第98話

 リゼは【パラリカ草の採取】のクエストを実行するために、米米草の生息する場所まで移動する。

 いつも通り、町を出る際は門番の人に挨拶をする。


「あれ、リゼ。今からクエストか?」

「はい、そうです」

「と言うことは、水路の調査のクエストには参加しないのか?」

「水路の調査?」


 衛兵でもある門番には、水路の調査を行うので、冒険者に協力するため、交代で対応するようにと通達が回っていた。

 衛兵と冒険者では伝達方法に違いがあるので、門番は既に冒険者ギルドから、冒険者にも連絡がいっていると勘違いをしていた。


「あっ、そうか。まだ、連絡前だったか!」


 リゼの不思議そうな表情で、門番は理解した。


「まぁ、ここだけの話だが――」


 門番はリゼに耳打ちをして、情報開始前のクエスト内容を教えてくれた。

 かん口令が敷かれていたが、それは町の人々に対してだけで、冒険者は該当しない。

 門番は親切心でリゼにクエスト内容を教えただけだった。

 話を聞いたリゼは冒険者ギルドからの去り際に、アイリが言っていた言葉を思い出す。

 そして、アイリなりに自分に気を使ってくれていたことを知る。


「ありがとうございます」

「あぁ、気をつけてな」

「はい」


 リゼは門番に挨拶をして、町の外へと歩き始めた。


 歩きながら、リゼは門番から聞いた水路の調査のクエストを考えていた。

 今の自分の状態を考えて、討伐系のクエストは避けていた。

 しかし、調査目的のクエストであれば、受注可能だとリゼは考える。

 門番からの話を聞く限り、今回の調査クエストは多くの冒険者が参加するだろうと、予測する。

 他の冒険者たちと上手くコミュニケーションが取れるか不安だが、報酬が高いのであれば受注したい。

 リゼが単独ソロに拘る理由は、他の冒険者に迷惑を掛けたくないことと、上手くコミュニケーションが取れる自信が無かったことからだ。

 それを「一人で生きていく‼」と、自分に言い聞かせて納得させていた。

 クエスト中に出会ったクラン”暴風団”や、”星天の誓”との出会いも少なからず、リゼに影響を与えているのだが、リゼ自身は微小な影響なため、気付いていない。


 幸いなことに今、受注しているクエスト【パラリカ草の採取】は今日中に達成可能なクエストだ。

 夕方にギルド会館に戻って来て、水路の調査クエストが今日限りでなく、明日も受注可能なクエストであれば、受注しようと考えていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 採取場所に着いたリゼは呆然とする。

 パラリカ草の大きさをリゼは知らなかった――。

 辺り一面にパラリカ草が生い茂っているが、自分の身長ほどの高さがある。

 魔物が出没するとは聞いていたが、パラリカ草の間から攻撃をされたら――。

 リゼは身構えながら、奥まで入らず手前のパラリカ草の根元を切る。

 緊張しながらパラリカ草を切り続ける。

 リゼが緊張するのには理由がある。

 この辺りに生息する魔物”ジェットモウル”を警戒しているからだ。

 ジェットモウルはパラリカ草の根を主食としているが草食系ではない。

 地面からの振動で捕獲対象を認識して、地中から角のように尖った鼻と鋭利な爪で攻撃をして、地中にある巣に獲物を引きずり込む。

 その威力は大型のジェットモウルだったら、人間を貫通させたり、爪で四肢を切り裂く威力を持っている。

 そのため、うっかりパラリカ草の群生地に足を踏み入れると、ジェットモウルの標的となる。

 オーリスでもジェットモウルによる被害が年間十数件ある。

 その被害者は大半が子供になる。

 パラリカ草は綺麗な花を咲かせるので、何も知らない子供が不用意に近付くからだ。

 ジェットモウルは家族単位で行動するため、多いときは五匹程度で攻撃をしてくる。

 被害に遭った子供の体が、穴だらけということも珍しくない。

 そして……もう一つの原因は、パラリカ草の葉や花に触れると、その匂いがジェットモウルを興奮させる作用があるから、決して茎以外に触れてはいけない。

 リゼも、その事を知っているので茎以外に触れぬように、気を付けていた。


(地面から振動が!)


 リゼはパラリカ草の採取を中断して、後方にジャンプする。

 リゼが空中に浮いてると、地面が盛り上がると同時に、ジェットモウルが姿を現した。

 標的を外したジェットモウルは空中で何も出来ない。

 リゼは冷静に着地すると体勢を整えると、落下するジェットモウルを攻撃する。

 パラリカ草の採取に小太刀を使っていたので、武器を取り出す手間が省けていた。


(うっ!)


 ジェットモウルに近付いたリゼは、顔を歪ませた。

 そう、ジェットモウルのもう一つの特徴である悪臭……。

 ジェットモウルは爆発的な放屁で加速する。

 仮に標的を外したとしても、放屁の悪臭で身を守ることが出来るのだった。

 しかし、臭いだけで体に対しては、それほど害がない。

 少し目に染みる程度なので、悪臭も含めて我慢すれば耐えることが可能だ。

 リゼは一太刀でジェットモウルを倒すと、地面の振動に集中する。


(……振動が無い。単体での攻撃だったのかな?)


 リゼはパラリカ草から少し離れた場所で、ジェットモウルの血抜き作業をする。

 ジェットモウルの肉は珍味として、酒飲みたちから需要があると、解体職人のバーランから聞いていた。

 倒してすぐに血抜きをしないと、腐敗が早いので時間との勝負になる。


 それからもパラリカ草の採取と、ジェットモウルの討伐を繰り返す。

 もう作業を終えようと思っていたリゼだったが、地面からの振動を感じた。


(今までよりも大きい?)


 地面から伝わる振動が大きいと感じたリゼは、警戒を強める。

 リゼが立っている場所近くの地面が、ほぼ同時に三箇所盛り上がった‼︎

 三方向からの攻撃に、リゼは戸惑いながらも、ジェットモウルからの攻撃を回避する。

 ジェットモウルたちから距離を取ってしまったので、追撃することが出来なかった。

 なによりも、ジェットモウルからの悪臭が凄く、新鮮な空気で呼吸をする必要もあった。

 ジェットモウルたちは、リゼとの距離を把握すると警戒しながら地中へと戻って行く。

 リゼは地中からジェットモウルの追撃に備えて、片膝をつき左手で地面を触り意識を集中させた。

 三分程経ったが、ジェットモウルたちが追撃してくる気配は無かった。

 自分のある場所が、ジェットモウルたちのテリトリーから外れたのだろうかと、リゼは考える。

 リゼは太陽の位置を確認しながら、まだパラリカ草を採取出来ると判断する。

 採取系のクエストは、採取した量に応じて追加報酬が貰える。

 少しでも多く採取して報酬を貰いたい! という気持ちがリゼにはあった。

 アイテムバッグがあれば、背籠などを借りる必要がないし、貴重品を持って移動することも出来る。

 なによりも、あのアイテムバッグを気に入っていたので、どうしても欲しかった。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る