夜の新宿

一子

夜の新宿


夜の新宿にたったひとり。

愛してくれないあなたを想いながら、私はぼんやりと歩き回った。風は冷たく、私に殴りかかってきた。しばらくすると探していたたばこ屋があった。友達に教えて貰った紅茶の香りの「Paradise」を買う。お店のおばさんに年齢は大丈夫かと聞かれる。もちろん大丈夫だと答えた。

茶色のリップに赤いレトロなワンピース、ゴールドのピアス、鏡を見ると大人に見えた。

更に歩きいて行くと調べていた居酒屋が見つかった。勇気を出して一人で入った。案外されて席に着く。女ひとりで飲みに来るなんて、なにか思われないかしら。とにかくさっさと注文した。さっき買ったたばこの封を開ける。紅茶の香りが広がった。しかし火をつけて吸ってみるけど紅茶の香りはしなかった。周りは騒がしかった。私はこんなに沈んでいるのに、私の横や後ろからは楽しそうな声が聞こえてきた。とにかく飲んで吸った。ふわふわしてきた。お酒はあんまり美味しくなかった、アルコール臭が苦手だった。だけど7杯くらい飲んだ。水も飲まずに、ナチョスと最初に出されたお通しだけで。感覚が鈍くなってきた。親から早く帰ってこいと催促の連絡が来たので会計をしようと立ち上がる。なんだかフラフラする。だけどまぁ歩ける。少し酔ってはいるけど回りにそれを感じさせないように誤魔化す。

何とか駅にたどり着いて、トイレによって電車に乗った。なかなか家にはつかなかった。途中、どこから来るのか分からないような苦しさと、我慢できそうにないくらいの吐き気に襲われた。だけどどうすることも出来なかった。座りたくてもなかなか席が空かない。沖縄のパイナップルジュースをもっていたので、仕方なくそれを飲んだ。しかし気持ち悪いのは治らない。やっと座れたと思ったら、そろそろ限界が来た。電車の中で吐きそうになってなんとか耐えると、途中で降りてホームの隅で吐いてしまった。

なんとなく罪悪感を感じながらトイレを探す。個室に入ると私は拭きながら泣いた。泣き崩れた。伝えきれなかった何かが私の体から飛び出ていくかのように。なんでもいいから一緒にいたいと、自分の言ったことに対する後悔もあったかもしれない。とにかく愛されない自分を恨んでいるのかも、あいつに愛されるあの女を憎んでいたのかもしれない。過呼吸になりながら、私は爆発するかのように泣きまくった。もうおかしくなりそうだった。夜の闇に溶けて消えてしまえたらいいのに。ひたすら泣くとトイレを出て電車に乗ろうとした。これがまた一苦労だった、なかなかホームにたどり着けなくて。何とか最寄り駅について、重たい身体を引きずりながら家に帰ると、そのまま少し散らかった自分の部屋に倒れ込んでしまった。母親がやってくる。疲れと食べ過ぎということにしておく。まさか呑んで胃に来たなんて言えない。なんとかバレずに済むと、ワンピースを脱ぎ捨てパジャマを来た。ネックレスとピアスと指輪を外して、小さなテーブルの上に置いた。ベットに乗っぼって横になると、泣きながら死んだように眠った。

深夜、気持ちが悪くて目が覚めた。吐きそうになって、頑張ってこらえた。トイレまでもたない。近くのビニール袋を一瞬で見つけて手に取った。部屋を汚したくない私のこの根性、素晴らしいだろう。

吐いて少しすっきりしたけれどまだ苦しい、出てきたものは黄色い液体だった。また泣きながらベッドの上に横になった。次に目が覚めると朝になっていた。気持ち悪くて、耐えられそうになかった。これも気合いでこらえて、今度は近くにあったコップに吐いた。出てきたものは黄色い液体と泡だった。もう出すものなんかないはずなのに。私は沢山胃液を吐いた。死ぬかと思った。死にたかった。でも死ねなかった。こんなことじゃ死ねない。どうして生きているのかわからなかった。また泣いてしまった、あの人からの連絡を待ちながら。どうして水分が残っているのかも分からないけど、また枕をびちょびちょにした。

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