第61話
「……朝か」
フリクシンは朝日を見ながら、過酷な一日が始まると感じていた。
「早いな」
「ギルマスか……柄にもなく、緊張していたのか寝れなかったようだ」
「それは私も同じですよ」
緊張よりも疲れが勝っていた冒険者は、交代の時間がくるまで寝ている者もいた。
通常で行動するよりも多い人数だった為、緊張を持続するのが難しかったのかも知れない。
幸い、魔物による夜中の襲撃も無かった。
「寝ている奴を起こすか?」
「そうですね――もう少しだけ、寝かせておいてあげましょうかね」
「そうか、分かった」
ニコラスの言葉に、フリクシンは笑って返す。
「万全の状態で無いと、今日の戦いは厳しいと思いますね」
「確かにな――」
フリクシンは、「死ぬ者がいるかも知れないな!」と言おうとしたが、変に恐怖心を煽ると思い、言葉を飲み込んだ。
暫くすると、寝ていた冒険者たちも徐々に目を覚まし始めた。
目を覚ました冒険者は、寝ていた事に悔いている者もいた。
それだけ冒険者という職業に対して、プロ意識を持っているということだろう。
当然、逆に何とも思っていない者もいる……。
ニコラスとフリクシンは、今日の行動について話し合っていた。
出来るだけ進むか? それとも、少しずつ危険を回避しながら進むかの、二択になる。
フリクシンは無茶をしてでも進むと意見を言うが、ニコラスは冒険者である仲間の様子を見ながら慎重に進みたいと、意見が衝突する。
フリクシンもニコラスの言いたいことが分かるし、ギルマスであるニコラスに我を通す訳にもいかず、ニコラスの意見に従うことにした。
一方のニコラスも、フリクシンの言いたいことは分かっていた。
冒険者であれば、出来るだけ早くクエストを達成する為、無理をしてでも進む時もある。
しかし、今回は状況が違う。
無理をすれば、進むことも出来るが、ニコラスは被害を最小にする為に慎重に行動する選択を選んだ。
それはニコラス個人の意見というよりも、ギルマスとしての立場での意見を重視した結果だ。
――出発の時間が近づく。
自然とニコラスの周りに集まり、指示を聞く体制になっていた。
「では、行きましょうか‼」
ニコラスの合図で移動を開始する。
昨日の戦いもあり、周囲を警戒しながら慎重に進んでいく。
徐々に森の奥へと進むが、出来るだけ切り開いている道を選択する。
「ギルマス、ちょっといいですか?」
ニコラスに声を掛けたのは、シトルだった。
「何か、気になることでも?」
「えぇ、この森は以前にも来たことがあるんですが、こんな地形では無かったと思うんです。それに、あそこの植物など、明らかに最近切られたように思えますし――」
「……確かに」
ニコラスは、この付近でのクエストがあったかを思い出す。
自分一人では記憶違いもある為、フリクシンを呼ぶ事にする。
「いや、最近のクエストは暴風団が受注したクエストくらいだな。あとは、手前の草原にあるスライム討伐だけだったと思うが――」
「そうですよね。私も同じです」
暫く考えていると、フリクシンが冒険者たちに同じ質問を聞いた。
誰もが同じ認識だった。
「暴風団が切ったとは考えにくいですね……」
「ゴブリン共の罠か?」
「そう考えた方が良いでしょう。ゴブリンに上手いこと誘導されたようですね」
「――それで、どうする?」
「罠と分かっていれば、より慎重に進むだけです」
「だよな……」
フリクシンは、冒険者たちに、この道がゴブリンたちが用意した道で罠かも知れない事を伝える。
ニコラスは、このメンバーに斥候がいれば、状況が変わると思っていた。
しかし、大手クランでも斥候の冒険者は少ない。
何故なら、彼らは危険を承知で単身もしくは、少人数で先行して情報を集めるからだ。
彼らの持ち帰った情報から作戦を立てる。
討伐には貢献しているのだが、魔物を倒すことが冒険者としての醍醐味だと思っている者も多い為、貢献度に対して報酬が少ないこともある。
斥候は単身で魔物討伐が難しい。
他の冒険者に依存していると思われていることもある。
だからこそ、斥候を職業に選ぶものは少なくなっており、貴重な存在になっている。
(先輩の言う通りになったと、いうことですね……)
ニコラスは、新人時代に世話になった先輩冒険者のことを思い出していた。
その先輩は斥候だったが、徐々に斥候を選択する冒険者は居なくなってしまうだろうと危惧していた。
斥候という職業に誇りを持っていた。
自分の情報で仲間を助けることが出来るのは、他の職業では味わえないと笑って話していた。
しかし、あるクエストで魔物から攻撃を受けて、命からがら仲間の元戻り、情報だけ伝えると、命を落とした。
ニコラスは、今でもその先輩冒険者を尊敬しているし、どんな職業の冒険者だろうが、差別することなく接していた。
それは冒険者ランクも同じだった。
そんなニコラスがギルマスだからこそ、オーリスの冒険者も同じように考える者が多い。
他のギルドと違い、オーリスの冒険者や受付嬢たちが、気さくな理由の一つだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます