第192話
アルベルトから送られた手紙の日付は一年以上前だった。
オルビス殿
突然、このような手紙を出したことに驚かれていることだろう。
本来であれば対面や口頭など別の方法でお伝えすべきところを、書面で伝えることを許して欲しい。
ここ一年ほどだが、銀翼の周囲で幾つかの不思議な出来事が起きている。
些細なことで気にし過ぎと言われれば、その通りかも知れない。
だが、日に日にその違和感が大きくなっていき、その違和感にクウガも気付いていた。
銀翼の周りでというよりも、私も含めてメンバー誰かに対しての不審な動きがあると言い換えた方が良いかもしれない。
銀翼を良く思っていないクランの妨害かも知れないが、それとは別の意図を感じている。
考えたくはないが、メンバー内に内通者がいる可能性も拭えない。
全て私の杞憂であって欲しいと思っている。
もし、自分たちに何かあれば、アンジュとジェイドのことを気に掛けて欲しい。
彼らは冒険者として未熟だが、間違いなく将来一流の冒険者となると私は確信している。
最後に尊敬出来る冒険者の貴方だからこそ。
昔、私を助けてくれたように彼らにも救いの手を差し伸べて欲しい。
もちろん、天翔旅団に迷惑を掛けるつもりはない。
迷惑であれば忘れて貰っても構わない。
と書かれていた。
アルベルトは何かに気付いていたが、究明までに至っていなかった。
そして、銀翼に内通者がいたかも知れないと思っていたこと。
「俺の推測だが、アルベルトは仲間を疑っていなかったと思う。クウガと二人で秘密裏に動いていたのだろうな。だからこそ、俺は今回の件を疑っている」
「そうですけど……」
戸惑いながら答えるアンジュ。
「裏切ったとしても、自分の意志ではないとも考えられる」
「それはラスティアさんが誰かに脅されていたことを言われていますか?」
「可能性の話だ。さっきも話したが、今回ラスティアの行動に違和感を感じていることは確かだ」
「……」
アンジュとジェイドは黙り込む。
つい先ほどまで、仲間を……ラスティアを疑うことなど頭の片隅でも考えたことなど無かったからだ。
「あくまで憶測だ。冒険者ギルドもクエスト主から依頼を取り下げられたので、
これ以上の捜査などはしない……いいや、出来ないだろうな」
「出来ない……っスか」
「あぁ、依頼を取り下げている以上、冒険者ギルドも関与出来ない。仮にクエストを出したとしても、熟練の冒険者になるし、それなりの熟練度と多額の費用が必要だ。なによりも銀翼がクエスト失敗をしたため危険度が上がっているから、受注する冒険者はいないだろうな」
話を続けていたオルビスは少しだけ間を置いた。
「銀翼を裏切ったメンバーがラスティア一人とは限らないしな」
この言葉にはアンジュとジェイドが、思わず立ち上がった。
「悪い。あくまで可能性の話だ。クランを裏切る奴なんて、いくらでもいるしな。もちろん、俺のクランでもだ。死んだと思わせて生きているってことだってあり得る。なにより、胡散臭いのは指名クエストを出した貴族が行方をくらましている」
「でも、クエストを取り下げたって」
「取り下げたのは、執事だか使用人が不在中の依頼主から手紙を預かっていたそうだ」
「それって……」
「あぁ、クエスト失敗を知っていたかのように感じるだろう。もちろん、成功していた場合も用意していたかも知れんが、用意周到過ぎる気がする」
オルビスは疑った視点から話を進める。
「それにラスティアの記憶が戻り、元居た領地に戻るとしても、それまで領主が居たはずだ。聞いたところによると、ラスティアは揉めることなく領主になったそうだ」
「それだけ、ラスティアさんのことを大事に思っていたんじゃないっスか?」
「その前領主は身を引いて、遠い場所に移ったと言っているが、仮にも領主だった者が簡単に移動するとは思えない。それが今よりも高待遇の移動であれば別だが、そのような情報も入ってきていない」
「それは、ラスティアさんが領主になれるように、領主交代を計画的に進めていたってことでしょうか?」
「そうとも捉えられる。君が金狼のコウガに喧嘩を売ったと巷で噂のリゼだね」
「はい」
口を挟んだリゼにオルビスは好奇の目を向ける。
敢えてコウガとのことを口にしたのは、興味があったからだろう。
人の往来がある入り口で敢えて口にしなかったのは、オルビスなりの配慮だった。
リゼも噂は分からないが、自分のことだろうと思い返事をした。
「俺は近々、Sランクの昇格試験を受ける。たまたま、通り道に現場があるから、寄ってみるつもりだ」
「それなら――」
「駄目だ」
立ち上がったアンジュの言葉を遮る。
オルビスは、アンジュの次の言葉が分かっていたからだ。
「連れて行くのは、天翔旅団のメンバーだけだ。これは天翔旅団のクランとしての底上げもある。だが、あくまで寄って状況を確認するだけで、洞窟に入るつもりはない」
強い口調で、口を挟めなかった。
「もちろん、俺の昇級試験には手を出させない」
ランクSの昇級試験内容が分からないが、簡単な試験で無いことだけは確かだ。
アンジュとジェイドは試験内容を聞きたかったが、それは聞かないのが冒険者のなかで暗黙のルールだった。
「それよりも銀翼として、やるべきことがあるだろう」
銀翼としてやるべきこと。
この言葉がリゼたちの心に突き刺さる。
「個々としての強さを求めるのか、クランとして連携を考えるのか、どう考えている?」
「……」
オルビスは厳しい言葉をぶつける。
個々に強くなりクラン自体を底上げをするか、仲間と連携に軸を置くのか……。
どちらが正しいという訳では無い。
個々が強くなり、仲間と連携出来るのが一番だが、中途半端だとクランとして成長を妨げることもある。
だからこそ、銀翼の方向性を確認したのだった。
「まぁ、焦って答えを出す必要もない。クランそれぞれに考えがあるだろうからな。それで、リーダーはアンジュか?」
「はい」
口調から銀翼のリーダーを知らなかったようだが、今までの会話からアンジュだと推測していた。
「リーダー次第でクランは変わるから、頑張れよ」
「ありがとうございます」
冒険者として、クランのリーダーとして先輩からの助言だった。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:三十六』
『魔力:三十』
『力:二十二』
『防御:二十』
『魔法力:二十一』
『魔力耐性:十六』
『敏捷:八十四』
『回避:四十三』
『魅力:二十一』
『運:四十八』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
・敬える冒険者への弟子入り。期限:十四日
・報酬:戦術技術の向上、理解力の向上
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