第198話
「あなた、カリスさんと会ったのですか。一緒にいたもう一人って、どんな人でした⁈」
リゼにつかみかかると、顔を隠していた布がめくれて、褐色の肌が現れた。
いきなりのことで戸惑うリゼとミノア。
ミノアは、すぐに後視線を馬車の外に移して、警護に戻った。
リゼとミノアの会話に興味の無かったふりをしていたが、カリスの名前がでたことで我を忘れていた。
「誰でしたか⁈」
あまりの形相に恐怖を感じたリゼは答えられずにいると、さらに詰め寄るがリゼの表情を見て、自分がいかに非常識な行動を取ったのだと認識したのか冷静になる。
「すみません。僕は”イディオーム”と言います。訳あって、その……カリスさんを探しています」
「イディオームと言ったか、お前……ドワーフ族か?」
ミノアの言葉で、体を隠していた布がめくれていることに気付き、すぐに布を直す。
「いまさら隠してもしょうがないだろう」
ミノアはリゼの安否が気になったので、一瞬だけ視線を戻したが、すぐに視線は後方へと移してに向けたまま笑い気味に話す。
「たしかに、その肌の色だと一目でドワーフ族って分かるな。警戒するのも仕方がないか」
ドワーフ族は褐色の肌が特徴だが、肌の濃さも人によって異なる。
ミノアの肌はかなり濃い。カリスやナングウは違和感がなかったが、ミノアの場合は、悪意の有無に関わらず人目を引くことは間違いない。
「はい。私はドワーフ族のなかでも濃い部類です。人種差別が無いことは知っていますが、好奇の目で見られることでトラブルに巻き込まれるのを避けるためです」
直接的な被害はなかったが、行く先々で人目が気になっていたことから講じた策だった。
出来るだけ目立たないように旅をしていたのだろう。
「それで一緒にいた方の名前は覚えておられますか?」
「はい、ナングウさんです。お年寄りでした」
リゼがナングウの名を口にすると、イディオームの表情が明るくなる。
ただ、リゼから詳しい話を聞くと、イディオームの表情が曇る。
カリスとナングウの向かった先が、今から向かうレトゥーンとは反対方向だったからだ。
気が付いたとはいえ、今から引き返すことも出来ない。
出来たとしても次の町で、この馬車を降りて行き先を変えるしかない。
「その……イディオームさんと、カリスさんたちの御関係は?」
イディオームはリゼの質問に即答せずに少し考えて口を開く。
「私は元々ナングウ様に仕えていました。それが突然、旅に出ると書置きだけしていなくなられてしまって……同時期にカリス様もいなくなられたので一緒に行動していると思っていましたが、今の話を聞くまで確証はありませんでした。どうしても、伝えないといけないことがあるのですが連絡出来なかったので、途方に暮れていたところです」
我儘な主を持つと、使用人が苦労する典型的なパターンだとリゼは感じた。
使用人という言葉で、リゼはフィーネのことを思い出す。
その度に、元気で楽しい生活していることを祈っていた。
「リゼ様は、ナングウ様との間に会ったことを御教え頂けますか?」
「はい……ただ、私のことはリゼと呼んでください」
「承知しました」
リゼはナングウとカリスと出会った時から別れる時までのことを、思い出しながらイディオームに話をする。
「曖昧な部分もありますが、こんな感じでした」
「間違いなくナングウ様と……カリス様です。有難う御座いました、これはお礼です」
言い終わるとアイテムバッグから、黒い塊をリゼに手渡す。
とりあえず受け取ったリゼは礼を言うが、この黒い塊が何か分からずに戸惑う。
「アダマンタイトか……ドヴォルグ国でした採掘出来ない鉱石だな。情報の報酬としては破格だな」
羨ましそうにミノアがアダマンタイトを見ていた。
「そうですね。基本的に加工した物しか、国外に流通しませんからね」
「当り前だろう。加工できなければアダマンタイトといえど、ただの石だからな」
「はい、その通りです。ナングウ様がお世話になったのであれば、それ相応のお礼をするんが当たりまえだと思っております。それと、初めて有力な情報を得ることが出来ましたので、私からの感謝の気持ちもあります」
イディオームは頭を下げて、リゼに感謝を伝えた。
「御名前はリゼ様でよろしいでしょうか?」
「はい」
アイテムバッグから石を小さく削り札状になった物を取り出すと、揺れる馬車の中で、石を削り始めた。
時間にして一分も経たずに削り終えた。
「もし、ドヴォルク国に来られる際は、こちらをお見せください」
削り終えた石をリゼに手渡す。
「これは?」
「ドヴォルク国の通行石です。と言っても、特別な札で見せる際に、私の名前を出してもらえば問題はありません。私が不在の場合は、代理の者が対応させて頂きます」
「そんな……私は特別なことをしていませんし、受け取るわけには――」
「いいえ、リゼ様‼」
リゼの言葉を遮り、イディオームは押し付けるように石を出すと、既にリゼの名前を彫り込んだので返却不可と、主であるナングウが世話になった人物を無下にできないと、半ば無理やりにリゼに石を手渡した。
「……有難う御座います」
イディオームの意思を無下に出来ないと思いながら、礼の言葉を伝えた。
「なるほど。加工が出来るドヴォルク国への入国までってわけか。羨ましいね」
ミノアの話だと、誰でもドヴォルク国へ入国することは出来ない。
技術の流出、武器や防具の不正流出などを規制するためだ。
イディオームもナングウやカリスが世話になったという理由だけで判断をしたわけではない。
ドワーフ族は生まれると同時に、炎の精霊と自動的に契約する。
精霊は他人の悪意には敏感なため、イディオームの精霊がリゼに対して嫌悪感を抱いていないことから、信用に値する人物だと判断をしたのだ。
炎の精霊は契約者を傷付けることが無いので、魔法師が使用する杖などが無くても、直接拳などに炎をまとって、戦うことが可能だ。
リゼは思っていたよりも特別な通行石を見ながら、”名匠”という言葉が頭を過ぎった。
そう、もしかしたら名匠の武器が手に入るかも知れないという期待が――。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:三十六』
『魔力:三十』
『力:二十二』
『防御:二十』
『魔法力:二十一』
『魔力耐性:十六』
『敏捷:八十四』
『回避:四十三』
『魅力:二十一』
『運:四十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
・ラバンニアル共和国に入国。期限:九十日
・報酬:敏捷(二増加)
■サブクエスト
・レトゥーンで三泊。期限:三年
・報酬:魅力(三増加)
■シークレットクエスト
・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
・報酬:万能能力値(五増加)
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