第197話

 王都から移動するため、馬車乗り場でレトゥーン行きの馬車を待っていた。

 視線は銀翼館に向けられる。

 アンジュとジェイドに挨拶をしようと思ったが、既に別れの挨拶は済ませているので、あの別れに水を差すと思い挨拶に行くのを止めた決断が良かったのかを悩んでいた。

 リゼの近くには誰も居ないので、この場所で会っているのか不安になる。

 少し離れた場所で、全身に布を纏っている人が一人立っているが、レトゥーン行きを待っているのかさえ分からなかった。

 たとえ、乗車する人が居なくても、王都とレトゥーンを往復しているため、レトゥーンから王都に来る人が居るかも知れないし、途中に寄る町からの乗車客がいる可能性もあるため、誰も乗せないままレトゥーンに出発する。

 

 リゼは自分一人の方が気が楽だと思いながら、時間がくるのを待つ。


 しばらくすると、レトゥーン行きを案内する声が聞こえた。

 リゼが移動を始めると、全身に布を巻いた人も同じように移動を始めていた。


「はい、どうも。今日は二人だね。好きな場所に座っていいからね」


 人懐っこい運転手に促されて荷台へと乗り一番手前に座ろうとするが、すでに二人の冒険者っぽい人が座っていたので、少し間を開けて座る。

 後ろにいた全身に布を巻いた人は一番奥に座る。

 と言っても、片側に五人座れる程度の椅子が両側にある乗客数十人の馬車なので、普段会話する声の大きさでもだ。


「彼らは護衛の”タミン”と”ミノア”だ」

「剣士のタミンだ」

「魔導師のミノアだ。短い間だがよろしく」


 リゼたちが乗り込んだことを確認すると、護衛の二人を紹介してくれた。

 剣士のタミンは前方の確認をするためか、運転手の隣へと移動するため荷台から降りる。


「じゃぁ、行きますね」


 運転手の合図で出発する。

 憧れた王都、滞在時間は短かったが懐かしさを感じながらも、王都を見ていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――王都を出て三日目。

 特に問題もなく順調に進んでいる。

 同乗した全身布の人物は顔はおろか、声さえも聞いたことが無い。

 食事も別々だし、休憩や野営も離れて過ごしている。

 特に干渉するつもりはないが、全身を布で覆っているという特殊な格好なので、どうしても目がいってしまう。

 移動中にミノアと少しだけ話していたが、ミノアとタミンは馬車を運営している商人ギルドの依頼を専属で受けてる。

 もう一組とで交代しながら、何年もレトゥーンと王都を行き来しているそうだ。


「レトゥーンも今、情勢が不安定だから避ける人が多いのに珍しいな」

「そうなのですか?」

「あぁ、領主が変わってな。ほとんどの領民は喜んでいるんだが、前領主と仲の良かった者たちが騒いでいるんだ。まぁ、前々領主の冒険者上がりの記憶喪失娘を良く思っていないんだろう」

「そ、その領主の名前って分かりますか?」

「あぁ、元銀翼のラスティアだ――って、記憶の戻った今は違う名前だがな」


 王都とレトゥーンを往復していたため、ミノアは王都の情報に疎かった。

 そのため、リゼが銀翼に入ったことを知らない。

 行き先にレトゥーンを選んだのは偶然じゃない。

 自分のクエストに出なければ一生選ばない土地だ。

 そう……レトゥーンに行くには理由がある。

 それ以上にラスティアに会って、事実を確認したい衝動に襲われた。

 出来る限りの情報をミノアから聞き出そうとするが、ミノアも詳しいことは知らないと言いながらも、知っている情報を教えてくれた。

 ラスティアが……いや、エルダと名前を変えてレトゥーンに戻ってからは領主の館に閉じこもり、領民への挨拶に一度だけ姿を現しただけらしい。

 そもそも領主によっては、姿を領民に見せない領主も多い。

 悪い噂だと前領主の使用人のほとんどを退職させて、信用出来る使用人のみ残したそうだ。

 このことで退職した使用人たちから反発もあったそうだが、レトゥーンに戻った際に一緒にいた付き添いの者や、エルダの幼少期を知っていた使用人たちに一喝されたそうだ。


「レトゥーンには一人で戻ったわけではないのですか?」

「俺も詳しくは知らないが、一人の男が付き添っていたそうだ」

「そうですか……」


 ラスティア一人では心配だと思った知り合いが付き添ったのだろうか?

 そのようなことはギルマスから聞いていないので少し驚いたが、普通に冒険者一人旅、しかも戦闘職でないのであれば、手を貸してくれる冒険者や商人も居るのだろうと思い直す。


(……クエストには意味がある)


 リゼは今回のクエストで、シークレットクエストの目的地ヴェルべ村にも興味を持つ。

 この二年で回るべきだと思いながら、話をミノアに振る。


「他の国にも詳しいですか?」

「最低限の知識くらいだが、夕食の時にでも話し相手になるぞ」

「ありがとうございます」


 それからも後方を警戒しながら、リゼの話し相手になってくれていた。


「名匠って聞いたことがありますか?」

「名匠か……三大名匠の武器だよな。俺も駆け出しのころに憧れたよ」


 視線は後方を見たまま苦笑いする。


「ドワーフ族って噂もありますよね?」

「たしかに、そうだな。武器防具作りにおいて、昔も今もドワーフ族に勝てる種族はいないだろう」

「その失礼なことかも知れませんが、ドワーフ族と人族での違いは見た目で分かるのですか?」

「そうだな。肌は褐色で筋肉質だ。ただ、日焼けした色と区別付かないこともあるから、見た目で判断するのは少し難しいだろう」

「そうですか」

「他には異常に酒好きで酔わないくらいだろうな。ただ、ドワーフ族は自国ドヴォルグから、あまり出ることないし、自分たちから名乗ることもしない。まぁ、日焼けして大酒呑みだったら、ドワーフと思ってもいいかも知れないな。そんな奴に会ったことないか?」

「日焼けして筋肉質な体で、大酒呑み……あっ!」


 リゼは大酒呑みで二人の人物が浮かび上がった。

 そして、肌を露出していた女性は日焼けした筋肉質な肉体だった。


「誰か身近にいたか?」


 面白い話になりそうな予感がしたのか、ミノアは会話を続けた。


「はい。以前、オーリスにいた時に会いました。二人なんですが、とても強いのに冒険者じゃなくって旅をしているって言っていました。もの凄くお酒が強かったので覚えています」

「へぇ、それならドワーフ族だったかも知れないな」

「はい。カリスさんは女性なのにお酒で何人もの男性を良い潰していました」


 奥で静かに座っていた全身布の同乗客が立ち上がる。


「カリスさんですってーーーー‼」


 馬車内に大声が響いた。

 


――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十六』

 『魔力:三十』

 『力:二十二』

 『防御:二十』

 『魔法力:二十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十四』

 『回避:四十三』

 『魅力:二十一』

 『運:四十八』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト

 ・ラバンニアル共和国に入国。期限:九十日

 ・報酬:敏捷(二増加)


■サブクエスト

 ・レトゥーンで三泊。期限:三年

 ・報酬:魅力(三増加)


■シークレットクエスト

 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年

 ・報酬:万能能力値(五増加)  

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