貼り付いていたスクィッドニュートを二匹倒す。
最初に姿を現したスクィッドニュートは、霞の中へと消えていった。
「ふぅ~疲れた」
落ちていた松明を拾い周囲を照らす。
湿った地面に置いたことで、松明の炎が弱くなってた。
自分の体力なども考えて「これ以上は危険だ!」と判断して地上へ戻ることにする。。
こうして、リゼのバビロニアの
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:三十六』
『魔力:三十』
『力:二十三』
『防御:二十』
『魔法力:二十一』
『魔力耐性:十六』
『敏捷:八十六』
『回避:四十三』
『魅力:二十四』
『運:四十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
・
・報酬:転職ステータス値向上
■サブクエスト
・防具の変更。期限:二年
・報酬:ドヴォルグ国での武器製作率向上
・瀕死の重傷を負う。期限:三年
・報酬:全ての能力値(一増加)
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます