私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵

第1話

「神の加護を受け取る儀式は終わりました。貴女のスキル名を言って下さい」


 天井からリゼを照らしていた一筋の光が消えて、司祭がリゼに『神の加護』を授かる儀式が終わった事を告げる。

 祈りを止めて、振り向くと父親は期待を膨らませた目で、リゼを見ていた。

 それもその筈だ。

 リゼの兄達が授かったスキルは、【二刀流】や【魔法力上昇(大)】等の将来有望なスキルだったからだ。

 自分の血が流れている子供が、将来有望なスキルを授かることは当たり前。

 もしかしたら、兄たち以上に素晴らしいスキルを授かっているかも知れない! と、勝手な妄想を描いていた。


「……クエストです」


 リゼは授かったスキルをステータスで確認して、司祭や両親に伝える。


「……聞いた事の無いスキルですね」


 司祭は考えながら話す。司祭の言葉を聞いた両親は、明らかに不機嫌な表情だった。


「くそっ、外れスキルか!」


 父親が吐き捨てるように言った。


「汚らわしい血が混じっているのだから、当然の結果ですわ」


 義母も、リゼと母親を侮辱する発言をする。

 リゼの容姿が、死んだ母親に似ているのも影響している。

 銀髪で青い目、そして白い肌。

 義母は、リゼの容姿に嫉妬していた。

 リゼは義母の言葉を不快に感じながらも、逆らうことなく拳を強く握り、じっと耐える。


 知名度が無いスキルは大抵『外れスキル』だと、一般的な常識として広まっていた。

 つまり、リゼが口にした『クエスト』というスキルは知名度が無い。


「御父様、御母様!」


 リゼは両親に向かって叫ぶ。


「汚らわしい。その名で、我らを呼ぶな。今後、御前とは無関係だ!」


 怒りに満ちた口調だ。

 自分の娘が『外れスキル』を授かった事が恥だと思い、この場で勘当される。

 父親が司祭と話をして、銀貨を数枚渡していた。


「チッ‼」


 父親はリゼに怒りの表情を浮かべて、聞こえるよう舌打ちをした。

 汚いものでも見るように、リゼを見ると言葉を掛けることなく、両親は帰ろうとしていた。


「司祭様。私は一体……」


 リゼの問いかけに、司祭は目を合わす事も、言葉を掛ける事も無かった。

 司祭が教会の者を呼び、リゼをギルド会館まで案内するよう命じる。

 父親が司祭に渡した銀貨は、これから行くギルドと世話をする者への仲介料だ。

 案内を任された者も事情を把握しているようで、リゼはぞんざいに扱われる。


 リゼは、自分が両親に捨てられた事は、理解している。

 むしろ、あの両親や兄達と、縁が切れた事はリゼにとっても喜ばしい事だった。

 屋敷を出る際に、母親の形見である髪留めは今、付けているので屋敷に思い出の品も残っていない。

 今日は、人目を気にする為か今迄、来た事の無い服に着替えさせられて神殿まで来ている。

 しかし、リゼが気がかりなの事があった。

 仲の良かった担当の使用人である。

 リゼよりも年上の十三歳だが、失敗も多く両親や兄、他の使用人達から常に叱られてばかりだった。

 使えない使用人だったからこそ、リゼの担当になった。

 といっても、リゼも使用人に近い扱いだったので担当という名だけだ。

 どちらかが失敗をすれば連帯責任で、罰を与えられる。

 リゼは自分が居なくなる事で、彼女が虐めの対象にならないかを心配する。


 リゼは、ギルド会館に連れていかれる道中で、数時間前の父親とのやりとりをリゼは思い出していた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「忘れ物は無いか?」

「……はい」


 キンダルという小さな領地を統治している領主には、三人の子供が居る。

 リゼは、その末っ子になる。

 年齢が三つ上の長兄と、二つ上の次兄は本妻の子だが、リゼは屋敷に仕えていた元使用人の子だ。

 本妻は使用人であるリゼの母親が、リゼを身籠る事を知ると、激怒して屋敷からリゼの母親を追い出す。

 追い出されたリゼの母親は、故郷の村に戻り生活をするが、リゼが七歳の時に亡くなる。

 暫くして、リゼの母親が死んだ事を知った父親である領主は、強引にリゼを引き取り、屋敷に迎え入れ育てた。

 リゼの母親は綺麗な使用人であった事。

 そして、その容姿を受け継いでいるかもしれないリゼ。

 リゼのスキルが知名度の高いスキルであれば、政略結婚などに利用出来ると考えたからだ。

 屋敷に連れて来られたリゼは、正妻である義母や兄達からは疎まれる存在であった。

 リゼ自身も、両親や兄達を嫌っていた。

 実際、リゼは領主の子供と言うわけでなく、使用人に近い扱いを受けていた。


 リゼは今日、十歳の誕生日を迎える。

 神の加護を受ける為、両親と共に神殿のある街オーリスに来ていた。

 神殿に到着すると、司祭に案内をされて加護を受ける為、跪き祈りを捧げる。

 リゼの願った。

 目の前の両親に頼らずに、一人でも生きていけるスキルが欲しいと。



 この世界では、十歳になると『成人の儀』を行い、神の加護により各々の『スキル』を授かる。

 【剣技】を授かれば、いずれは『剣聖』という称号を授かる事も可能だ。

 【商才】を授かれば、一代で大きな商会を築き、贅沢な暮らしが出来て、親族達もその恩恵を受ける事も出来る。

 この『スキル』によって、人々は人生を謳歌する者や、落胆する者に別れる。

 スキル次第で、今後の人生を大きく左右されるのだ。

 スキルにもランクがあり、一般的に最初に授かる基本なスキルと呼ばれる『ノーマルスキル』、その後一定の条件を達成すると、『レアスキル』『スペシャルスキル』『エクストラスキル』とノーマルスキルに関係した上位レベルのスキルが習得可能になる。

 その仮定で、授かったスキルの派生である『ユニークスキル』を習得する事も出来る。

 『レアスキル』は百人に一人、『スペシャルスキル』は十万人に一人、『エクストラスキル』に至っては、この世界でも数人しか習得する者が居ない。

 『ユニークスキル』に至っては、謎に包まれている。

 これらの割合も、神の代理で加護を授ける教会が発表しているだけなので、本当なのかは分からない。

 スキル自体、千差万別だ。よって、どれだけの種類があるのかは誰も分からない。

 自分のスキルを理解して鍛錬を積んだ者のみ、上位スキルが習得出来ると考えられている

 『スキル』は、教会関係者でも見る事は出来ない。

 よって、神の加護を授かった際に、自己申告しか確かめる方法が無い。

 

 スキルにも外れと呼ばれるものも存在する。

 【大食】や、【体臭強化】がそうだ。

 日常生活で大して役に立たず、冒険者としても全く意味を持たないスキルになるからだ。

 外れスキルを授かった者は、その後辛い生活を強いられる。

 自暴自棄になり、自ら命を絶つ者も居るくらいだ。

 その事を知っている者は、虚偽の報告をしたりもする。

 しかし、それは自分を更に酷い状況になる事を、十歳の子供は知らない。

 稀に親の期待に応える為に、外れスキルでなくても虚偽の報告をする子供も居る。


 この世界では、スキルを授かると同時に、左手の甲に聖印が刻まれる。

 聖印を刻まれる事で、自分のステータスを始めて見る事が出来る。

 他人のステータスは、覗く事は基本出来ない。

 基本出来ないと言うのは、噂ではステータスを覗く事が出来る、スキルの存在があるからだ。

 よって、全てが自己申告制となる。

 ただし、犯罪歴等は特殊な水晶を触る事で判別可能だ。

 聖印は、身分証明証も兼ねている。


 スキル習得をすると、ギルドへの登録が 義務付けられている。

 ギルドとは、冒険者や商人と管理する組織になる。

 十五歳になるまではギルド登録が必須となる。

 ギルドに登録する事は、この世界の決まりだ。


 冒険者や商人になる為の下積み期間と考える者もいれば、強要される事を嫌う者もいる。

 貴族等は、十五歳を過ぎるとギルド登録を止める。

 ギルドに登録しなくても、必要な物は親の権力や、金貨で購入すれば良い。

 人も同じで、金貨で雇えば事足りる。

 自分が強くなる必要が、全く無い事が大きな理由だ。


 冒険者はランクがあり、ランクSが最高になる。

 冒険者は、死亡率の高い職業だ。

 しかし、一攫千金を狙える夢もある。

 全て自己責任であるが故に、自由だ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 リゼは自分のスキル『クエスト』について考える。

 クエストと言えば、冒険者への依頼等が頭に浮かぶ。

 ただし、それが自分のスキル『クエスト』と、どういう関係なのかは分からない。

 一体、どのような効果を持つスキルなのか。

 リゼは、自分の事でありながら自分が分からないでいた。


「ここだ」


 案内をしてくれた教会関係者が、リゼに話し掛ける。

 リゼは、その言葉で我に返る。

 どれくらい歩いたのか分からないが、気が付くとギルド会館の前だった。

 教会関係者の後を追うように、ギルド会館に入る。

 ギルド会館の中には、多くの人が居た。

 多分、冒険者だろう。

 教会関係者とリゼを見ると「あの子も、外れスキルか」「可哀想に」と聞こえないように陰口を言っている。

 十歳くらいの子供が、ギルド会館に教会関係者と訪れるという事は、外れスキルで親から捨てられた事なのを、ここに居る誰もが知っている。

 受付まで来ると、教会関係者は受付嬢と話をする。

 話が終わると、リゼを見る事無く無言で去って行った。

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