第205話

 フルオロの提案で町を歩きながら話すことにする。

 

「エルガレム王国から出たのが初めてなのか」

「はい。オーリスではアイリさんに大変お世話になりました」

「そうか。俺はエルガレム王国での兄貴たちのことは、ほとんど知らないからな。まぁ、知ろうとも思わないが」


 笑いながら話すフルオロは、リゼの緊張を取ろうと冗談を言ってみたがリゼには通じなかったのか無反応だった。

 それよりも、初めてエルガレム王国から出たリゼにとっては、売られている食材や食べ物など全てが新鮮だった。

 フルオロは親切に解説をしてくれた。

 特に印象的だったのは、バビロニアの職業案内所では珍しい職業などのがあるということだった。


「珍しい職業ですか?」

「あぁ、迷宮ダンジョンでの戦闘経験が影響しているのか不明だが、聞きなれない職業があるそうだ。と言っても、自分が転職できるかは別だが、その珍しい職業に転職するためにバビロニアを訪れる冒険者も多いそうだしな」

「そうですか」


 転職する際に表示される職業は、今までの戦闘経験等が影響している。

 一般的にステータス値は戦闘経験で増えると考えられているからだ。

 メインクエスト報酬の影響ではないが、リゼは今の職業”盗賊”からの転職を考えるようになっていた。

 盗賊の上位職”暗殺者”になるだろうと思っていたが、他に選択肢があるのであれば、一考するべきだ。


「多くの冒険者が集まることも少なからず影響しているだろう。それに今では無いような職業になった冒険者もいるそうだから、迷宮ダンジョン独自に発展したのだろうな」


 フルオロは持論を述べながら、自分もバビロニアで珍しい職業への転職を試みるため、何度も訪れてみたが特殊な職業が表示されなかった。

 初級職と呼ばれる職業から一定条件満たせば、中級職や上級職、レア職などの転職可能だというのが、この世界の常識だった。

 特に珍しい職業として人気があり目指す冒険者が多い職業として”守護戦士”、”侍”、”暗黒騎士”などがあると教えてくれる。


「侍?」


 初めて聞く職業の中で、イメージがつかない”侍”を思わず口にした。


「剣士の上位職らしい。刀という武器を使用していた冒険者が転職したと聞いたことがある。刀を使っている冒険者は何人か見たことあるが職業は剣士だったはずだし、侍という職業の冒険者に会ったこともない。リゼの使っている小太刀も刀の一種なだろう」


 噂話だと笑いながらも、どの上位職も転職条件こそ不明だが、職業案内所には転職した記録として残っているので転職した冒険者がいることだけは確かだと話す。


「気になるなら、バビロニアの職業案内所を訪れてみな。分かりやすくまとめた本もあるし、分からないことがあれば所員が教えてくれるだろう」

「はい、ありがとうございます」


 リゼはバビロニアに着いてからすべきことを忘れないようにと、頭に叩き込んでいた。


「バビロニアは、どんな感じなんですか?」

「そうだな。治安はいいと思えるのは上辺だけだな」


 町としては治安は良いが、迷宮の中までは監視されていないので、犯罪者くずれが冒険者を襲い金品を奪う。

 バビロニアの迷宮ダンジョンは、オリシスの迷宮ダンジョンと違い、迷宮ダンジョンへの出入りを管理していない。

 迷宮ダンジョン内は治外法権だと誰もが認識している。

 つまり、迷宮ダンジョン内無法地帯になっているということだ。

 敵は魔物だけでなく、冒険者も含まれていることを理解すべきだと忠告する。

 もちろん、健全な冒険者もいることを付け加える。

 以前にアイリから、オリシスの迷宮ダンジョンのクエストには、ステータス能力値の平均が三十程度必要だと言われたことを思い出す。


「その……参考までに迷宮ダンジョンに挑戦している冒険者たちはレベルどれくらいなのですか?」


 自分のレベルを言わないのに、レベルの話をすることに躊躇したが、リゼは厚顔無恥だと知りながら、聞けることは聞いておくことにした。


「そうだな……俺もこの間バビロニアから帰って来たところだが、昔と比べても状況が大きく変わっていなかったから――熟練者と呼ばれる冒険者がレベル四十五以上、中級者と言われる冒険者でレベル四十前後だろう。それ以下だと迷宮ダンジョンに潜っても五階層くらいまでしか行けないだろう」

「そうですか……」

「ちなみに俺はレベル四十二だ‼」

「その……レベル五十以上の人たちは、ランクAに昇級したりしないんですか?」

「いやいや、レベル五十でもランクAになるのは難しいぜ。バビロニアでもランクAはいるが、俺の知り合いのランクA冒険者はレベル五十以上だったしな……そうだ! バビロニアに行ったらリャンリーを訪ねるといい。俺の紹介だと言えば、なにかと力になってくれるだろう。あとで、紹介状を書いてやる」

「ありがとうございます」

「リャンリーはバビロニアでも古株だから、それなりに顔も効く。面倒な厄介ごとに巻き込まれることもないだろう」


 フルオロは今の会話から、リゼのレベルが四十以下だと感じた。

 そもそも見た目的にも冒険者になって数年といったところなので、レベルが二十代後半から、良くて三十台前半が妥当だと判断する。

 義姉であるアイリの表情からもリゼは、アイリにとって思い入れのある冒険者なのは間違いない。

 アイリの義弟としての行動だった。


「バビロニアの骨董市は有名なんですか?」

「有名だな。迷宮ダンジョンから持ち帰って来た物が大半だ。中には掘り出し物もあるだろうが、逆に騙されることもある……というか、多くの店は客を騙そうとしているから注意が必要だな。まぁ、困ったらリャンリーを頼れ」

「はい、いろいろとありがとうございます」


 その後もフルオロはリゼにバビロニアのことを教えてくれる。

 ただ、バビロニアの迷宮ダンジョンの浅い階層は魔物討伐が主になっていること。

 未だに迷宮ダンジョン自体が解明されていない。

 現在確認されているのは、三十七階層までだ。

 多くの冒険者は二十階層前後で引き返してくる。

 安全を考えるなら十五階層までだと忠告された。


 いろいろと情報を得られたことは幸運だった。

 明日のバビロニア行きの馬車を予約してから冒険者ギルド会館に戻ると、フルオロがリャンリーへの紹介状を書いてくれた。

 その間、フルオロに気付かれないように、自分のステータスを確認してレベルを計算する。


(能力値の合計がこれだから……私のレベルは三十四だ)


 先程のフルオロの話から、自分のレベルが低いことは確認出来た。

 レベル……いいや、能力値を出来るだけ上げることが目的だからこそ、多少の無理は知る必要があると結論付けた。

 受付の方から楽しそうな声が聞こえるので、振り向くとアイリが楽しそうに冒険者たちと談笑していた。

 変わらないアイリの姿を懐かしく思い眺めていた。 



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十二』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十六』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十四』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・迷宮ダンジョンで未討伐の魔物討伐(討伐種類:三十)。期限:三十日

 ・報酬:転職ステータス値向上


■サブクエスト

 ・防具の変更。期限:二年

 ・報酬:ドヴォルグ国での武器製作率向上


 ・バビロニアの骨董市で骨董品の購入。期限:一年

 ・報酬:観察眼強化

 

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年

 ・報酬:全ての能力値(一増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)  

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