困ったときはイーチアザー

「なぁなぁ、やっぱりナマおっぱいでかかったか? 吉岡さんも立派だけど、白木さんは異次元級だからな」

「やっぱり、そこがセフレにした理由でござるか。異次元級の乳房の感想を聞かせていただきたいでござる」

「顔うずめた? ぱふぱふしてもらった?」

「ま、まさか挟んでもらったとか……」

「にゅ、乳輪は大きかったか是非聞かせてくれ」


「だーーーー! うっせえよお前ら! セフレじゃねえぞ! やってねえっつってんだろうが! お互いにちゃんと別れてから、新たにつきあい始めただけだ、そんなこと一切してないからな!」


 噂が天災レベルまで拡散された昼休み。

 興味津々な有象無象が俺のところへやってきて、根掘り葉掘り聞いてきやがる。あまりにウザすぎて、俺の口調が荒々しいことこの上ない。


 まあ、ぱふぱふはしたけどね。んなこと堂々と言えるかバカ野郎。


 クッソ、こんなことになるんならイクスティンクション・レイをマスターしとくべきだった。『ブッ飛べ有象無象!』とか言いながらここでぶっ放したら楽しいだろうなー。


「ええ、でも池谷ですら身体に触れさせなかった白木さんと、手をつないでたってことは……下半身コネクトしたとしか思えねえんだけど」

「同意でござる」

「池谷悔しいだろうな。おっぱいしか目に入ってなかっただろうし」

「あのおっぱいだけで存在価値SSSトリプルエスだから」


 ……なんだろうかね。

 本当に外野ってこういう話が好きなんだな。おまえらに関係なかろうに。

 あと、おっぱいがSSSってどんなんだ。Hカップだぞこの野郎。


「包んで挟んで揉んで。いっぱいおっぱい楽しめそうだよなあ」

「それだけでグルメリポートできそうでござるな。白木殿は話してても要領を得なくてイマイチでござったが」

「まさしく。白木さんって、あんまり一緒にいて楽しいタイプじゃないけど、おっぱいだけで許せるわ」


 カッチーン。

 俺がスルーしているのをいいことに、罵詈雑言浴びせてきやがる有象無象に苛立った。


 ……こんの馬鹿どもが。好き放題言うのも限度があるだろ。


 あんなに会話が楽しくて、あんなに笑顔がキュートで、あんなに心が優しい子、そうそういないのに。そんなことにも気づかないまま好き勝手なこと言ってんじゃねえよ。性的な意味でおっぱいばっかり見やがって。


「……おまえら、あれほど魅力的な子はそういないのに、中身見てないのか。おっぱいばっかり見てるからそう思うんだよ。あと、俺の彼女をバカにすんな」


 琴音ちゃんの真・ツンドラモードを参考にして、怒気を孕んだ冷たい声で俺がそういうと、一瞬まわりが静かになった。

 そのすきをついて、俺は自分の席を立つ。


「とにかく、琴音ちゃんは俺のものだ。残念だったな、だから手ェ出すなよ。あと、おっぱいもガン見すんな。言いたいことは以上でござる」


 席を立って二、三歩ほど歩いてから振り向き、そう念を押した。

 つーかおい、語尾が感染うつっちまったじゃねえか。なんで有象無象にハ〇トリくん混じってんだよ。

 やべえな、ござる言葉の感染力。エボラウイルス並みだ。


 多少締まらなかったが、まあいいと割り切って。

 呆気にとられたような有象無象をそのままにし、勢いで教室を出たら。


「……あ、あの……」


 そこに琴音ちゃんがいた。顔が真っ赤である。渦中の二人が遭遇したことで、あたりがまたざわめいた。

 ええい、他人のことはほっとけよ。ああ天ぷらラーメン食いてえなあ。


「……ひょっとして、聞いてた?」


「い、い、いいえ、何も何も聞いてませんはい」


 探りを入れてみると、これでもか、とばかりに首を左右に振る琴音ちゃんが怪しすぎる。うっわー。これ絶対聞いてたよね聞いてたよね。

 どうしよう、有象無象が無責任にほざいた心無い言葉で傷ついてなきゃいいんだけど。


「……まあ、とにかく、場所移動しよう」


「は、はい」


 俺たちは二人並んで、そそくさとその場を去った。



 ―・―・―・―・―・―・―



「……琴音ちゃんのほうは、大丈夫だった?」


 やはり遠目から誰かしらにチラ見はされているが、もう開き直らないといけない。

 俺たちはいつもの裏庭の定位置であるベンチへと座った。


「あ、は、はい。確かに最初はいろいろ訊かれたんですが……」


「やっぱりそうか。うまくあしらってきたの? それとも無視した?」


「い、いえ、あのですね……みんなが聞き捨てならないことばかり言ってたもので、つい感情的になって怒鳴ってしまって……そのまま教室を出てきました」


「……へっ?」


 琴音ちゃんがみんなの前で感情的になるとは、よっぽど腹に据えかねたのか。

 俺もこうやって知り合う前は、おっぱいくらいしか印象に残らないおとなしい子、って認識だったもんな。


「……まったく、何も知らないくせにみんな……腹立たしいです」


 何を言われたのか思い出したせいか、琴音ちゃんの顔が怒りに染まる。


 何も知らない、か。

 おそらくは、見た目だけは最上級クラスの池谷となぜ別れたのか、てなことを言われたのだろう。

 池谷の中身を知らなきゃ、無責任にそう言うに違いない。


「まあ、池谷の件はまだみんな知らないもんな。安心していいよ、ナポリたんが情報工作してくれてるから」


「……はい?」


 怒りに染まった琴音ちゃんの顔が、ハトマメ顔に変わった。


「……池谷のことじゃないの? 聞き捨てならないことって」


「違いますよ。そんなことどうでもいいですから、もう」


 しれっとそう言い放った琴音ちゃんの様子に戸惑う俺ガイル、きみバルログ。

 予想が外れたので、仕方なく取り繕うことにする。


「ま、まあ、みんな外面しか見てないんだよな。バカみたい」


「……はい。おかげでわたしは救われましたけど」


「……??」


「そ、それでですね……」


「ん?」


「ニセモノの彼女だとしても、わ、わたしは、祐介くんのものですから。祐介くんだけですから」


「……あ」


 あらら。

 取り繕うはずだったのに、よりによってそっちの方も聞いてましたか。


 …………


 コッパズカシイ。おまけに、すごい傲慢なこと言っちゃったかもしれない。


 二つの後悔で狼狽えそうになる俺だが、手がその時にぎゅっと握られた。

 ハッとして思わず琴音ちゃんを見てしまう。


「……だ、だから、この関係の間だけは、祐介くんは、わたし専用です……からね?」


 勘弁してよ。

 頬を染めながらそんなこと言われたら、思わず抱きしめちゃいそうになるじゃん。


「祐介くん専用の、わたし……わたし専用の、祐介くん……ふふっ」


 自制心と戦って言葉が出せない俺の横で、琴音ちゃんは昼休みの間ずっと幸せそうだった。

 佳世も池谷も校内にいないから、いま無理にイチャつく必要はないんだけど……


 ま、いいよね。

 今くらい、琴音ちゃんを俺専用にしても。

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