第166話

 傷付いたシアクスが動ける状態になったので、シアクスに案内されて馬車で待つ月白兎の仲間の元へと急いだ。

 移動している間もアンジュは手掛かりになる物が無いかと、目を光らせていた。

 その様子をリゼは後ろから見て学ぼうとしていた。

 しかし、それ以上に最後尾にいるので背後からの襲撃を警戒しなければならない。

 今までのクエストとは桁違いに気を張り続けなければならない状況に、リゼは自分でも知らずに気力が削られていった。


(なにもかもが中途半端なんだ)


 リゼの背後から草同士が擦れる音が聞こえると、三人が同時に振り返る。

 しかし、その音が自分たちから徐々に遠ざかっていく。

 音自体も小さいので、小さな動物か魔物だろうと三人は結論付けて、先に進んだ。

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「シアクス! それにアンジュ……か?」


 自分たちに近付く人影にかなり警戒していたのか、戦闘態勢をとっていた。

 現れたのが自分たちの仲間と、顔見知りの冒険者だったことから、安堵の表情を浮かべていた。


「ダンテは一人で動けないようだったので、見私の多い所まで移動してから、ジェイドが王都まで連れて行ってくるわ」

「そうか。色々と面倒賭けたみたいだな。本当に助かった、ありがとうよ。ダンテとジェイドが一緒なら安心だ……それより、隣に居るのは?」

「あぁ、冒険者のリゼよ。最近、王都に来たのよ」

「リゼです」


 リゼは頭を下げて挨拶をする。

 月白兎のメンバーは商人の護衛で王都を離れていたので、リゼとは初対面だった。

 それぞれがリゼに自己紹介を始める。

 まず、アンジュと会話していた男性冒険者が最初に口を開く。


「俺は月白兎のリーダーでシュウだ。よろしくな。職業は戦士だ」


 ダンテも戦士なので同じなんだと思い、リゼは聞いていた。


「次はリハクから、順に自己紹介してくれ」


 シュウが隣にいた体格の良い男性冒険者に声を掛ける。


「重戦士のリハクだ」


 言葉短めに自分の紹介を終えたリハクは、同じような体格をしている隣の男性に視線を送る。


「え~っと、トミーだ。職業は……武闘家」


 体格に反するかのように視線は落として、たどたどしく小さな声で話す。


「ごめんね。トミーはあまり話さないのよ。私は治癒師のチェリーよ。よろしくね」


 リゼは初めて治癒師という職業の冒険者と出会う。

 治癒師とは回復魔術師の上位職になる。

 レア職業の一つだ。

 シェリーの格好も今まで会ってきた回復魔術師とは違い、腰から何本ものナイフをぶら下げている。

 杖も鈍器と言われても納得してしまうようなものだ。

 リゼの視線に気付いたシェリーは笑顔のまま話を続けた。


「私は守られるだけの冒険者じゃないのよ」


 手に持っていた杖を回しながら自慢気に語る。


「シェリーは御転婆だからね。あっ、僕は中級魔術師のアントニー、主に使う魔法は水系や氷系だね」


 人懐っこい笑顔のアントニーは、シェリーのことを揶揄ったせいで怒られる。


「僕はオルタ。回復魔術師です。隣に居るのが、妹で中級魔術師のエマニエルです」

「エマニエルです」


 兄のオルタが妹のエマニエルの紹介も兼ねる。

 リゼは仲の良い兄妹だと思い、二人を見ていた。

 月白兎は東地区で活動しているクランで、クエストの多くは東地区に住む商人や住人が移動する際に護衛を主にしている。

 二チーム編成になっているが、今回は馬車が多いのでクラン総出でクエスト対応していた。

 銀翼とは護衛任務の際に、情報提供してくれるクランなので、クラン同士も良好な関係を築いている。

 だからこそ、アンジュやジェイドも仲間意識が他の冒険者よりも強く感じていたのだと、リゼは話を聞きながら感じる。


「シュウ、あの人は?」

「あぁ、王都に戻る時に一緒に来た人だ。名前は”ビトレイア”という。王都にいる親族のところへ行くそうだ」


 アンジュとシュウがビトレイアを見ると、自分のことを話しているのかと思ったのか、軽く頭を下げる。

 その後、シュウが依頼主の商人にリゼとアンジュを紹介する。

 商人の名は”リスボン”という名だった。


「そうですか、有難う御座います。銀翼の冒険者に護衛して貰えれば大変心強いです」

「申し訳ありませんが、私は銀翼に所属していません」


 リゼは誤解を招いたままだと申し訳ない気持ちがあり、正直に話す。


「そうでしたか。その報酬ですが、多くは支払えませんが出来るだけ支払わさせて頂きます」

「正式な依頼ではありませんので、月白兎への追加報酬で御願いします」

「そうだな。追加分は俺たちからアンジュたちに支払う」


 あっという間に商談がまとまる。

 森への経路変更は依頼主であるリスボンの決断だ。

 当然、それに伴う保証も必要になる。

 これで支払わなければ、条件の良いクエストであっても冒険者内で広がった悪い噂があり、クエスト自体を敬遠してしまう。

 アンジュは報酬のことよりも、今の状況を再確認していた。

 やはり、野盗の襲撃があり森に入ってからは、思っていたよりも移動が出来ていないそうだ。

 顔には出していないが、シュウたちも披露が溜まっているようだ。

 森に入ってからの移動距離を考えると、戻って正規の経路で王都を目指した方が良いということになる。

 銀翼の冒険者からの意見ということもあり、リスボンも素直に意見を聞き入れて、自分の決断で月白兎を危険に晒してしまったことを謝罪していた。

 全員を集めて、来た道を戻ることを伝えると全員が驚く。

 特にビトレイアは状況が分かっていないので、誰よりも驚いていたが説明をすると納得する。

 戻る準備をしていると、見張りをしていたリハクが叫ぶ。


「敵襲!」


 その言葉に手を止めて、戦闘態勢をとる。

 ここに来るまでに倒してきた野盗と同じような格好なので、野盗だとリゼとアンジュは判断する。

 誰よりも先に、アンジュの魔法が敵を攻撃する。

 広範囲のフレイムウォールで敵の足止めをする。

 周りの樹木に火が燃え移るが、アンジュは気にすることなく、炎系の魔法を使っていた。

 燃え移った炎をアントニーが水系魔法を駆使して消火活動をしていた。

 しかし、魔法を回避しながら攻撃してくる野盗もいる。

 近付く野盗をリゼも近付けないようにリスボンやビトレイア、そして馬車に積んである荷物を守る。

 無駄な攻撃をせずに馬車のみを狙ってくる。

 やはり物資を狙っているのだと思いながらリゼも戦っていた。

 数を減らすため、確実に息の根を止める必要があるが、リゼは追い払うしか出来ないでいた。

 数で押し負けていることもあるが、魔法への対応が即座に出来ている。

 いや、人との戦いになれているかのような連携にアンジュは違和感を感じる。

 強奪する野盗にしては連携が上手すぎる。

 しかも、スクロール魔法巻物を使い、魔法効果を軽減したり、打ち消したりしている。

 それも一人や二人ではない。

 強奪したとはいえ、野盗が簡単に手に入る量ではない。

 しかも貴重なスクロール魔法巻物を、惜しげもなく使用する。

 馬車の荷物を奪っても、野盗が得をするとは思えない。

 アンジュの疑念が大きくなっていった。


「しまった‼」


 アントニーが取り逃がした野盗をリゼたちが追い払っていたが、その一瞬の隙をつかれて、馬車の荷台へ侵入を許してしまった。

 荷台には襲われないように、リスボンとビトレイアが隠れていた。


「リゼ‼」


 偶然にも荷台から一番近い場所にいたのはリゼだった。

 荷台に向かった野盗を一早く追っていたのだ。

 アンジュの言葉はリゼも理解した。

 荷台に入り込んだ野盗はリスボンを人質にとる。

 野盗の後ろにビトレイアが座り込んでいる。

 荷台に乗り込んだリゼは野盗と対峙する。


「こいつを殺されたくなければ、馬車から下りろ‼」


 リゼは野盗を刺激しないように、一歩ずつ後退した。



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十五』

 『魔力:十八』

 『力:二十二』

 『防御:二十』

 『魔法力:十一』

 『魔力耐性:十六』

 『敏捷:八十四』

 『回避:四十三』

 『魅力:十七』

 『運:四十三』

 『万能能力値:零』


■メインクエスト

 ・王都にある三星飲食店で十回食事をする。一店一回。期限:十二日

 ・報酬:魅力(二増加)、運(二増加)

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