第19話
リゼは六日目のクエストを終えると、ランクCに昇格した。
アイリから「頑張ったね」と言われる。
冒険者のプレートは、ランクDと同じ鉄製だが、形が異なっていた。
(次はランクBだ)
リゼは、次の目標を立てる。
日に日に自分が強くなっていっているのが分かる。
リゼは毎日、小太刀での素振りを百回する事を自分に課していた。
少しでも早く、小太刀を自由に使い熟したいという思いからだ。
『ノーマルクエスト』に『デイリークエスト』も全て達成出来ている。
但し、受注をする際に少しだけ恐怖する。
克服出来るかは自分次第だという事も、リゼは理解している。
『ユニーククエスト』は発生しない日もあり、未だに発生条件が不明だった。
銀翼のメンバーと居た事で、リゼが孤児だと街中に知れ渡っていた。
しかし、リゼは事実なので気にする事も無かった。
それよりも話した事も無い女性や冒険者達から、銀翼との関係を聞かれる事の方が面倒臭かった。
リゼが「ただの知り合いです」と言ったところで信用されない。
続けて「本当にただの知り合いです」と言っても信じてはくれない。
リゼは声を掛けてきた人たちは、どういう答えを期待しているのかが分からなかった。
なかには「アルベルトを紹介してちょうだい!」「ラスティアの好きな物を教えてくれ」等と、無茶な事を要求してくる人達も多数居た。
こう言った事情もありリゼは最近、街の中を歩く事が少し億劫だった。
リゼはランクCのクエストボードの前に立ち、クエスト内容を確認していた。
「今日は駄目だからね」
背後からレベッカが声を掛けて来た。
「あっ、レベッカさん。どんなクエストがあるのかを、見ていただけです」
「そうだったんだ。それで、気に入ったのはあった?」
「そうですね。やっぱり、このスライム討伐は気になります」
「そうね。初めての魔物討伐では、お決まりのクエストだからね」
冒険者であれば一度は経験する『スライム討伐(三匹)』だ。
期限も三日と長く、報酬もランクCでは高い銀貨九枚になる。
ギルドとしては、三日の間で魔物討伐のコツ等を覚えて貰う事を目的としている。
基本的に、スライムは単独行動しているが生息地域は広くないので、一匹発見すれば近くにもスライムは居る。
生息地域にしても、ギルドからある程度の場所を教えてくれるので発見し辛い訳でも無い。
三日あれば、一匹位は失敗しても問題無い期限になる。
移動で一日、討伐で一日そして、予備日で一日という期限で算出している。
高い報酬は三日の間は、このクエスト以外は受注出来ない為、救済措置の意味合いが高い。
「この条件付きって、何ですか?」
リゼは、クエスト用紙の下にある記述が気になったので、レベッカに質問をする。
「あぁ、これね。これは能力値の『体力』が十八以上で、『力』か『魔法効果』のどちらかが十二以上。魔術師の場合は、『魔力』が十三以上必要ってことなのよ」
能力値が低いと、スライムとはいえ死ぬ事もある。
最初にこのクエストを受注する場合は、真偽が分かる水晶に触れて、能力値に嘘が無い事の確認が必須になる。
余程の事が無い限り、このクエストが受注出来ない事は無いと、レベッカは教えてくれた。
スライム討伐は、大抵の冒険者が最初に選ぶ『討伐クエスト』になる為、冒険者ギルドとしても慎重になっている。
リゼはこの説明を聞いて、自分の能力値が条件に達していない事を知る。
「ありがとうございました」
「いえいえ、どういたしまして」
レベッカは手を振りながら、受付に戻って行った。
(確か、『力』の能力値が十一だったよな……)
リゼはステータスを見ながら落胆する。予想通りの能力値だった。
万能能力値も他の能力値に振ってしまったので、新たに振り分ける事は出来ない。
そう思っていると、『素早さ』『回避』『運』の値が変わっている事に気が付く。
(これが、職業による能力値上昇? とりあえずはクエストを消化するしかない)
リゼはステータスを閉じる。
戦闘系職業で、リゼが選んだ『盗賊』や、『弓使い』等は不人気職業で、『力』の能力値が、他の職業と比べて上昇し辛い。
『剣士』や『拳闘士』であれば、簡単に『力』の能力値は向上する。
反対に『魔術師』であれば、『魔力』の能力値が簡単に向上する。
世間的にも『素早さ』や『回避』等の能力値は、軽視されている傾向にある。
リゼはクエストボードの中で、『スライム討伐(三匹)』を達成した後に、受注したいクエストがあった。
生産者ギルドとの提携クエストのひとつ『刃物研ぎ』だった。
基本的に武器の手入れは、冒険者自身で行う事が多い。
なかには、武器の手入れさえしない冒険者も居るが、そういう冒険者は長生き出来ない。
もしも、刃こぼれ等をすれば武器職人に依頼をするが、それなりの通貨を支払わなければならない。
ランクDのクエストでは、冒険者や生産者を理解しながらクエストに慣れる。
ランクCだと、冒険者や生産者として生きて行く為に必要な最低限の事を経験するクエストになる。
ランクC以下は、ランクBで生きて行く為の事を体験する期間だ。
リゼはクウガに一時的に譲って貰った小太刀を、どうしても自分の手で手入れをしたいと思っている。
返却する時に、今よりも酷い状態になっている事は、自分自身どうしても納得出来ない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リゼはギルド会館から出て、夕食のパンを買いに街へ出る。
街に出る事は億劫だったが、引きこもる訳にもいかない。
空き家や宿屋等も確認する為にも、街に出なければならない。
家などは購入したり借りたりする事は予算から考えて出来ないが、ある程度の相場を知っておきたかった。
宿屋は基本前金になり、宿泊期間を過ぎた場合、強制的に部屋の荷物は出されて一定期間だけ宿屋に保管される。
その間に受け取りに来なかった場合は、宿屋が自由に処分をしていいようになっている。
一定期間とは宿屋によって異なるが、大体が一週間程度になる。
よって、冒険者は街から長期間出かける場合は宿屋を引き払うか、長期間分の前金を払って帰ってきた場所を確保する二択になる。
リゼもあと少しで孤児部屋を追い出されるので、宿屋を確保する必要があった。
目を付けていた格安の宿屋は人気があると、他の冒険者達から聞いていた。
(最悪、野宿でもいいかな……)
リゼは次第に、そう思うようになってきた。
しかし、治安が良いオーリスとはいえ、路地裏等は危険と隣合わせになる。
リゼのような小さな子が、安易に足を踏み入れて良い所では無い。
その事はリゼも重々承知している。
知らず知らずのうちに、リゼは野宿出来る場所を考えながら街を眺めていた。
『ユニークスキル発生』
リゼは突然現れた表示に驚く。
何度も経験しているが、未だに慣れない。
リゼは能力値を上げなければという思いも有り、ユニークスキルを受注する。
『達成条件:暴漢からの脱出』『期限:二時間』
(……どういう事?)
暴漢からの脱出という事は、暴漢に捕まる事が前提条件となる。
例えば『暴漢から逃げ切る』であれば、急いでギルド会館に戻り、孤児部屋で大人しくしていればいい。
ユニーククエストを達成する為には、暴漢に捕まる事から始めなくてはいけない。
しかも、制限時間は二時間しかない。
リゼは考える。
このユニーククエストを放棄した上で、罰則を受け入れるか。
それとも、危険を承知で暴漢に捕まるか……。
そもそも、そんな簡単に暴漢と遭遇する訳が無い。
この場に立ちすくんでいても、状況は変わらないので、とりあえず人通りの多い所を歩く事にする。
すれ違う屈強な男性が全て怪しく見えてくる。
例えようのない恐怖がリゼを襲う。
経験した事の無い緊張からかリゼは気分が悪くなる。
街の人の邪魔にならないように、人の往来の少ない道端に移動して体を休める。
(もし今、襲われたら……)
休みながらも暴漢を警戒する。
「大丈夫ですか?」
体調が優れないリゼを気に掛けて、一人の女性が声を掛ける。
「はい、大丈夫です。少し、気分が悪くなっただけです」
「そう……でも、顔が真っ青よ!」
「すいません。大丈夫ですので……」
そう答えるリゼだが、先程までの元気な様子は無い。
「水飲み場まで移動して、とりあえずそこで少し休みましょう」
女性はリゼの手を引き、水飲み場まで案内をしてくれた。
その間もリゼは、意識がはっきりしなかったが、暴漢に襲われないよう気にしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます