第2話

「初めまして、リゼちゃん。これに手を乗せてくれるかな」


 受付嬢は優しい口調で、リゼに接する。

 リゼは言われたとおり、出された板の上に手を置く。


「ありがとう」


 受付嬢はリゼに礼を言うと、受付の引き出しから、鉄製のプレートが付いた首飾りを出して、リゼに渡した。


「これは?」


 鉄製のプレートを受け取ったリゼは、これが何なのか分かっていない。

 受付嬢はプレートの意味をリゼに教えてくれた。

 この首飾りはランクDを表し、冒険者や生産者のランクを示す印となる。

 ランクが上がる毎に、プレートの材質や形が変わっていく制度になる。

 それからも受付嬢は、クエストボードやギルドの仕組みを、リゼに対して親切に教えてくれた。

 クエストは達成する度に、その難易度によってポイントが貯まる。

 一定のポイントに貯まると、ランクが上がる。

 ランクDからランクBの場合、クエストは最終クエスト達成日より三十日以内に、新たなクエストを達成しないとポイントが無くなる。

 ポイント失効になれば再度、ギルド登録をしなければならない。

 ランクB以下は、現状のランク以外のクエスト受注は出来ない。

 大人数対応のクエストのみ、条件付でランク以上のクエストを受注する事が可能になる。

 その分、危険度はかなり高くなる。


 目安として、ランクDからランクCには約十日で、一月もすればランクBに上がれる。

 受付嬢は、冒険者と生産者の違いを説明してくれた。

 先に生産者のランクについて説明を始めた。

 生産者ランクは、武器や防具を作ったりしながら、ランクを上げていく。

 ランクが上がれば、自分で素材を調達する事もあるそうだ。

 職業ランクがあがり、『商人』等になれば物を作らずに、商品売買のみで生活している者も居る。

 ランクAの生産者が作った武器は、高い通貨で取引されている。

 生産者になる場合は、ギルドから世話になる人を紹介して、その人に指導して貰う。

 クエストとは別に少ないが賃金も出るし、危険も少ない。

 発注されるクエストも数日単位のものが多く、基本的に指導をして貰っている人に確認を取り納得した物を納品するので、返却されてクエスト失敗する事も殆ど無い。


「何か質問あるかな?」

「いいえ、大丈夫です」


 受付嬢は優しくリゼに聞いてくれるが、リゼは生産職に就くつもりはなかった。


 続けて、冒険者のランクについて説明に入った。

 冒険者ランクの大半はランクBだと教えてくれる。

 ランクBからランクAに上がろうとすれば、ポイント数を稼ぐ為に、危険なクエストを受注する必要がある。

 何回も危険なクエストを繰りかえさなければならないので、命の惜しい者はランクA以上を目指さない。

 クエストボードもランクBまでしかなく、それ以上は受付で個別の問い合わせとなる。

 ランク昇級する際に、どれだけのポイントが必要になるかは、受付で尋ねれば教えて貰える。


 ここまでが十歳になると行われる、スキルを授かる儀式『成人の儀』だ。

 普通であれば、両親付き添いの元で行われる。

 戦闘系のスキル以外だと、貴族や、金持ち達は自分の子供に護衛を付けたりし、子供を守る事も珍しくは無い。


「今日は、ここの二階にある部屋に泊まっていいからね」


 通称『孤児部屋』と呼ばれている部屋。

 リゼのように、親に捨てられた子供達を、一定期間保護する部屋になる。

 あくまでも一時的な処置の為、一週間で強制退去させられる。

 その間に、自分で住居を確保しなければならない。

 実際、この孤児部屋を出た子供の殆どは、行方が分かっていない。

 ギルドとしても、世間からの目もある為、救済の措置はしたという事実が欲しいだけだ。


 リゼは、両親に捨てられた事よりも、一人で生きて行ける嬉しさの方が大きかった。

 受付嬢に言われたとおり、クエストボードからランクDのクエストを見る。

 リゼは、改めて自分のスキル『クエスト』と同じクエストという響きだと思う。

 当然、違いは分かっていない。

 『成人の儀』で、自分のステータスを見る事が出来るようになったので、ステータスを開いて自分の能力値を確認する。

 能力値『体力:二十』『魔力:十八』と、『力:六』『防御:十二』『魔法力:三』『魔力耐性:十』『素早さ:九』『回避:十』『魅力:七』『運:四』

 ステータスには、今迄の生活環境が反映される。

 リゼの場合、兄達からの虐めを受け続けていたので、攻撃系よりも防御系の方が、能力値が高い。

 教会が発表している十歳の平均値は、『体力』『魔力』は『二十』、それ以外の能力値は平均で『十』としている。

 この平均値は、学習院と言われる場所で統計を取っているので、それなりに信憑性はあると信じられている。

 スキルや能力値について、教会と学習院は情報を共有して、有効利用しようとしている。

 ただし、聞いた事のないスキルは『外れスキル』として、記録にも残して貰えない。

 又、能力値を測定出来る道具は存在しているが、他人に見せる事はあまりしないのが現実だ。

 リゼは、辛うじて体力は平均値だが、魔力は平均値以下だ。

 各能力の平均値も、十歳の平均値を大きく下回っていた。


 リゼは平均値以下でも、達成出来るとクエストを探す事にした。

 幾つかのクエストの中なら『ケアリル草の採取』の紙をクエストボードから剥がして、受付に持っていく。

 受付嬢から『ケアリル草の採取』の詳細内容を説明される。

 生息地や、ケアリル草の絵を見せて貰う。

 ケアリル草を五本採取する事が今回の依頼で、期間は一日。報酬は『銀貨一枚』だ。

 『ケアリル草の採取』を受注して、ギルド会館を出る。

 リゼの目の前に突如、ステータス画面が現れた。

 そこには『ノーマルクエスト発生』と表示されている。

 リゼは何が起きたのか分からないでいると、目の前から表示は消えた。

 取り敢えず、ステータスを開くと『クエスト』の表示があり点滅していた。

 リゼは『クエスト』を押すと、『ノーマルクエストを受注しますか?『はい』『いいえ』と目の前に文字が出現する。

 リゼは咄嗟に『はい』を押すと、表示が『達成条件:二キロの歩行』『期限:三時間』に切り替わった。

 周りを見てみるが、この表示が見えているのは自分だけだと、リゼは理解する。

 二キロを歩かなければならない事を理解すると、画面は消えた。

 とりあえずリゼは、ケアリル草の生息地まで歩く。


 リゼの格好は、庶民よりも少し良い物を着ている為、目立っていた。

 しかし、人が常に往来している道なので、人攫いの危険も少ない。


 リゼは、往来する人達に場所を聞きながら、ケアリル草の生息地まで辿り着く。

 絵で見たケアリル草は、道から少し入った草むらに生えていた。

 初級冒険者の為のクエストになるので、危険は殆ど無い。

 ケアリル草を採取して、ギルド会館の戻る最中に先程の同じように突如、目の前に『ノーマルクエスト達成』とステータス画面が表示される。

 その下に、『報酬(全能力値:二増加)』とされた。

 リゼは、自分のステータスを確認すると確かに能力値が上がっていた。

 これが自分のスキル『クエスト』なのかと、リゼは自分のスキル効果を実感する。


 帰り道は歩行速度や、疲労度が行きとは異なる事にリゼは気付く。

 リゼの思い込みで、実際はそこまで大きく能力は向上していない。

 しかしリゼは、自分の能力が上がった嬉しさを噛み締めながら歩く。

 すると、『ユニーククエスト発生』の画面が表示された。

 右手で、触れようとした瞬間に画面が消える。

 リゼはその場で、立ち止まる。

 先程と同様に、ステータスを開いて『クエスト』の表示が点滅しているので、とりあえず押す。

 『ユニーククエストを受注しますか?』と表示されて、その下に『はい』『いいえ』の表示がされるので、リゼは迷わず『はい』を押す。

 画面が『腕立て伏せ:五十回』と変わり、その下に数字が表示されている。

 その数字は、上に零、下は一万から徐々に減っていっている。

 リゼは、道の脇に移動して、その場にしゃがむ。

 ケアリル草を置いて、腕立て伏せを始める。

 腕立て伏せを一回すると、上の数字が増える。

 リゼは上の数字が腕立て伏せの回数を示して、下が残り時間を示している事を理解した。

 兄達からの嫌がらせで、力仕事もさせられていたリゼにとっても『腕立て伏せ:五十回』は厳しいものだった。


 下の数字が、百を下回る時に上の数字が五十を示す。

 『ユニーククエスト達成』と、『報酬(万能能力値:五増加)』と表示された。

 なんの事か分からないので、ステータス画面を見ると、右下に『残万能力値:五』と表示されていた。

 リゼはその場所に指を置き、移動させると『万能能力値:五』が『万能能力値:四』に変化する。

そして、移動先の能力値が一増える事に気が付く。

 離さずに、そのまま指を元の位置に戻すと『万能能力値:五』に戻った。

 今、急ぎで能力値を振り分ける必要も無いので、必要と思えるときまで振り分けない事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る