第142話

「どうして、ついて来るんですか?」

「だって、お酒を奢ってくれるんでしょう」

「そうそう、はぐれてもいかんからの」


 オーリスに戻ったリゼはギルド会館に向かっていたが、ナングウとカリスの二人が一緒について来たのだ。

 ナングウは別に良いのだが、カリスの格好が目立っており、道行く男性たちからの視線を集めていた。

 リゼは自分ではないが注目されることが恥ずかしかった。


「タイダイさんと一緒じゃなくて、良かったんですか?」

「うん、大丈夫よ」


 笑顔で返すカリスに、リゼは返す言葉が無かった。


「しかし、オーリスはいい町ね」

「そうですね」

「リゼは、この町出身なの?」

「いいえ、違います」

「へぇ、そうなんだ」


 これ以上、自分のことを聞かれたくないと思ったりリゼを察したのか、カリスはそれ以上、何も聞いては来なかった。


「よっ、リゼ‼」


 町を歩いていたシトルに声を掛けられる。


「こんにちは、シトルさん」

「珍しく一人じゃないんだな」


 シトルは隣のカリスに目を向ける。


「こんな美人と、どこで知り合ったんだよ」

「どこでって……」


 リゼが答える前にシトルが矢継ぎ早に話す。


「で、どこ行くんだ?」

「ギルド会館です。シトルさんもですか?」

「いいや、俺はクエストを終えたから、今から飲みに行くところだ」

「そうなんですか――」

「なんなら、一緒に行くかい。俺が奢ってやるよ」


 リゼが言い終わる前にシトルが上機嫌でカリスを誘う。


「本当に‼ やったわよ、ナングウ」

「お若いの、悪いの~」


 酒が奢ってもらえることに大喜びするカリスとナングウ。

 シトルとしては下心からカリスを誘ったに違いないが、まさかナングウまでついて来るとは思わなかっただろう。

 しかし、今からナングウだけ駄目だとは言い辛いので、シトルは笑顔でナングウも同行することを了承した。


「後で私も合流しますが、シトルさんはどこに行かれますか?」

「いや、特に決めていないけど」

「無理でなければ兎の宿でもいいですか?」

「あぁ、ヴェロニカの所ね。別にいいぞ。ハンネルにも暫く会っていないしな」

「すみませんが、宜しくお願いします」

「おう、任せておけ」

「と、いうことですので、ナングウさんにカリスさん。こちらのシトルさんと先に行って貰ってもいいですか?」

「全然大丈夫よ」

「そうじゃの、ゆっくりで構わんからの」


 リゼはシトルに悪いと思いながら、ナングウとカリスの世話役を任せることにした。



 ギルド会館に戻って来たリゼは、受付のレベッカの元へと向かう。


「大丈夫だった?」

「はい、なんとか迷宮ダンジョンのクエストを達成出来ました」

「そう」


 笑顔で応えるレベッカだったが、オーリスキノコを二十キロを本当に達成出来たのか疑問だった。

 小さなオーリスキノコだと思ったよりも重量が無い場合が多いからだ。

 そのせいで失敗している冒険者を、レベッカは何度も見てきた。


「数が多そうだから裏に回りましょうか?」

「はい、分かりました」


 レベッカに裏口の扉を開けてもらい、リゼはギルド会館から出て裏へと回る。


「オーリスキノコをここに置いてくれる?」

「はい」


 レベッカが指差した重量計が置かれた場所に、リゼはアイテムバッグから取り出したオーリスキノコを置く。


「えっ!」


 予想に反して大きなオーリスキノコにレベッカは驚く。

 最近、ここまで大きなオーリスキノコは目にしたことが無かったからだ。


「なにか間違えましたか?」


 レベッカの声に驚いたリゼが不安そうに話し掛ける。


「ちょ、ちょっと待っていてね」


 慌てるようにレベッカはギルド会館へと戻って行った。

 残されたリゼは自分が不始末を起こしたのではないかと、不安な気持ちになる。

 再び、扉からレベッカが姿を現すと、受付長にクリスティーナも一緒だった。


「たしかに大きいですね」


 リゼの採取してきたオーリスキノコを見ながら感心していた。


「はい。この大きさですと十年以上は経っているものですよね」

「そうですね……リゼさん」

「はい」

「他にもオーリスキノコはありますか?」

「はい、クエストでは二十キロでしたので、それ以上は採取してきたつもりです」

「分かりました。とりあえず、商業ギルドの人を呼びます。リゼさん、査定はその後でも宜しいですか?」

「はい、構いません。時間があるのでしたら、御相談したいことがあるのですが?」

「なんですか? 場所を移した方が良いですか?」

「はい出来れば……」

「分かりました。とりあえず受付に戻りましょうか」

「はい」

「その前に、このオーリスキノコをもう一度、アイテムバッグに仕舞って頂けますか?」

「分かりました」


 リゼはクリスティーナに言うとおりに、オーリスキノコをアイテムバッグに収納する。


「レベッカは商業ギルドの人を呼んで貰えますか」

「はい」

「年代物のオーリスキノコだと、忘れずに伝えて下さいね」

「もちろんです」


 リゼたちはギルド会館内に移動をする。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「それで相談というのは、なんでしょうか?」

「これなんですが……」


 リゼはアイテムバッグから取り出した、ザクレーロとグレックの冒険者プレートを机の上に置いた。


「オリシスの迷宮ダンジョンで見つけたものです」

「そうですか……」


 クリスティーナは辛辣な表情で冒険者プレートを手に取る。


「グレ……ック」


 手に取った冒険者プレートがグレックの物だと知ったクリスティーナは、明らかに表情を変えて動揺していた。


「こっ、これをどこで見つけたのですか‼」


 興奮気味に質問をするクリスティーナの迫力にリゼは圧倒される。


「ろっ、六階層です」

「六階層って! どうして、そんな階層に――」


 今までに見たことのないクリスティーナの姿だった。

 周囲にいた受付嬢や冒険者たちも、始めて見るクリスティーナの姿に驚いている。

 リゼはクリスティーナに、どこから話していいのか考えていた。


「リゼさん。ギルマスを呼んできますので、少しお待ちいただけますか?」

「はい」


 思っていた以上に重大な事なのだと、リゼは感じていた。

 本当に相談したかったのは、ザクレーロが隠していたブック魔法書だったのだが……。

 冒険者プレートで、この騒ぎであれば希少なブック魔法書であれば、今以上の事態が起きると思っていた。


 大きな音を立てて扉が開く。

 クリスティーナ同様に血相を変えたニコラスが入って来た。


「リゼ。このプレートをどこで!」


 ニコラスとクリスティーナの二人が、このグレックという冒険者と何らかの関わりがあるのだとリゼは感じた。


「す、すみませんでした。とりあえず、上の部屋で話を聞かせて貰えませんか?」


 取り乱していた自分に気付いたニコラスは、目の前の戸惑うリゼを見て、別の場所で話をすることにした。

 ニコラスとしても他の冒険者に聞かれたくないこともあったからだ。


「はい」


 リゼが頷くと、逸る気持ちを抑えきれないのか、ニコラスとクリスティーナは足早に階段を上っていく。



「その……この冒険者プレートを見つけた場所を私たちに教えて貰えませんか?」

「リゼさん、御願いします」


 部屋に着くなりすぐの質問にリゼが驚く。


「はい、実は――」


 リゼは六階層での出来事から話し始める。

 自分くらい小さな冒険者しか入れないような岩の切れ間を発見したこと。

 そして、そこには大きなオーリスキノコが群生していたこと。

 採取に夢中になり地中の穴に落ちてしまい、その穴にグレックの白骨死体があったことを包み隠さずに話した。


「そうですか……でも、どうして六階層に」


 ニコラスは納得いっていない様子だった。


「多分ですが、グレックさんはダンジョントラップ迷宮罠で飛ばされたのではないですか?」

「どうして、それを‼」


 リゼはその場所にサークル魔法陣があったことを、二人に話す。

 その発見したサークル魔法陣が見え隠れしていて変な現象だったとも説明をする。


サークル魔法陣か……それであれば、説明はつきますね」

「そこに管理小屋がありました。そこの管理人はもう一つのプレートの持ち主であるザクレーロさんです」


 リゼは管理小屋から持って来た書類や、本を机の上に並べた。


「私も読みましたが、大地震の時に閉じ込められたようです」


 本の内容を既に呼んだことを、リゼはニコラスとクリスティーナに伝えた。


「大地震……」


 ニコラスも冒険者として活動していない……いや、生まれていなかった時代の話だ。


「ザクレーロさんの冒険者プレートも、グレックさんの近くで見つけました」

「多分、首から掛けていたんでしょうね。魂を持ち帰るって、いつも言っていたグレックの拘りでしたから……」


 寂しくも懐かしそうにグレックの冒険者プレートを見つめるニコラス。


「彼……グレックは私の仲間でした。そして、クリスティーナの恋人でもありました」


 ニコラスは重い口を開く。

 十年ほど前、ニコラスたちはオリシスの迷宮ダンジョン攻略をしていた。

 オーリスでは一番と噂されるパーティーだったニコラスたちは、怖いものなしだった。

 その時も当時、攻略されていない二十五階層へ向かっていた。

 何度も二十五階層の攻略を失敗しては引き返してきたが、いままでの失敗を糧に二十五階層を攻略する。

 そして冒険者として、初めて二十六階層に足を踏み入れる。

 二十五階層を攻略したという達成感と、新たな階層への挑戦でパーティー全員が浮足立っていた。

 そして、悲劇が訪れる。

 急激に変化する気候、そして遮られる視界。

 二十五階層よりも、格段に難易度が上がっている。

 一日を待たずに仲間たちが衰弱していく。

 リーダーであるニコラスは早々に撤退を決める。

 撤退の最中、休憩場所に選んだ洞穴でグレックがダンジョントラップ迷宮罠に掛かり、自分たちの目の前から姿を消してしまう。

 ニコラスたちは周囲を探索したが、思うように動けないことや他の仲間への危険も考えて、ニコラスの探索を諦める。

 苦渋の決断だったが、誰もニコラスを責める者はいなかった。

 その後、パーティーの仲間共に帰還をしたが、盾役タンクのグレックを失ったことは、戦力的にも精神的にも大きな傷跡を残すこととなった。


 帰還したニコラスたちは別の町で受付嬢をしていたクリスティーナに、グレックのことを伝える。

 話を聞いたクリスティーナはニコラスを責めた。

 パーティーのリーダーであったニコラスは、黙ってクリスティーナの言葉を聞き入れる。

 クリスティーナも冒険者という職業をよく知っているので、ニコラスを責めるのは間違っていると知りながら、この悲しみをぶつけられる相手がニコラスしかいないと知っていた。

 考えることを遮断するかのように、感情のまま言葉を出し続けていた。


 ニコラスたちはグレックを探すため、何度もオリシスの迷宮ダンジョンへと向かった。

 しかし、一向にグレックの消息を掴むことは出来なかった。

 ムードメーカーでもあったグレックが居ないことで、次第にパーティー内に不穏な空気が流れ始める。

 ニコラスは改めて、グレックの存在の大切さを知ることになる。


 暫くして、クリスティーナにがオーリスに受付嬢として移動してきた。

 クリスティーナなりにグレックの手掛かりを掴める場所にいたい理由からだ。

 運が良かったことに、オーリスの受付嬢を増員する話が出たタイミングだったので、移動までに時間が掛からなかった。


 そして、ニコラスがオーリスのギルマスになり、クリスティーナが受付長となってもグレックの情報は何一つ入ってこなかったのだった――。



――――――――――――――――――――



■リゼの能力値

 『体力:三十五』

 『魔力:十八』

 『力:二十二』

 『防御:二十』

 『魔法力:十一』

 『魔力耐性:十六』

 『素早さ:七十八』

 『回避:四十三』

 『魅力:十七』

 『運:四十三』

 『万能能力値:三』


■メインクエスト

 ・王都へ移動。期限:一年

 ・報酬:万能能力値(三増加)

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