第140話

 目を覚まして、自分が二度も寝落ちしてしまったことに気付き、リゼは猛省する。


(私ったら……)


 安全な管理小屋だったから気が緩んだのだと、自分に言い訳をしていた。

 次こそは絶対にしないと心に誓うが、単独ソロである以上、安全に寝られるという保証がないことも事実だ。

 二度の寝落ちは、単独ソロに拘ってきたリゼにとって、|単独《ソロでの活動を考えさせられることとなった。


(残り二十七時間……)


 目の前に表示されたクエストの残り時間を見ながら呟く。

 リゼは残りの松明の数を数える。


(大丈夫だ)


 帰りの松明を考慮して、少しなら周囲を散策出来ると考えた。

 ザクレーロが、この管理小屋の管理人なのは分かったが、グレックが何処から来たのか気になっていた。

 松明のこともあるので昨日は一度諦めたが、気になりすぎて諦めることが出来なかった。

 リゼは管理小屋を出ると、松明に火を灯すと、慎重に足を踏み入れていない方へと進んでいった。

 管理小屋から離れると、結界効果が薄くなると思っていたが、魔物と遭遇をすることは無かった。

 道なき道を暫く進むと、見たことのない文字のようなもので書かれた円状の模様が地面から浮かび上がっている。

 その模様は消えたり現れたりしていた。


サークル魔法陣?)


 リゼは本能的に危険だと感じて、これ以上進むのを止める。

 サークル魔法陣とは、中級以上の魔術士が使用する魔法で、罠として利用することが多い。

 この場所にサークル魔法陣を準備することは考えにくいので、ダンジョントラップ迷宮罠だとリゼは考える。

 迷宮ダンジョンに侵入してきた者を排除するために用意されたトラップだ。


(もしかしたら……)


 リゼは近くの小石をサークル魔法陣に向かって投げると、サークル魔法陣上で小石は消えた。


(やっぱり!)


 目の前のサークル魔法陣は時空系の魔法を発動するものだと確信する。

 グレックは別の場所でダンジョントラップ迷宮罠サークル魔法陣によって、この場所に飛ばされたのだと考えた。

 飛ばされた時には手負いだったのか無傷だったのかは分からないが、仲間とはぐれたのだろう。

 大地震のせいで迷宮ダンジョン内の地形も変わり、飛ばされた場所も特定出来ずいたに違いない。

 装備などからも、もっと下の階層から飛ばされたのだとリゼは推測した。

 逆にこのサークル魔法陣を使えば、一気に下の階層まで行けるということだ。

 ただし、その階層が何階層なのかは分からないので、かなり危険なことは間違いない。

 グレック以降、このダンジョントラップ迷宮罠で、この場所に来た冒険者はいないことから考えても、かなり下の階層で入り組んだ場所に目の前のサークル魔法陣先がある。

 しかし、ダンジョントラップ迷宮罠であれば、下の階層へ飛ばされるはずだ。

 難易度が低い上の階層に飛ばされるのは不思議だった。

 それにダンジョントラップ迷宮罠であれば、常時サークル魔法陣が見えているのも変だ。

 大地震の際に、サークル魔法陣に異常が発生したのかも知れないと、リゼなりに推理をしながらも、自分はいつになれば、グレックが飛ばされたであろう場所に辿り着けるのかを考えながらサークル魔法陣を見続けていた。


 リゼは管理小屋に戻り、クエストの残り時間が過ぎるのを待つため、管理小屋へと戻ることにした。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 クエスト残り時間が減っていき、目の前に『クエスト達成』が表示されると続けて、『報酬:(万能能力値:三増加、素早さ:二増加)』と表示される。

 リゼはユニーククエスト達成出来たことに、胸を撫でおろす。

 これで安全に地上まで出れば問題無いからだ。


「えっ!」


 すぐに戻ろうと立ち上がったリゼの前に別の表示が映し出された。

 スキル『クエスト』の表示が点滅していたのだ。

 以前にも同じ表示を見たことがあるリゼは『クエスト』の表示を押した。

 すると、前回同様に達成率が『満』と点滅で表示されている。

 リゼは迷うことなく『満』の表示を押す。

 同時に『進化すると、キープしていたクエストは消去されます。実行中のクエストは内容に変更が発生いたしますが宜しいですか?』と別の表示が現れる。

 今、実行中のクエストは『名匠による武器の制作。期限:五年』だ。

 未だに名匠という雲のような存在までたどり着くことが出来ていない。

 五年でもクエスト失敗の確率はかなり高い。


(どうせ、無理なクエストなら……)


 リゼは進化する選択をした。

 目の前の表示がすべて消えると、スキル進化後の内容が表示された。

 『・シナリオクエストへの移行』

 『・クエスト名の変更』

 『・キープの廃止』

 『・達成報酬の増加』

 の四つだった。

 リゼは 『・シナリオクエストへの移行』を押すと、『シナリオに沿ったクエストへの変更』とある。

 意味が分からないリゼだったが、続けて『・クエスト名の変更』の表示を押すと、『メインクエスト』『サブクエスト』『シークレットクエスト』と表示された。


(……どういうこと?)


 リゼは困惑していた。

 内容が全く分からなかったからだ。

 呆然としていると目の前の表示が消える。

 

「えっ!」


 あまりに一瞬の出来事に戸惑うリゼ。

 すぐにステータスを開いて、スキルを確認する。

 ステータスの表示に変更はなかったので、スキル『クエスト』を押す。

 すると旧クエスト『名匠による武器の制作。期限:五年』が点滅表示されて、その下に『メインクエスト』『サブクエスト』『シークレットクエスト』の表示が並んでいた。

 そのなかの『メインクエスト』の横に『(+)』と表示されていたので、『メインクエスト(+)』を押すと、新しく『王都へ移動。期限:一年』『報酬(万能能力値:三増加)』と表示されていた。


(王都へ移動?)


 つまり、一年後に王都へ移動していなければクエストは失敗ということを示している。

 それに『名匠による武器の制作。期限:五年』の下に新たなクエストが発生している。

 先程の表示にあったシナリオクエストとは、このクエストに沿って行けば、いずれメインクエストが達成できるのだと、リゼは理解した。

 それに報酬が増加していることにも気付き喜ぶが、残りの『サブクエスト』『シークレットクエスト』については、今の段階では分かっていない。


(でも、これって……)

 

 期待を込めながら廃止された『キープ』は仕方がないとしても、『受注』『拒否』の選択肢があるのかが気になっていた。

 拒否権がなければ、今後の自分の人生がクエストの通りに歩んで行くことになってしまうからだ。


(呪われたスキルなのかな――)


 リゼは表示を見ながら悪い方へと考え込んでしまう。

 しかし、考えても事態が変わる訳では無い。


「じゃあ、戻ろうかな」


 落ち込んだ気分のまま、リゼはオリシスの迷宮ダンジョンを出ることを決意する。


「お邪魔しました」


 誰も居ない管理小屋に別れの挨拶をする。

 もしかしたら、ザクレーロの魂が挨拶を返してくれるかもしれないと、思ってみたりした。

 帰りは来るときに落ちた穴は勿論だが、足元には十分に注意を払う。

 安全だと確信したら、残っていたオーリスキノコも採取する。

 感覚的にクエスト内容のノルマである二十キロは達成していると、リゼは思っている。

 入って来た隙間を出ようとする時、リゼは松明の明かりを消す。

 そして、話し声が無いかを確認してから、ゆっくり隙間から出る。

 これは何も知らない冒険者が興味本位で入った時に、穴に落ちたりサークル魔法陣で違う場所に飛ばされたりすることが無いようにと、リゼなりに配慮をしてした。

 暗闇で再度、松明に火を灯してリゼはオリシスの迷宮ダンジョン出口へと向かった。 



――――――――――――――――――――


■リゼの能力値

 『体力:三十五』

 『魔力:十八』

 『力:二十二』

 『防御:二十』

 『魔法力:十一』

 『魔力耐性:十六』

 『素早さ:七十八』(二増加)

 『回避:四十三』

 『魅力:十七』

 『運:四十三』

 『万能能力値:三』(三増加)


■メインクエスト

 ・王都へ移動。期限:一年

 ・報酬:万能能力値(三増加)

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