第202話

 身分を隠してレトゥーンへと帰郷する。

 久しぶりの故郷だったが、自分の記憶にある風景と重なり懐かしく感じる反面、すれ違う人々の顔は他の町で見るような笑顔は少なく、町全体に活気が無いようにも思えた。

 オプティミスに指示された通りの行動をして、オプティミスの仲間たちと合流する。

 彼らは自分たちの存在を知られたくないのか、顔はもちろん体格まで分からないような服装で身を包んでいた。


「行くぞ。邪魔だけはするなよ」


 エルダは自分に対して命令口調で話すことから、依頼者と言う立場で無く見学者、もしくは協力者だとオプティミスは伝えたのだと知る。

 自分がオプティミスに交換条件を出した時から、計画を実行に移すための準備をしていたのか、簡単に屋敷へ侵入することが出来た。

 そして領主の部屋へ移動すると、領主に気付かれることなく拉致する。

 途中で別れた仲間の脇には領主の妻が抱えられていた。

 リーダーらしき人物が仲間に指示をすると、仲間たちは体を覆った布をめくる。

 その姿にエルダは驚く。

 今、拉致した領主と、その妻に瓜二つだったからだ。


「お前が領主になるまでの間は、こいつらが領主の代わりをする。まずバレることは無い」


 口調からも絶対的な自信を持っているようだった。

 それだけ下準備も完璧だったのだろう。

 そして、変装した二人は……いや、この集団は対象者を拉致もしくは殺害して、成り代わることを専門にしているのかも知れない。

 しかし、エルダには執事や使用人が違和感を持つのではないかと危惧するが、それは自分の考えることでは無い……と、考えるのを止めた。


 他の仲間が用意した馬車に乗り込み、レトゥーンから遠ざかる。

 かなり離れた森に入るが、構わず奥へと進み続ける。

 魔物からの襲撃を気にしているエルダだったが、オプティミスの仲間たちは周囲を気にすることなく進み続けた。

 目隠しと体を拘束されている領主と妻は途中、何度か意識を取り戻すが、その度に気絶させられていた。

 自分たちの身に何が起きたのか考える時間さえ与えてもらえない。


「これで体を覆え。拷問が始まったら正体を晒すも、隠し通すも好きにすればいい」


 リーダらしき人物から布を渡される。

 つまり、そろそろ目的地に到着する。

 エルダは指示に従い、正体を隠すように布で体を覆った。

 意識の無い領主と妻の目隠しと体を拘束していた縄を外して叩き起こす。


「ここはどこだ! お前らは何者だ。俺に、こんなことをしてどうなるか分かっているのか‼」


 案の定、目を覚ますと同時に恫喝をするが、誰もそれに動じなかった。

 計画なのか不明だが仲間の一人が領主の背後に回ると、躊躇することなく領主の右耳を刃物で切り落とした。


「ぐあぁぁぁ‼」


 叫び声を上げるが人里離れた森の中なので、気にすることもない。

 近くに冒険者がいるかも知れないと危惧するエルダだったが、その心情を見抜くかのようにリーダーらしき人物が口を開く。


「心配ない。周囲にいる仲間たちから、この森の周囲に人はいないことは分かっている。いても魔物や動物だけだ」


 この発言でエルダは、何人が領主殺害に関与しているのか。そして、それだけの人物を簡単に動かすことが出来るオプティミスに違和感と恐怖感を感じた。

 その後も領主への拷問が続き、領主の心はすでに折れていたのか命乞いを始めていた。

 目の前で夫が切り刻まれる姿を見て、妻は失禁し自分だけでも助かろうと、領主以上に命乞いを続けていた。

 馬車の片隅に置いてあった大きな布袋を領主たちの目の前に放り投げる。

 月の明かりで布袋が赤黒く染まっているのを映し出した。


「袋を開けろ」


 すでに逆らうことが無駄だと悟った領主は言われた通りに、布袋の口を縛ってあった縄を解き、中を確認すると表情が一変する。


「こ、これは……」

「中身を出せ!」


 領主に拒否権は無い。

 布袋から出されたのは拷問の末、殺されたであろう人間の死体だった。


 「ダニエル‼」


 妻が叫ぶと同時に死体に駆け寄る。


「何を言っている。これがダニエルのわけ――」


 半狂乱の妻をなだめようとする領主だったが、首に掛かっている首飾りを見て、それが自分の息子だと確信する。

 ダニエルは数週間前から行方不明になっていた。

 以前も勝手に旅行に出かけたりしていたので、領主たちも深く考えていなかった。

 すぐに戻って来ると放置していた。

 だが、自分たちの予想に反する形で息子と再会した。

 ダニエルの死体を抱き抱え嗚咽する妻の両手をダニエルの体ごと切断する。

 悲しみが痛みより勝っているのか、腕を切られて尚もダニエルの死体に覆いかぶさるようにして泣き叫んでいた。


「前領主を殺したのは何故だ」


 妻と息子の様子を呆然と見ていた領主にリーダーらしき男が質問をする。

 エルダが質問することが分かっていたようだった。


「そ、そんなことは知らん。あれは事故死だ‼」


 あくまで自分たちは関与していない発言をする。


「そうか、俺たちの勘違いか。素直に白状すれば助けてやるつもりだったが、人違いであれば殺すしかないな」


 嘘の発言をしたことで自分たちが殺されると思った領主は、すぐに発言を覆した。


「そ、それは邪魔だったからだ。あいつは俺の不正まで知り告発しようとしていたからだ。あんな無能より俺のほうが領主に相応しい」


 悪びれることなく答える領主にエルダは怒りを抑えるのに必死だった。


「素直に話したから助けてくれ。このことは誰にも喋らない……金貨が目的なら出来るだけ要望に応える」


 生き残るために必死な領主の無様な姿に怒りが更に増す。


「……本当に下衆ね」


 発言と同時に顔を覆っていた布をめくる。

 領主を見下すエルダに領主と妻の表情が固まる。

 自分たちを拉致した者の一人が顔を晒したからだ。

 しかも、その顔に初対面でなく、どこか見覚えがある――。


「エルダか……」


 死んだはずだ……。

 領主の脳裏に浮かんだ言葉だが、それよりも助かるために何をすべきかに脳を働かせる。


「助けてくれ。事故でお前の両親が亡くなった後も、お前を探していたんだ」


 先程、自分が発した言葉と矛盾していることさえも気づかないくらいに気が動転しているようだった。


「私の両親を事故死に見せかけて殺したことは分かっているのよ。全て正直に話しなさい」


 領主は観念したのか、言葉を選ぶように話し始めた。

 前領主亡き後、自分への疑惑を払拭するために真偽の水晶を使用したことにして、自分の無実を証明する。

 そして報告を終えた後、事実を知っている者たちを口封じのために全て殺害した。

 こうして、前領主だったエルダの両親は事故死だということを事実だけが残る。

 それからエルダの美貌を利用しようとしたが、ダニエルが口を滑らせたせいで事件のことでエルダから詰め寄られる。

 自分の障害になると判断して、エルダを殺害を依頼する。

 森の中まで追い詰めたが崖から転落したが生きてはいないだろうと報告したうえで、エルダを逃した使用人の死体と、エルダが来ていた服の一部を提出されて領主は報酬を手渡した。

 だが、エルダが生きていたことに自分は騙されたと知り、殺害を依頼した奴らに不満を漏らす。

 とことん腐りきった伯父と呼んでいた目の前の男に軽蔑と怒りの目を向ける。


「出来るだけ苦痛を与えてくれる」

「分かった」


 冷酷に言い放つエルダに、自分たちが助かることはないと思ったのか領主は肩を落とす。

 一方で妻は息子ダニエルの死体から引き離されていた。

 ダニエルの体は弄ばれるようにして、妻の目の前で切り刻まれる。


「や、止めて……」


 目の前で死んでも悲惨な目にあわされている息子を救うかのように、何度も何度も懇願するが、その願いは叶えられることはなかった。

 そして、領主の妻も息子ダニエル同様に拷問を受けることとなる。


 エルダが魔力の続く限り、治療魔法を施して延命させることで、二人の苦痛は続く。

 そして……エルダの望み通り、目の前で二人は絶命した。

 今度は、自分がオプティミスとの願いを叶えることに、心が痛みながらも決心した瞬間だった。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十二』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十四』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十四』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・ラバンニアル共和国に入国。期限:九十日

 ・報酬:敏捷(二増加)


■サブクエスト



■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)  

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