第48話
リゼはタバッタたち暴風団から、教わった方法を思い出してスライムで試していた。
確かに、魔核を狙っていた攻撃に比べて、楽に倒す事が出来る。
一撃必殺ではなく、徐々に弱らせていくことが重要だと考えを改めた。
(やっぱり、他の冒険者たちの戦い方は見ておきたいな……)
リゼは、吸収できるものが大きいと感じていた。
その一方で、パーティーを組むということに関しては、変わらず否定的であくまでソロでの活動を考えていた。
既にクエストのスライム討伐三匹は終えている。
リゼは保留にしていた『ノーマルクエスト』や『ユニーククエスト』を見てみる。
(確か、魔物討伐十匹ってのがあったはず……あった!)
リゼは『ユニーククエスト』の『達成条件:魔物討伐十匹』『期限:一時間』を選ぶ。
そして、『ノーマルクエスト』も『達成条件:利き手を使わずに魔物討伐一匹』『期限:一時間』も選んだ。
同じようなクエストであれば、内容によって幾つも受注出来るので効率がいい。
保留にしているクエストも、達成しやすい状況になった時に受注すれば、失敗する確率も下がる。
リゼは、『・クエスト内容を事前表示(達成報酬微低下)』を選択したことが間違いでは無かったと確信する。
スライムを左手のみで十匹討伐する。
要領さえ分かれば、左手でもスライムを簡単に討伐することが出来た。
一匹倒した時点で、ノーマルクエストは達成しているので、『報酬(精神力強化)』を得ている。
数値化されないので、リゼは残念な気持ちになるが強くなっている事には間違いないと、自分を納得させていた。
そして、ユニーククエストの達成報酬『報酬(防御:一増加)』が表示される。
リゼは、ポイズンスライムを探してみるが、近くにポイズンスライムは見つからなかった。
このまま、ポイズンスライムを探し回っても良かったが、何度もスライム討伐のクエストは受注するつもりなので、時間の無駄だと思いオーリスに戻ることにした。
(そういえば……)
リゼはデイリークエストのことを思い出す。
デイリークエスト『達成条件:全力疾走五百メートル』。
オーリスに戻る際に達成できると思い、全力疾走を何回かして戻ることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「思ったよりも早かったわね」
アイリが笑顔で迎えてくれた。
リゼは軽く頭を下げて、魔核を受付に置く。
「ちょっと待っていてね」
アイリはスライムの魔核に間違いないことを確認すると、成功報酬の通貨をリゼの前に置く。
「ありがとうございました」
「あっ、リゼちゃん。ちょっと待って!」
去ろうとするリゼを、アイリが止める。
「……」
リゼは不安しかなかった。
知らない間に自分が何か迷惑を掛けたのではないか! いや、迷惑で無くギルドに損害を与えるような事でもしたのではないかと、ここ数日の自分の行動を思い出していた。
「実は、リゼちゃんに指名クエストがあるのよ」
「私にですか?」
リゼは困惑すると同時に、警戒した。
何故、自分なのだ? という疑問が最初に浮かんだからだ。
「まぁ、受注するかはリゼちゃんの判断だから、依頼内容だけでも見てもらえるかな?」
「はい……」
指名クエストなので、危険だと思えば断ることは可能だ。
しかし、依頼主が貴族だったりすれば、拒否権があるのだろうか? リゼは不安な気持ちを隠しながら、アイリからクエストの紙を受け取る。
「……シトルさん?」
依頼内容を読み進めるリゼ。
「あの~、これって……」
「シトルさんの言っていることが正しければ、疑惑を晴らして欲しいということね」
あの場から自分が逃げたことで、シトルが身に覚えのない疑いを掛けられていることに驚き、申し訳ない気持ちだった。
「リゼちゃん。それで、どうするの?」
「申し訳ありませんが、お断りさせて頂こうかと思います」
「えっ‼ やっぱり、シトルさんが嘘を言っているのね。この間、リゼちゃんから聞いたのも脅されていたからなのね!」
アイルが語気を強めて、大声で叫ぶ。
ギルド会館に居いた冒険者や、受付嬢たちが一斉にアイリとリゼの方を向いた。
「いえ、そういう訳ではありません」
「じゃぁ、どうして? 報酬もかなりいいのよ?」
確かに成功報酬は魅力だ。
あの場から逃げたのはリゼだ。
シトルに過失が無いとは言えない。しかし、それはリゼも同じだ。
そう、どちらが悪いという訳でも無い。
それなのに、シトルだけ被害者になっていることに、リゼは申し訳無いと感じていた。
「この間、アイリさんとレベッカさんにお話したことは事実です。シトルさんが一方的に悪い訳ではありません。逃げてしまった私にも原因があると思っています」
「それは、そうだけど……」
アイリは真剣な目で話すリゼに対して、「黙って受注すれば、楽して儲けられるのに」と思った自分が少し恥ずかしくなった。
「せっかく指名クエストを頂いたのですが……すいません」
「別にリゼちゃんが謝ることは無いのよ。クエストの選択は冒険者にあるんだからね」
申し訳なさそうに頭を下げたリゼを、アイリは優しい口調で慰める。
リゼが受注しようがしまいが、ギルドとしての手数料は入って来るので問題ない。
「それで、どうするの?」
アイリは、リゼがシトルの指名クエストを意味も無く拒否したとは、考えていなかった。
「はい。個人的な問題ですので、個人的にシトルさんの信用を取り戻せれば。と、思っています」
「そう……」
それは、ただ働きだよ! アイリは言いそうになった言葉を飲み込んだ。
「シトルさんは、どちらにいるか分かりますか?」
「ちょっと、待っていてね」
アイリは、シトルの担当であるレベッカの所へ歩いて行った。
小声で話をしているので、リゼには聞こえない。
リゼも、どうやったらシトルの信頼が回復出来るかを考えていた。
「リゼちゃん、お待たせ。今日、シトルさんはギルド会館に顔を出していないから、待っていればそのうち、顔を出すんじゃないかしら」
「そうですか、ありがとうございます」
リゼは頭を下げて、クエストボードの横にある長椅子へと移動して座る。
クエストボードの横なので、クエストを探している冒険者たちは否が応でもリゼの姿が目に入る。
「リゼ。どうしたんだ?」
気になった冒険者の一人がリゼに声を掛ける。
「はい。シトルさんを待っています」
顔は知っているが名前までは知らない冒険者に、リゼは答える。
「あ~、そういうことか。シトルに復讐でもするのか?」
「ちっ、違います」
笑っている冒険者に、リゼは必死で否定した。
「冗談だよ。まぁ、シトルを見かけたら、リゼがギルド会館で待っていた。と、言っておいてやる」
「ありがとうございます」
リゼは椅子から立ち上がり、冒険者に頭を下げた。
他の冒険者たちも、協力を口にしてくれた。
「あぁ、それと私はシトルさんから変なことはされていません。シトルさんは悪くないんです」
必死で訴えたリゼに冒険者たちは、きょとんとした顔をする。
数秒続いた静寂の時間が終わると、冒険者たちの笑い声がギルド会館に響き渡った。
「分かっているって!」
「シトルにそんな勇気はないからな」
「あいつの日頃の行いが招いた結果だ」
冒険者たちは口々にシトルの悪口を言い始めた。
「まぁ、シトルが悪い奴じゃないことくらい俺たちは知っているから」
「なんだかんだ言っても、同じ冒険者だからな」
「そうそう、命を懸けて魔物討伐した仲でもあるんだし」
冒険者の口ぶりからもシトルは嫌われていないのだと、リゼは感じた。
悪口を言われながらも嫌われていないシトルという存在が、リゼには理解出来なかった。
リゼの中で悪口を言われる者は、嫌われている者だという認識だからだ。
幼い頃は、同世代の村の男の子たちから揶揄われたり、虐められたりした。
貴族である元両親に引き取られてからも、常に罵られて暴力を振るわれていた。
笑いながら悪口を言える関係……。リゼが、この関係を理解するにはもう少し時間が必要だった。
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