第212話

 ――翌日。

 リゼは迷宮ダンジョンの目の前に立っていた。

 緊張しながら入場料を払う。

 迷宮ダンジョンの入り口両側には大きな石が据え付けられている。

 魔物が迷宮ダンジョンから逃げ出さないように結界が張られている。

 まだ、迷宮ダンジョンが出来始めの時に、魔物が迷宮ダンジョンから逃げ出してしまい、町に大きな被害が出たことがあった。

 そのため、ラバンニアル共和国がアルカントラ法国に依頼して結界を張ってもらった。

 両脇の石は“結界石”と呼ばれている。

 毎年、維持管理のため教会が所属するアルカントラ法国から専門職を派遣してもらっている。

 アルカントラ法国にとっても、バビロニアの迷宮ダンジョンは国としても大きな収入源の一つだった。

 何度もフォークオリア法国が自分たちの魔法技術を用いれば、アルカントラ法国よりも強力な結界を張ることが出来ると提案していた。

 しかし、ラバンニアル共和国はアルカントラ法国との関係に亀裂が入ると考えて、フォークオリア法国の提案を断り続けていた。

 アルカントラ法国は、自分たちの国より後に建国したフォークオリア法国をよく思っていない。

 この世界に“法国”と名の付く国は一つでいいと考えていたからだ。

 だが、フォークオリア法国で製作されているスクロール魔法巻物は、バビロニアの冒険者に重宝されている。

 他の都市や町に比べても、かなり多くのスクロール魔法巻物などがバビロニアに流れているため、いいように利用されていると考えるフォークオリア法国の関係者もいる。


 迷宮ダンジョンに入ると、目の前には平坦な道が続いている。

 何年もかけて何人もの冒険者が通った証なのだとリゼは感動してた。

 朝早いため、次々と冒険者が入場するので、邪魔にならないようにリゼは道を譲る。

 まるで観光地に向かうような感覚だった。

 松明を使用しなくても、ライトボールを使用する冒険者が周囲を照らしてくれる。

 一階層に下りるが大きくは変化がない。

 少しだけ暗くなり、体感的に湿度が高くなった気がする。

 とはいえ、不快になるほどではない。

 魔物からの襲撃率も低いのか、歩いている冒険者たちからも緊張が感じられなかった。

 二階層に下りると風景が一変する。

分かれ道がいくつもあるが、冒険者たちはバラバラになることなく列のまま移動していた。

 三階層以上に向かうため、階段に向かっていたからだ。

 そんななか、楽しそうに話をする冒険者パーティー三人が列を離れたので、リゼも列を離れて探索することにした。

 アイテムバッグから松明を取り出して火を灯すと、柔らかな明かりが周囲を照らす。

 松明を使用するリゼが珍しいのか歩いている冒険者たちは、リゼに視線を送る。

 バビロニアの迷宮ダンジョンでは、ほとんどの冒険者がライトボールを使用する。

 使える光属性の魔術師がいない場合でもスクロール魔法巻物を活用する。

 これは松明だと戦闘する際に、ライトボールに比べて照度不足に加えて、片手が塞がれるため不利な状況になる。

 松明を使用していたリゼは希少な存在というより、迷宮ダンジョンの常識を知らない初心者に映っていたのだ。


 足場の悪い道を進んでいくが魔物と遭遇しない。

 もしかしたら魔物がいないのかも知れないと思いながら奥へと進む。

 穴を通して、かすかだが戦闘音が聞こえてくる。

 魔物がいることを確信して警戒しながら、さらに奥へ進んだ。


(もしかしたら、本当に魔物がいない?)


 あまりに魔物と遭遇しないため、リゼは不安になり足を止めた。

 さきほど聞こえた戦闘音も勘違いだったかも知れないとさえ思い始めていた。

 もう一階層下へ進むため振り返り来た道を戻る。

 途中で分かれ道は無かったので迷うことなく進むと念願の魔物と遭遇する。


「……ストーンスネーク」


 とぐろを巻いて岩に擬態しているようだが、不自然過ぎて気付いてしまった。

 攻撃力は普通の蛇と同等くらいで、こちらから攻撃しなければ襲ってくることは無い。


「ゴメンね」


 リゼはクエストのため……自分のエゴだと知ったうえでストーンスネークを攻撃すると、呆気なく討伐に成功する。


「とりあえず、一匹」


 魔核を取り出すこともなく戻ろうとすると、大きく地面が揺れる。

 天井が崩れたのか、上から岩が落ちてきたのでリゼは落下場所から一気に離れて回避する。

 落下していた場所を見ると岩が動いていることに気付く。


「ロックスネーク?」


 ストーンスネークは成長するとロックスネークになる。

 名前の違いは体の大きさだけで一般的に四十センチ以下をストンスネークと呼び、それより大きいとロックスネークと呼んでいる。

ロックスネークは二メートル前後まで成長するが、その攻撃力はストーンスネークの何倍にもなる。


「えっ、親⁈」


 リゼは先程倒したストーンスネークの親だと思い、複雑な思いを抱きながらロックストーンの攻撃を避ける。

 動き回るロックスネークは周囲の岩を飛ばして攻撃をしてくる。


(うん。大丈夫)


 ロックスネークの攻撃を見切ることが出来ると確信したリゼは一気に距離を詰める。

 だが、ロックスネークも尾を叩きつけるようにしてリゼに向かってきた。

 一瞬で勝負が決まる。

 ロックスネークがリゼの体に当たる前にリゼが更に加速してロックスネークの喉元を斬る。

 激しい出血とともに、ロックスネークは岩と同化するように倒れた。


「ふぅ~」


 一息つくとロックスネークの魔核を取り出す。

 子の仇を取ろうとしたロックスネークに申し訳ないと、心の中で謝罪する。

 元の場所まで戻ると、下層に向かおうとする冒険者たちが列をなして歩いていた。

 列の外から見ていると緊張感が無い。

 やはり、もう少し下の階層までいかないと強い魔物とは遭遇しないのだろうか? と、リゼは歩いていく冒険者たちを見ていた。


(あれ?)


 リゼは自分より先に列を離れた冒険者たちがいたことを思い出す。

 たしか四人組だったが、この階層にとどまる理由があるのだろうか?

 この二階層でしか採取できない特別な物があれば、下層に向かう必要はない。

 リゼはもう少しだけ二階層を探索しようと慎重に進む。

 魔物との遭遇数が本当に少ない。

 冒険者に狩られないように隠れたり、ストーンスネークのように擬態しているのだろうを思い、見逃さないように周囲を念入りに見て進んだ。

 途中で擬態しているストーンスネークを見つけるが、無用な討伐は避けて進んで行く。

 しかし、冒険者と出会うことは無かった。

 あの四人組の冒険者は、どこに消えてしまったのかと不思議に思いながら、二階層の探索を終えることを決めた。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十三』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十六』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十四』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・迷宮ダンジョンで未討伐の魔物討伐(討伐種類:三十)。期限:三十日

 ・報酬:転職ステータス値向上


■サブクエスト

 ・防具の変更。期限:二年

 ・報酬:ドヴォルグ国での武器製作率向上


 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)  

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