第215話

 湖の畔を歩きながら、迷宮ダンジョンの中に湖が存在することに疑問を感じていた。

 リゼは地底湖という存在を知らなかったから、地上と違い雨が降ることは無いのに水が存在していることに首を傾げていた。

 湖の中央にある道が近く見える場所まで歩いて来ると、湖から水飛沫が冒険者に向かって放たれている。

 先程、遠くから見えた水中からの魔物攻撃だと思いながら、中央を歩いている冒険者たちを見ていた。

 少しだけ離れて歩いているので、別々のパーティーだろう。

 先に歩いていたパーティーは、重戦士と思われる冒険者が盾で攻撃を受け止めて、受け切れない攻撃は剣士などの前衛職が対処している。

 後ろを歩いているパーティーは魔術師が結界のようなものを張り、攻撃を無効化しているようだった。

 効率の悪い前を歩くパーティーを笑っているかのようだった。

 攻撃を無効化出来る魔法に驚くリゼだったが、魔力消費量が大きいことや、長く持続できないため、戦闘中に使用するのにはリスクが高いはずだ。

 湖の中心辺りで、いくつかの水面に黒い物体が近付くのを発見する。

 水面が盛り上がると魔物が姿を現す。

 馬に似た姿をしている”ケルピー”だった。

 本来、牛を好物とする魔物だが、迷宮ダンジョンでは馬を食することが無いため、冒険者を食べるようになったことで独自の進化をしたケルピーだ。 

 だが、何度も四階層に来ているのか、先行しているパーティーは戸惑うことなく対応していた。

 反対に……もう一方のパーティーは自意識過剰なのか、油断していたのか不明だがケルピーへの反応が一瞬遅れた。

 リゼは回り道を選択して正解だったと思いながら、遠くからケルピーとの戦いを観戦していた。

 進むにも戻るにも同じくらいの場所である湖中央で襲うケルピーも学習してるのだと思いながら、戦闘するパーティーを分析していた。

 魔術師で結界を張っていたパーティーは魔術師の魔力量からか、魔術師を庇うように戦っているため、うまく立ち回れていないのか、一人一人と湖に引きずり込まれたり、攻撃を受けて湖に落ちる。

 一度、湖に落ちれば助ける手段がない。

 水中で魔物には勝てないからだ。

 水を集めて球体を作ると、冒険者に向けて発射する。

 強力な水属性魔法で攻撃自体を相殺させたりして応戦する。

 火属性魔法で水を蒸発させた後方にいた魔法師だったが、蒸発したことで辺り一面に霧が発生した。

 剣士などの前衛職は物理的な攻撃に影響が出る。

 先行したパーティたちから、後方のパーティーたちへの怒号が飛ぶ。

 別のパーティーのせいで自分たちが窮地に陥ったことに怒りを感じていた。

 霧が晴れると、中央には一組のパーティーしかいなかった。

 十分な食料を得て満足したのか、ケルピーからの攻撃も止む。


「また犠牲者が出たか……」

「無理する必要が無いのにな」


 余計な戦闘を避けて下層階に行く冒険者たちの声が聞こえてきた。

 ケルピーを簡単に倒せる冒険者しか、中央の道は進まない。

 逆に進める冒険者たちは、他の冒険者たちから一定の評価を受けることが出来る。

 自分たちも憧れていた冒険者に近付けると思っていたからだ。

 だからこそ、多少の無理は承知でも中央の道を進もうとする冒険者もいる。

 初めて迷宮ダンジョンを訪れる冒険者も犠牲になることがあるが、慎重な冒険者たちであれば、迂回するほうを選択する。


「おい、お前も気をつけろよ」

「えっ⁈」


 突然、見知らぬ冒険者に話し掛けられたリゼは驚く。


「あまり湖に近付くと魔物から攻撃にされるぞ」

「ありがとうございます」


 見かけない冒険者が一人でいたリゼを心配して忠告してくれたのだ。

 その冒険者たちはリゼを追い抜かして、先へと進んでいった。


(こんな浅瀬にいる魔物って……)


 水は透き通っているので底は見えるし、魔物の姿も確認出来る。

 忠告された理由が分からないでいた。

 だが、先に進むにつれてその意味を理解する。

 崖のように張り出した場所を歩くため、下に見える湖はそこが見えないほど深かった。

 もし攻撃されて、崖から落ちれば……。

 リゼは最悪な状況を考えて、出来るだけ湖から離れた場所を歩く。

 

 三階層からの階段があった場所、湖の反対側に到着すると道が重なり、その向こうに五階層への階段があった。

 リゼは五階層の確認も含めて、下りることを決意する。

 五階層は階層全体が霞みがかかっているため暗く、常に灯かりを必要としていた。

 遠くに光るライトボールを見ながら、進むべきかを悩んでいると、後から下りてきた冒険者たちが続々と闇の向こうへと消えていった。

 とりあえず、先行者の明かりを頼りに、少し離れてリゼも進むことにする。

 だが、すぐにその灯かりは消えてしまった。

 後から来る冒険者に期待したが、冒険者たちの明かりは一向に見えなかった。

 バビロニアの迷宮ダンジョンの五階層。

 通称”幻惑の霧”が発生するため、正確な位置が把握し辛いため、冷静な判断が必要になる。

 何度も五階層に来ている冒険者たちは進む道順を知っているため、惑わされることは無い。

 道順と言っても、真っ直ぐに進めば良いだけだ。

 何回も左右に曲がれば、元の場所に戻るのも困難だ。

 当然、魔物にも襲われる。

 ただ真っ直ぐ進むだけとはいえ、簡単ではない。

 そのため、冒険者たちは固まって方位計を利用する。

 方位計に印を付けて方向を確認しながら進めば問題無く六階層に続く階段に辿り着けるからだ。

 フルオロが言っていた言葉を思い出して、最初の障害が今いる五階層だと警戒を強める。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十三』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十六』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十四』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・迷宮ダンジョンで未討伐の魔物討伐(討伐種類:三十)。期限:三十日

 ・報酬:転職ステータス値向上


■サブクエスト

 ・防具の変更。期限:二年

 ・報酬:ドヴォルグ国での武器製作率向上


 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)  

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