第173話
「この二冊にします」
「承知しました」
リゼが陳列された場所から二冊取り出した
「なかなか、変わった魔法を選びましたね」
「そうですか」
魔法についての知識がないリゼは、この選択が正しいのかさえ分からなかった。
選んだ”ディサピア”と”ドッペルゲンガー”は、どちらも戦闘系の魔法ではない。
リゼは知らないが、闇属性魔法の攻撃魔法は超級にしか存在を確認されていない。
主に攻撃補助か、斥候などの調査に適した魔法が多い。
闇属性魔法が希少なこともあるが、闇属性をメインにしている魔法師はいない。
反する光属性魔法も同様だが、闇属性よりも光属性の魔法が多く出回っている。
回復魔法師や、治癒師などは魔法特性が『光』の冒険者が多い。
回復魔法師から中級魔法師へと転職して、回復役も兼用しながら活動する冒険者もいる。
回復も出来て攻撃魔法も使える冒険者は一時期、重宝されたことも影響している。
光属性魔法は応用が利き、パーティーに役立つと考えられているのに対して、闇属性魔法は個の魔法が多く、パーティーへの貢献度が少ないと、多くの冒険者たちは認識していた。
最初に選んだ”ディサピア”は、完全に自分の存在を消すことが出来る魔法だ。
目の前に居ても認識出来ない状態になるが、時間に制限がある。
感知系のスキルが自分よりも格上だった場合や、強力な光属性魔法の攻撃を受けると無効化される。
次に選んだ”ドッペルゲンガー”は影から分身を発現させる。
姿形は影だが、自分の思考で動いてくれるもう一人の自分なので、二人で戦闘をしている状況になる。
しかし、ディサピア同様に光属性魔法で無効化されることもある。
リゼはグローアに
アイテムバッグを購入する時のように、血判を押すだけなのかと思っていたリゼは意外な言葉を聞く。
「手のひらを切って、そこから魔力を流してください」
「魔力を流す?」
グローアは当たり前のことを言っただけだったが、学習院に通っていないリゼにとっては、意味不明な言葉なのだと気付く。
「すみません。言葉足らずでした」
リゼに謝罪すると、グローアは魔力を流す方法を教示する。
慣れれば簡単なことなのかも知れないが、初めてのリゼは上手く魔力を手のひらに流すことが出来なかった。
魔法やスキルを発動させる時に、意識することが大事だと教えてくれたが、あくまで一般論なため、リゼの習得しようとする魔法は特殊なことを教えてくれた。
何度か試していると、コツが掴む。
「そうです。その感じです」
グローアの指導のおかげで魔力を流すことが出来るようになる。
そして、魔法修得と同時に『メインクエスト達成』『報酬(魔力(二増加)、魔法力(二増加)』、『サブクエスト達成』『報酬(魔力(八増加)、魔法力(八増加)』と表示された。
リゼは習得した魔法の使い勝手を試したいと思っていた。
最悪、使えない魔法だったとしても仕方がないと考えていたのだ。
隣にいたアンジュも魔法を試したいようだったが、簡単に試せるような魔法でも無い。
その向こうでジェイドは選んだ手甲をはめて、楽しそうに動きを確かめていた。
リゼはジェイドを見ながら、手に装着している手甲が上級の
当然、月白兎も同等の追加報酬を貰っているのだと考えていた。
ジェイドが落ち着き席に座るころには、所員たちが武器や
ジックペリンは再度、円盤のことを口外しないことと、円盤回収への協力をリゼたちに念を押すように話す。
リゼたちはジックペリンを安心させるように頷いて答えた。
「追加報酬の
「それは私たちがここ、魔法研究所に来たこと自体を忘れろということですか?」
「いいえ、追加報酬を与えたことを知られないようにする措置です」
アンジュの問いに、ジックペリンの代わりにグローアが答えた。
「円盤回収の件は、アルベルトさんたちに伝えても問題ありませんか?」
「はい、事情を知っているメンバーだったら、回収に協力することになったことを伝えて構いません」
リゼは自分が気付かないことを質問するアンジュに感心していた。
一通り話を終えて帰ろうとするリゼにジックペリンが話し掛ける。
「リゼは何処の出身ですかな?」
「オーリスです」
即答するリゼだったが、予想していた言葉と違っていたのか、ジックペリンの表情は硬かった。
「オーリスですか……御両親もですかな?」
「両親は亡くなっていますので、詳しいことは分かりません」
「そうでしたか。それは失礼致したの」
「どうして、そのようなことを聞かれるのですか?」
リゼは王都魔法研究所の所長であるジックペリンが、なんの取柄もない自分に関心を持ったことに疑問を感じた。
「いえ、その髪と目の色が珍しいので、もしかしたら”パマフロスト”の御出身かと思いましての」
ジックペリンが発した”パマフロスト”という言葉を、リゼは母親から聞いたことがあった。
絶対に行ってはいけない! と言われていた場所だったからだ。
幼いリゼは意味が分からなかったが、行くことは無いと思いながらも、ジックペリンからパマフロストという言葉を聞く今の今まで忘れていた。
「多分、違うと思います」
「そうみたいですの。引き止めて悪かったの」
「いいえ」
ジックペリンたちとは、ここで別れて別の所員に案内されて出口へ歩く。
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「んっんーーーー」
王都魔法研究所を出ると、アンジュは大きく背伸びをする。
「なんか得した気分スね」
「そうね。結果的には良かったわね」
楽しそうに話すジェイドとアンジュだったが、リゼはジックペリンの言葉が頭から離れなかった。
自分の生い立ちを考えたことなど、今まで一度もなかった。
母親がどうして故郷を出て、あの村で生活をしていたのか?
自分と言う人間と向き合うには必要なことだと考えていた。
「気分でも悪い?」
「あっ、大丈夫……です」
「そう。なにか悩んでいるんだったら、相談しなさいよ」
「そうっスよ」
親身になってくれるアンジュとジェイドに、リゼは感謝をしていたが恩をどのように返して良いのか分からなかった。
「明日、一緒にクエストをしないっスか?」
「いいわね。私も新しい魔法を使ってみたいしね」
アンジュは不敵な笑みを浮かべていた。
ジェイドはアンジュが悪いことを考えているのだと分かったのか、顔が引きつっていた。
「リゼもいいわね」
「はい!」
流されるように返事をしたリゼだったが、相変わらず他人行儀のような口調をアンジュとジェイドに問い詰められた。
「出来る限り頑張る」
一朝一夕で治るわけではないが、意識を定着させる必要があるので、アンジュは何度も指摘する。
最初はアリスに頼まれて、リゼの面倒を見ていたが数日の間、リゼと行動を共にしたことで、リゼという人間を気に入っていた。
明日の朝、冒険者ギルド会館で集合することにして解散する。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
宿の部屋に戻ると『メインクエスト(+)』が目の前に現れた。
クエスト内容は『魔力の枯渇(三回)期限:十日』『報酬(体力:一増加、魔力:二増加)』だった。
リゼ自身、魔力が枯渇すると、どうなるかを知らない。
一度、アンジュに聞いてみてから、メインクエストを開始しようと考えていた。
とりあえず、リゼは習得した魔法”ドッペルゲンガー”を発動させる。
「姿を現せ”ドッペルゲンガー”」
影が浮きあがると形を変えて自分と同じ姿になる。
自分の考えが読めるということじゃなく、もう一人の自分がそこにいるかのようだった。
手を出せば握手をして返す。
そして、小太刀を抜くと、同じように影で出来た小太刀が具現化された。
リゼは具現化された小太刀が切れるのか疑問に感じていた。
アイテムバッグからパンを取り出して影に向かって投げると、小太刀でパンを綺麗に斬った。
攻撃に問題が無いことを確認出来た。
視線を動かしても右上に数字と時間が表示されている。
ステータスを確認すると、表示されている数値が魔力値だということが分かった。
別の数字は具現化できる時間だと理解をする。
頭の中で魔法を終了することを考えると、具現化された影が消えて、表示されていた数字も見えなくなっていた。
次に”シャドウステップ”を試すことにする。
「我を闇の先に導け! ”シャドウステップ”」
影の部分が薄っすらと青くなる。
壁に足を預けると、そのまま壁を歩くことが出来た。
しかし、青い部分以外に足を置くと、体勢が崩れた。
青い部分のみ歩くことが出来るようだ。
そして”ドッペルゲンガー”と同じように表示される時間が減っていく。
この数字が無くなると、魔法の効果が切れるので注意が必要だ。
ステータスを見ると、先程よりも魔力が減っている。
それと新たに魔法が追加されていた。
その”ドッペルゲンガー”の文字の横に数字が表示されていた。
連続して使用できないということなのだろうと、リゼは思いながらも”ドッペルゲンガー”を発動させたが魔法が発動することがなかった。
まだ試していない”シャドウバインド”と”ドレイン”、”ディサピア”は実戦でする必要がある。
壁に立ったまま”シャドウステップ”の魔法が切れるのを待ちながら、「明日、試しててみよう」と考えてた。
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■リゼの能力値
『体力:三十五』
『魔力:二十八』(十増加)
『力:二十二』
『防御:二十』
『魔法力:二十一』(十増加)
『魔力耐性:十六』
『敏捷:八十四』
『回避:四十三』
『魅力:十九』
『運:四十五』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
・魔力の枯渇(三回)期限:十日
・報酬:体力(一増加)、魔力(二増加)
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