第167話
「……変ね」
野盗がアンジュたちの攻撃を様子見するかのように、積極的に攻撃をしてこなくなっていた。
荷台に仲間がいるからなのかも知れないが、アンジュは違和感を感じていた。
一刻も早く、荷台のリゼの元へと行きたかったが、均衡を保っている今の状況で、一人欠けるのは戦況が変わってしまうと判断する。
アンジュはシュウとの会話で、野盗の持っている
だから肉弾戦による接近戦に切り替えたため、安易に攻撃できなくなっていることを月白兎のメンバーに伝える。
広範囲を攻撃出来る魔法を使用して、野盗を殲滅していく。
魔法を回避した野盗はシュウたちの追撃に対応出来ずに、徐々に数を減らしていった。
「あいつら、今日はしつこいな」
「そうね」
いままでは、ある程度攻撃をしてきて撤収するを繰り返して、こちらの疲労を狙っていたが、ダンテが王都に行ったことで、野盗たちも焦りを感じているのかも知れないと、シュウたちは感じながら最後の戦いだと思いながら、気力を絞っていた。
「お前ら、攻撃を止めろ‼」
荷台から下りてきた野盗が叫ぶ。
リスボンの喉元には剣が突き付けられていた。
「お前は、こっちに来い」
荷台からビトレイアを呼び寄せると、リスボンを突き放して人質をビトレイアに変えた。
人質としてはビトレイアの方が有利だと判断したのだろうと、リゼたちは黙って見ていた。
ビトレイアが居る限り、手が出せないのでリゼたちは野盗の指示に従うしか無かった。
野盗たちも集まってくるが、リゼたちに攻撃を仕掛ける素振りは無い。
集まった野盗の数は全部で十二人だった。
このまま、馬車で逃走するに違いない。
ビトレイアも一緒に連れていかれるので、彼女の危機が去ったわけではない。
なにより、リスボンの商品が奪われることは月白兎にとってクエスト失敗となる。
「貫け”ファイアニードル”」
体格のいいリハクとトミーに隠れていたアンジュが魔法攻撃をする。
攻撃されると思っていなかった野盗たちに炎の針が突き刺さる。
アンジュは人質のビトレイアに攻撃がいかないように調整をしていた。
何度も使い魔法を熟知しているアンジュだからこそ出来た芸当だ。
シュウとシアクス、トミーの三人も一気に走り出して、野盗たちを攻撃する。
拘束されていたビトレイアだったが、ファイアニードルに驚いて野盗が本能的にビトレイアから離れたのを見逃さなかったシュウは、ビトレイアの捕獲を優先する。
捕獲と同時に、ビトレイアをリハクに預ける。
重戦士のリハクを中心に、他の月白兎のメンバーもビトレイアとリスボンの護衛をする。
野盗の一人が仲間を見捨てたのか、馬車で逃げようと走り出す。
リゼは反射的に体が動き、その野盗を追う。
距離があったが、野盗が馬車の馬を操作する前に攻撃をすることが出来た。
攻撃と言っても威嚇するだけだったが、野盗には効果的だった。
馬の前に陣取ったので、リゼを倒さないと馬車で逃走することは不可能だ。
「くそっ!」
強引に通過できないと覚悟を決めた野盗は、腰から
そこで、
魔術師の詠唱よりも時間を要するため、使用する時に注意が必要だ。
慣れていないと、発動時間が過ぎてしまい
一連の動作を見る限り、この野盗は
野盗は”ウィンドカッター”を発動させてリゼに向けて放つと、空気の刃がリゼを襲う。
視界が不自然に歪むので、飛んでくる場所はある程度予測することは可能だが、リゼの体から血が流れる。
間髪入れずに
エアプレスの攻撃範囲が後ろにいた馬二頭にも空気の圧力が圧し掛かり、鳴き声を上げる。
縄で樹に縛られているので、逃げることも出来ない。
もし、ここで馬が倒れれば、自分たちの移動手段が絶たれる。これは目の前に居る野盗も同じだ。
しかし野盗は手を緩めることなく、
エアプレスで身動きが出来ないリゼはエアバレットを何弾か直撃する。
幸か不幸かエアプレスの影響で弾道が下に落ちたので、全弾被弾は回避できた。
エアプレスの効果が切れるのを待っていたのか、効果が切れると同時に野盗は剣で攻撃をして来た。
リゼは野盗の攻撃を予想していたので、エアプレスの効果が切れると同時に、すぐに防御する。
攻撃もするも本気で傷付ける攻撃ではないと、すぐに気付かれてしまい、防戦一方のリゼだったが、攻撃を跳ね返そうとして放った攻撃が野盗の首をかすめると同時に、勢いよく血が噴き出す。
返り血がリゼに降りかかる。
「こんなはずでは……もう、戻るだけだったのに――」
最後にリゼへの恨みを口にしながら、最後の力でリゼを攻撃しようと振り上げた手は無情にも途中で握っていた剣を落とすと同時に、体ごと地面に崩れた。
リゼは自分が野盗を殺してしまったことに呆然としていた。
耳から入って来る爆音や、武器の衝突音で戦闘中だということを思い出す。
たった、数秒だったが戦場では、この数秒が命取りになる。
無理にでも気持ちを切り替えてアンジュたちの元へ戻ろうとするが、小太刀を持っている手が震えていることに気付く。
何度も震えを止めようとするが、震えは止まることなかった。
「リゼ‼」
血まみれのリゼを見たアンジュが叫ぶ。
「大丈夫です」
野盗の攻撃を避けながら、アンジュたちと合流する。
「逃げた奴は?」
「倒し……殺しました」
「……そう」
わざわざ言い直したリゼの胸中を察したアンジュは、それ以上話すことはしなかった。
小太刀を持つ右手が振るていることにも気付いていたからだ。
もう、野盗たちも虫の息であったが、逃走する気配は無い。
指揮をするリーダーらしき人物はいない。
野盗であれば、自分の命欲しさに逃亡するはずだ。
アンジュは戦っている相手が野盗では無いことを確信した。
では目的は……?
アンジュは周囲を注意深く観察しながら、野盗の攻撃を続けた。
リゼも人を殺したショックから抜け出せずに、今も頭の中が混乱していた。
冷静になろうとすればするほど、人を殺した時の風景が鮮明に浮かぶ。
リゼなりに気付かれないように振舞っていたが、アンジュはリゼが動揺していることに気付いていた。
――数分後。
野盗たちを全滅させることに成功する。
アンジュとシュウは小さな声で話をしている。
リゼはシアクスとリハク、アントニーの四人で、リスボンとビトレイアを警護する。
他の月白兎のメンバーたちは、野盗たちの死体を一ヶ所に集めていた。
「リスボンさん」
シュウがリスボンを呼ぶと、小さな声で荷物の確認作業をするように御願いをする。
荷台に入るとすぐにリスボンが叫ぶ。
「無い! オークションで購入した品が無い!」
シュウは慌てるリスボンを落ち着かせるように宥める。
「襲撃前までは間違いなくあったのに……」
顔色が悪くなるリスボンは、膝を付いて崩れ落ちた。
「ちょっといいかしら」
アンジュが全員を見渡しながら口を開いた。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:三十五』
『魔力:十八』
『力:二十二』
『防御:二十』
『魔法力:十一』
『魔力耐性:十六』
『敏捷:八十四』
『回避:四十三』
『魅力:十七』
『運:四十三』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
・王都にある三星飲食店で十回食事をする。一店一回。期限:十二日
・報酬:魅力(二増加)、運(二増加)
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