第3話 魔導兵団団長

 魔道兵団兵舎の、ある部屋をアルフィーはノックする。

 扉越しから低く落ち着いた、よく通る声が「入れ」と一言指示する。

 扉を開け一歩前に踏み出すと、訓練兵の時から散々させられた敬礼を力強くする。

「アルフィー・ワーズ二等兵、只今参上致しました!」

 それをチラリと一瞥すると軽く手を払う動作で「直れ」とその男は慣れたように指示する。

 彼こそ魔導兵団を預かる兵団長ことグレン・ドーソンだ。

 ブロンドの長髪オールバックでブラウンの瞳はまっすぐで見たものを鋭く貫く。

 顎と口元を覆う髭は髪と同じくブロンド、その風貌はまさに獅子のごとく威風堂々としている。

 訓練兵時代にアルフィーも噂を度々耳にしている。あらゆる武器や魔術を使いこなし、敵を薙ぎ払いながら駆ける様は、まさに鬼神の如きであると。その噂にアルフィーも男心に尊敬の念を抱いていた。

「貴様のことは授与式の時に十分目立っていた。よって今更詳しい自己紹介は不要だ。個人的な興味もない。上からの直々の配属命令が下ったのでそれを伝えるために呼んだ」

 キビキビと要点のみ伝えるしゃべり方は、命令を下す上で無用なものを削ぎ落としてきた賜物なのだろう。

 アルフィーは一言発せられる度に背筋に電撃が走るような緊張を覚える。

「はっ!先に報告を受けていたため存じております!」

「ふむ。なら話は早い。貴様の配属先だが、先日攻め落とした城塞都市アッシャール近郊の森に逃げ仰せた、敗残兵の駆逐及び捕縛の任だ。だが……」

 髭を蓄えた顎に手を当て訝しげな表情で擦る。そして値踏みするようにアルフィーをじっと見つめる。

「上から直々の配属命令とは随分と目をかけられてるようだな」

 その目線は自分と兵団長を隔てる机の上のモノに向けられた。

「確かにその若さで魔道兵へ入団したこと、そして貴様の前に現れたコイツが特別異質なのも認める」

 ギンとその目線は鋭さを増し、再びアルフィーに向けられる。

「だがこの兵団に入った以上貴様は戦場においてまだ右も左も分からないヒヨッコであることを忘れるな。上官命令は絶対のものとして死守すること。死にたくなければ慢心を捨て規律を重んじよ」

「サー!イエッサー!!」

 アルフィーは訓練兵時代にはしたことの無いほどに、渾身の力を込めて敬礼をした。

「ふむ、よろしい」

 その様子に兵団長の目が少しばかり緩んだ気がした。そして再び机のそれへと向けられる。

 それは授与式の時アルフィーの前に現れた大剣──と呼ぶには些か形状に疑問は残るが──だ。

 アルフィーは今までの緊張のあまり気付かなかったが初めてその存在を意識する。

「お前にはこのデカブツを背負って戦場を走り回ってもらう訳だが」

 チラリとアルフィーを見やる。

「いくら見た目に反して驚くほど軽い金属で出来てるとはいえ、魔道兵に支給されている……最大のロングソードに比べても遥かに重い。そんな鍛え足りない肉体ではかえって邪魔になるぞ」

「はっ!その分鍛錬をより一層重ね、軽々と振り回せるように尽力したい所存にございます!」

「うむ、いい心がけだ。これからはそのデカブツを常に持ち歩き、自由自在に扱えるぐらいに体を作れ。それと……」

 おもむろに取り出したのはその大剣の大きさにあった鞘だった。

 皮で作られ、通常の差し入れ口に加えて片側が空いており、鉄で縁取られている。鐺も同じく鉄製だ。

 片側が空いているおかげで留め具を外せば、背負っていてもそこから抜ける仕様になっている。

「急拵えだが作らせた。切っ先が鐺を簡単に貫いてしまうと鍛冶師が嬉しそうに嘆いていたな。刃先の腹を押さえつけて、はまるように作ったらしい。無骨な作りだが、まぁ持ち運びには支障は無かろう。持っていくといい」

 ドサッと大剣の横にその鞘を乱暴に置く。

「ありがとうございます!」

 わざわざ鞘まで作ってくれたことにアルフィーは素直に感激した。

 というのも本人もまたどうやって持ち運ぼうか悩んでいたからだ。

 皮バンドで固定するか包帯で巻くか等、どれも杜撰だったのに対し、今まさに最適解を、しかもわざわざ作って渡してくれたからだ。

 その喜びの表情をみた兵団長も気分を良くしたのか朗らかに笑い言った。

「我が祖国のために身を粉にして働いてくれよ!ガハハハハッ!」

 そしてアルフィーは鞘と大剣を受け取った。

「すぐ出立の準備をしろ。正午出発の補給部隊と合流し同行して任務地に迎え。さぁ、行け」

「はっ!」そう答えると敬礼をしアルフィーは足取り軽く、兵団長の執務室を後にした。


 ──暫くして扉がノックされた。その音に兵団長の顔が曇る。

「お時間です」

 評議会から知らされた未知の脅威。それに対する防衛戦力配備についての作戦会議の知らせだ。

「今向かう」

 ──妙な胸騒ぎがする。何事も起こらなければいいが……。

 不安を胸に抱き足取り重く、ドーソンは執務室を後にする。

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