第211話

 多くの冒険者いるため、比例するように宿屋も多く存在する。

 そのため価格にも大きな差があるので、リゼは受付する際に受付嬢から幾つかの宿屋を聞いていた。

 一件目は満室、二件目も満室、三件目も……。

 冒険者ギルドで聞いた宿屋は全て満室だった。

 想定外のことだったが冒険者ギルドの紹介というだけで安心出来るので、繁盛するのは間違いない。

 リゼは悩みながら町を歩く。

 すると、先程別れたエンヴィーと早めの再会を果たす。

 宿屋を探していることを伝えると、自分が宿泊している宿屋を紹介してくれた。

 それなりに信用できる宿屋らしいが、値段の割には狭くて汚いと忠告はされたが、リゼにとっては見知らぬ宿屋に比べれば、数日だが顔見知りの冒険者が紹介してくれた宿屋のほうが安心できた。

 宿屋の名は“微笑みの宿”といい、立地的にはバビロニアの端になり、迷宮ダンジョンからもかなり離れている。

 安いには、それなるの理由がある。

 エンヴィーの紹介ということで、リゼも宿は確保出来た。

 汚いというがリゼにとっては綺麗だと感じていたし、部屋の広さはリゼにとって丁度良い大きさだった。

 寝床と小さな机と椅子に、簡易的な便所もある。

 簡易便所は自分で集積場まで持って行き、洗わなくてはならない。

 それが嫌なら共同トイレを使用すれば良いので、緊急用なのだろう。

 食事の提供はしていないので、本当に寝るだけの場所だった。

 これといった荷物もないので、リゼは宿の主人に骨董市場の場所を聞き、鍵を預けて宿を出る。

 骨董市場は微笑みの宿と真逆の場所だったが、道中に食事の場所などを確認しながら歩く。


(いろいろと高いな……)


 王都やオーリスと食べ物の値段を比べるが、量に比べて値段が高かった。

 だが、道行く冒険者たちは気に留めることなく購入していた。

 荷馬車の中でエンヴィーが言った言葉を思い出す。


「バビロニアに長い間滞在できるってことは、それだけ優秀な冒険者ということよ」


 迷宮ダンジョンに潜り、魔物討伐や宝などを持ち帰ることを継続的に出来なければ、経済的に厳しくなりバビロニアを去るしかない。

 思っていた以上の厳しい現実にリゼは不安な気持ちになっていた。

 迷宮ダンジョンの入り口が見える場所でリゼは立ち止まる。


(あそこで強くなって、王都に戻るんだ。アンジュとジェイドの二人のお荷物にならないように――)


 決意を新たにするリゼ。


「お前ら、早く来い‼」


 怒号の方向を見るとガラの悪そうな冒険者が、怯える冒険者数人を威嚇していた。

 八人いるが怒鳴るくらいの関係だから知り合いなのだろう? と思いながら見ていた。

装備を見ても怒鳴られている冒険者たちとは、かなり格差があるように思えた。

 自分も……一瞬だが、嫌なことを考える。

 あの怯える二人が自分と重なって見えたことを払拭するかのように、頭を左右に振る。


「また、あいつらか」


 後ろから他の冒険者たちの陰口が聞こえてきた。


「甘い言葉でパーティーに引き入れては、使い捨てるの繰り返しだからな」

「戻ってきた奴がいない時もあったそうだぜ。まぁ、死人に口なしだからな……」

迷宮ダンジョン内で殺しまでしているって聞いたぜ」

「まぁ、あいつらなら殺りかねないな」


 どこにでも嫌われる冒険者はいるのだと思いながら、リゼは陰口を聞き続けた。

 冒険者ギルドの受付で聞いた話では単独ソロでも迷宮ダンジョンに入る冒険者もいるそうだ。

 自分は単独ソロで挑むと決めていたが、目の前の光景を見て、その気持ちが強くなる。

 怯える冒険者を殴る姿に嫌悪感を抱き、助けようとも考えたが部外者だと言われてしまえば、それまでだと思いながら、目を背けるかのように足早に立ち去った。


 骨董市場は異様な盛り上がりだった。

 道の左右に商品を広げて露店に似た店の並びで、足を止めて何人かが店と交渉している。

 狭い道に往来する人々の加えて、商品を見ようと足を止める人もいるため、狭い道はさらに狭くなっていた。

 人の隙間を通りながら、店の商品を軽く横目で確認する。

 これといって欲しい物もないので、ただ歩くだけだったが通行人に当たり、よろけそうになり、また人に当たる……。

 移動したい方向に動けず、気付くと歩いてきた方向に押し戻されていた。

 再度、歩き始めるが先程より進めたと思っても、同じように押し戻されてしまう。

 リゼは諦めて、人の往来が少なくなるのを待つことにした。

 よく観察していると、あることに気付く。

 道の中央でなく端の方を歩いている女性が店から店へ移動するように移動していた。

 店で商品を見ていると自然と通行人は避けて歩いていた。

 女性はそれを利用して、店の商品を見ながら少しずつ移動して、そのまま隣の店に移動していた。

 リゼも少しだけ真似するように、店の前で商品に興味のあるふりをして移動する。

 上手いこと骨董市の半分くらいまで進めたが、興味のある品が無かった。

 迷宮ダンジョンからの物が大半を占めるこの骨董市で、売る側の店も商品の価値が分からないものもある。

 店から店へと商品が移動して、実は高価な品だったということもある。

 それが原因で店同士が揉めることもあるが、結局は自分の目利き不足を世間に発表することになるため、余程の事が無い限り大ごとにはならない。


「あれ?」


 無造作に並んでいる品物の中で、初めて気になる物を見つける。

 丸い石に苔のようなものが生えている奇妙な物だった。


「すみません。あれって、なんですか?」

「あぁ、迷宮ダンジョンで見つけたそうだが、面白そうなので買い取ったが全く売れなくてな」

「よく見せてもらってもいいですか?」

「あぁ、構わないが重いから気をつけてな」

「はい」


 店主は両手で丸い石を持ち上げると、リゼの目の前に置いた。


(なんで、こんなのが気になったんだろう?)


 自分でもよく分からないが丸い石に触ってみると、薄っすら光る。


(あれ? まただ)


 以前のサンドリザードの爪の時や、先程の短刀の時と同じような現象に首を傾げる。


「嬢ちゃん。もし買ってくれるなら銀貨一枚でいいぜ」

「銀貨一枚ですか……」


 正直、銀貨一枚の価値は無いと思いながらリゼが悩んでいると店主は畳みかけるように話しかけてきた。


「悩んでいるのか……なら、この下に敷いていた石も一緒にどうだ」


 丸い石の横に先程まで下に敷いていた長方形の石を置く。

 リゼは長方形の石を触るが光る気配がない。


「こっちも触っていいですか?」

「おう。だが、これは高いぞ」


 店主は彫刻された石を自慢気に説明するが、リゼの目的は触れた際に赤く光るかだった。

 触れてみたがやはり光らない。


「この丸い石だけ銅貨八枚でどうですか?」


 リゼは交渉を試みた。

 苦手だと分かっているが少しでも安く購入できるのであれば、購入したいという思いがあったからだ。


「銅貨八枚は厳しいな。銅貨九枚でどうだい?」

「……分かりました。銅貨九枚で御願いします」

「ありがとうよ」


 店主は売れ残りを銅貨九枚で売れたことに喜んでいた。

 実際、銅貨七枚でもいいと思っていたからだ。

 交渉術に長けていないリゼだったが、その事実を知らずに安く買えたと思っていた。

 丸い石をアイテムバッグにしまうと『サブクエスト達成』の表示が現れた。

 これで骨董市での目的は終えた……が、観察眼の影響では無いかと気付く。

 しかし、今まで経験したことが無かったが、ここ数日で三回も経験した。

 自分が望んだわけや、注意深く物を見た訳でも無い。 


迷宮ダンジョンでなにか見つけたら、俺に売ってくれよな」


 最後まで営業する店主にリゼは頭を下げてから数歩歩くと、すぐに人波に飲み込まれて、自然と最初にいた場所まで押し戻された。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十三』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十六』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十四』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・迷宮ダンジョンで未討伐の魔物討伐(討伐種類:三十)。期限:三十日

 ・報酬:転職ステータス値向上


■サブクエスト

 ・防具の変更。期限:二年

 ・報酬:ドヴォルグ国での武器製作率向上


 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)  

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