第3話

彩子が照れくさそうに言う。確かにそれは、彩子が目をくりくりさせて、哺乳瓶をしゃぶってこちらを見ている写真だ。

「こんなにかわいい頃があったのよ」

彩子の母親は懐かしがるように、その写真をじーっと眺めている。ふと、うれしそうな顔で、武の方を見て、

「武さんも、かわいいと思うでしょう?」

さっきからトイレに行こうかどうか迷っていた。「本当ですね。お義母さん」と、そう言うしかなかった。

もう一度、お茶を飲もうとした。今度はもういい温度になっていて、からっからっに乾いたのどを、少しうるおした。しかし、武はまた、しまったと思った。それではトイレを近くさせるだけであったからだ。トイレに行ってはならないというルールはどこにもなかった。しかし、トイレを貸してくださいとは、とても言えなかった。

「あなたも見てください」

彩子の母親はその写真を、父親に見せた。

「ふふ、本当だな」

彩子の父親は、普段見せそうもない笑顔をそこで見せた。一家団欒を絵に描いたような状況だった。武も当然その中に入っていた。ところが、もうトイレを我慢できない状態にあった。

「す、すみません。トイレを貸してください」

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