第69話

 最終決戦が始まった。

 突然、攻め込まれたゴブリンたちは戦闘を開始するが、統制が取れていない。

 リーダーのホブゴブリンは、かなり怒っている。

 そんなホブゴブリンの前にアルベルトが立ち塞がる。


「お前の相手は私です‼」


 アルベルトを見下ろすホブゴブリンは、怒りが頂点に達したのか、座っていた玉座掴むと、アルベルトに向かって投げつける。

 アルベルトは投げつけられた玉座を避けると、ホブゴブリンに攻撃を仕掛ける。

 隣にいたゴブリンメイジとゴブリンナイトが、ホブゴブリンの加勢に入ろうとする。


「お前の相手は俺たちだ!」


 サウディとバクーダがゴブリンナイトに攻撃をする。

 ゴブリンナイトへの攻撃で、ゴブリンメイジが一瞬、たじろいだ。


「あなたの相手は私です」


 ニコラスがゴブリンメイジを切り付ける。


「ぎゃぁぁぁぁ!」


 叫び声をあげるゴブリンメイジ。

 そのまま、ニコラスはゴブリンメイジに追撃する。

 呪文詠唱する時間をあたえず、ニコラスはゴブリンメイジの息の根を止めた――。


(……本当に、アルベルトの言う通りでしたね)


 ニコラスはアルベルトからゴブリンメイジを倒すように言われていた。

 ホブゴブリンと、ゴブリンナイトを同時に攻撃した時、ゴブリンメイジに一瞬の迷いが出るので、その隙にゴブリンメイジへの攻撃をしてほしいと言われていた。

 そして、呪文詠唱をする間を与えずに、そのまま攻撃を続けて欲しいと……。

 戦況を予想したアルベルト。そのことに、ニコラスは驚きながらも、自分との実力差を思い知っていた。

 ニコラスはゴブリンナイトと戦うサウディとバクーダのほうを見る。

 サウディとバクーダは、ゴブリンナイト相手に互角……いや、互角以上の戦いをしていた。

 その様子に驚くニコラス。


(サウディにバクーダ……あれほどの実力があったのですか⁉)


 ギルマスとして、実際の戦闘を見ることはない。

 しかし、オーリスの冒険者であれば、ある程度の実力を把握している。

 それこそが、ニコラスがギルマスとして、もっとも重要としていることだからだ。

 多忙とはいえ、クエストの成功率と、失敗に終わったクエストに関しては、必ず目を通して受付長のクリスティーナから、きちんと話を聞いている。


(実際に、現場で確認しなければ分からないこともあるのですね……)


 ニコラスはギルマスとして、もっと冒険者と寄り添う必要があるのだと思っていた。

 本来、ギルマスがする仕事ではない。

 ギルマスとは、その地の冒険者を束ねる代表だからだ。

 一人一人の冒険者に寄り添う必要はなく、冒険者とギルト本部もしくは、領主との関係を円滑にすることを重要視されている。

 地域によっては冒険者の数が多いため、冒険者の名前さえ知らないギルマスがいるのも普通だ。


 後方部隊の冒険者たちは、今迄に何度もこなしたゴブリン討伐と同じなので、戸惑うことがく、ゴブリンを次々と倒していく。



「おりゃぁぁぁぁ!」


 バクーダの剣がゴブリンナイトの体を刻む。


(ヨシッ! アルベルトさんの言うとおりだ‼)


 バクーダはアルベルトからの助言通りに戦えば、ゴブリンナイトにも通用する嬉しさを噛み締める。


 攻撃には必ず予備動作があると教えてくれたアルベルト。

 剣を振りかざす前の体重移動や、腕や剣の角度である程度の攻撃を予想することができる。

 最初、ゴブリンナイトの攻撃を観察して、攻撃の癖を確認していた。

 知能が低いゴブリン。進化種のゴブリンナイトとはいえ、そこまで知恵がまわらない。

 攻撃をする時、体が右に傾き、頭は反対の左側に傾く。

 攻撃箇所は目の動きを見れば、ほぼ間違いなく、その箇所に攻撃をしてくる。


 複雑な駆け引きなどできないゴブリンであれば、単純な動きしかしない。

 この癖を見つけただけでも、効果的だった。


 バクーダとサウディは、お互いに自分が気になったゴブリンの行動を教えあっていた。

 情報交換したうえで、二人で癖を確認していた。

 バクーダの攻撃が当たったことで、サウディも発見した癖が間違いないことを確信していた。


 痛みでゴブリンナイトの攻撃が一瞬、サウディから目がそれる。

 その一瞬を見逃さなかったサウディは、思いっきりゴブリンナイトの体に拳を叩き込む。


「ぎゃぁぁぁ!」


 ゴブリンナイトの悲鳴が響く。

 バクーダにサウディの二人で交互に攻撃をして、ゴブリンナイトを追い詰めていく。

 苛立つゴブリンナイトは、やけくそな攻撃をくり返す。

 単純な攻撃がサウディにバクーダに通用するわけもなく、ゴブリンナイトはサウディにバクーダによって倒された。


「よっしゃー‼」

「やったぜ!」


 嬉しそうに手を叩きあうサウディにバクーダ。


(こっちは、何とかなったようですね)


 サウディとバクーダがゴブリンナイトを倒したことを確認したラスティアは、微笑んでいた。

 残っていたゴブリンも殆ど倒し終わっている。


(あとは……)


 ラスティアはホブゴブリンと戦っているアルベルトの方に視線を移す。

 アルベルトはホブゴブリンが、他の冒険者を攻撃しないように誘導しながら戦っていた。


「アルベルトとホブゴブリンの戦いの巻き添えになりたくなければ、討伐を終えた冒険者は速やかに後退してください‼」


 ラスティアの声に冒険者たちは、残ったゴブリンを倒すと冒険者たちは後退してきた。

 サウディとバクーダもニコラスとともに戻ってきた。


「ランクA冒険者の戦いを間近で見られる特等席ですね」


 ニコラスが笑顔でラスティアの横に移動してきた。


「……そんな大したものではないですよ」

「いえいえ、ランクA冒険者アルベルトのソロ戦を見られるんですから、他の冒険者たちのいい刺激になるでしょう」


 たしかに冒険者の多くは、アルベルトの戦いを見られることに興奮しているようだ。


「……もう、大丈夫ですね」


 ラスティアはアルベルト以外の冒険者が戻ってきたことを確認する。


「アルベルト。遠慮はいりません。思う存分、戦って下さい!」

「ありがとう」


 ラスティアの声にアルベルトが反応すると、今迄と違う動きになる。


「お遊びは、ここまでです……あまり格好悪い姿も見せられないので、一気に決めさせてもらいます」


 アルベルトは剣を構えると、そのままホブゴブリンに向かって、一気に走り出した。

 それを迎え撃つホブゴブリン。

 攻撃範囲に入ったアルベルトをホブゴブリンは、両手で叩きつけると辺りを包むほどの土煙が舞い上がった。

 見ていた冒険者たちには、アルベルトがホブゴブリンに潰されたように見えただろう。

 動揺する冒険者たちだったが、土煙の中で動く影があることに気付く。


「くそっ!」


 冒険者の一人が悔しそうな声をあげる。

 土煙が邪魔で、アルベルトとホブゴブリンの戦いが見られないからだ。

 誰もが、「早く土煙が収まれ!」と思っていた。


 そして、時間が経過して土煙が収まり、アルベルトとホブゴブリンの姿が目視できるようになる。

 ホブゴブリンは足を切られて動けないのか、膝をつきながらアルベルトに反撃をしていた。


「……行動を制限するように、足の健を切ったのですか?」


 ニコラスがラスティアに質問をする。


「えぇ、その通りだと思います。動き回ると、こちらに被害がでると考えたのでしょう」


 ホブゴブリンの攻撃を軽やかに躱して、ホブゴブリンを切り刻んでいくアルベルト。

 その光景は、一方的な殺戮にようにも見える。

 徐々に弱っていくホブゴブリン。

 この戦い方は、見ている冒険者たちの参考にはならないだろう――。


 なにも話さなくなった冒険者たち。

 アルベルトがホブゴブリンを攻撃する音と、ホブゴブリンの悲鳴だけが聞こえていた。

 勢いよくアルベルトがホブゴブリンの背中から剣を突き刺すと、ホブゴブリンは前のめりに倒れた。


 この瞬間、今回のゴブリン討伐のクエストが達成された――。


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