三人寄れば主水の知恵
そんな中、噂をすればシャドウ。ナポリたんから連絡がきた。
今現在、文化部部室裏にいることを伝えると、すぐに目の前にナポリたんが姿を現す。
「おーう、二人そろって、今日も今日とて傷の舐め合いお疲れ様」
「やかましいわ! ちったあいたわれ!」
「こんにちは、ジェームズさん」
「……ん? ジェームズ?」
白木さんの脳内では、ナポリたんは伝説の仕事人スパイに変換されてるらしい。挨拶すら普通じゃない俺たちであるが、もう慣れた。
何を言ってるのかわからないふうなそぶりのナポリたんだが、時間が惜しいのか細かいことにはこだわらないで、さっそく情報を話し始めた。
「……まあ、細かいことはいい。ところで、池谷に関する情報なんだが」
「うん。なにか新しい事実でも判明した?」
「いや、事実というかな。昨日いろいろググってたら、実は池谷は、過去に全中バスケに出ていたことが判明した。割と注目選手だったようだぞ」
「全中? そういえば佳世も……参加してたな。確か東北ブロックで敗退したけど」
全中とは言うまでもないかもしれないが、全国中学校体育大会のことだ。
「ああ。池谷は以前お隣県に住んでてな。バスケの強い中学出身のようだ」
「そ、そういえば、そんなことを池谷君から話された記憶があります」
トランクもなしに記憶遡行。
そういえば、全中ブロック予選のお土産として、我が家にずんだ餅とモナカを持ってきたことがあったな。
思えば──あのあとから、いったん佳世と疎遠になったんだっけ。てっきり、全中に参加したことがきっかけで、佳世がバスケに夢中になったせいかと思ったけど。
……まさか。
「ねぇ白木さん。池谷はお隣県に住んでいた時のことをどんなふうに言ってたの?」
「い、いえ、普通ですよ。俺はバスケ上手くて目立ってたとか、おかげですごくモテたとか、そんな俺とつきあえて幸せだね、とか……」
「ヘドロが出るどころか堆積層から出てきたシーラカンスを丸飲みした後くらい、ムナクソ悪くなる自慢だなクソッタレ」
「じ、自慢なんでしょうか。バスケに興味ないからどうでも……あと、シーラカンスは丸飲みしちゃダメです。寄生虫がたくさんいますし……」
「うん、真顔で言われなくてもわかってる。でも白木さん、なんでバスケに興味ないの?」
「バスケを見るくらいなら、〇葉テレビで午後六時から放映される、ママさんバレー千葉大会の熱い試合を見ている方が楽しいですし」
「それテレビのゴールデンタイム付近に放映するものか!?
ママさんバレーってそんなに奥が深いの? 少なくともスポンサーがつくくらいには深いの? あとなんで東北地方で千葉テ〇ビが見れるの?
あ、伏せ字の位置間違えた。でもそれに関してはわりとどうでもいいや。
困って判断を第三者に仰ごうと、顔の向きを変えると。
「……なんで白木が池谷と付き合ってるのか、ボクにもわからん……」
ナポリたんがいつかと同じように呆れていた。
ひょっとして、白木さんは最強なのかもしれない。ナポリたんより強い、イコール校内最強だからな。
罵倒ロリ属性のエージェント、小松川【萌えるごみ】奈保里
VS
きょぬーコミュ障ボケ属性の天然娘、白木【エンジェル】琴音
「……なんかすごいだらしない顔になってますけど、緑川くん……?」
「あー、祐介がこういう顔をしている時は、長年の経験から言って、エロいことを考えているか金儲けのことを考えているか、のどちらかだな」
「当たりだけどなんでそんなことまでバレるのか理解に苦しむ」
たまにツッコまれたと思えばこれだよ。わかりやすいか、俺?
──いや、わかりやすいか。だからこそ佳世にいいように裏切られたんだろうな。
「エロいことを考えて金儲け……? 行列のできるラーメン屋を経営しながら、若い女性の住宅に侵入を繰り返す……んでしょうか?」
「白木さん? シイッターのトレンド見ただけで、勝手に判断しないでいただきたいのですが」
俺は新潟のラーメン亭店主か。そこまで開き直れんわ。
「っつーか、話が飛びすぎなんだよ。で、ナポリたんの結論としては?」
「祐介も気づいてんだろ。佳世と池谷は実は中学時代から知り合いだった、という可能性を」
「……はい、さーせん」
ふざけてないと精神的にもたんだろ。俺のこの蜘蛛の糸みたいに繊細な神経を理解してくれ。まあ、なんで池谷がお隣県から引っ越してきたか、という謎は残ってるけど。
「で、だ。そのことを佳世にメッセージで尋ねたら、あれほどひっきりなしに来ていた佳世からのメッセ&着信爆撃が止んだんだわ」
「……わかりやす」
「本当だな。そういうわけで、裏付けは必要かもしれないが佳世のほうはほぼ確定。今は池谷の事情に詳しいやつに当たっている最中」
「ありがと、ナポリたん」
「いんや、バスケ部のためでもあるからな。不祥事をこれ以上表ざたにしてもいいことないし。大事件になりそうなら、関係者全員を闇に葬るしかない」
そう言い切ったナポリたんに、白木さんが目をキラキラさせている。
「
「あ、ああ、別にボクは、バスケ部を廃部にしたくないだけだからな。悪いがおまえらのことはついでだ、ついで」
白木さんに褒められてまんざらでもなさそうなナポリたんではあるが。昨日、かわいい甥っ子のためって言ってたのは誰だよ。
白木さんの十分の一くらい素直さを持てば、ナポリたんも萌えるごみ卒業余裕なのに。
「ツンデレまでいただきました……今年の
「それが言いたかっただけかい! いつまで仕事人ネタ引っ張るんだ!」
そして白木さんも通常営業でしたとさ。
さて、今日の放課後は土日の準備をしないとな。
とりあえずは、シベリアというお菓子がどこで売られているか調べるところから始めるか。
…………
土日で、佳世が池谷のところにのこのこ顔を出しに現れたら──どうしよう。
―・―・―・―・―・―・―
それからどうしたかというと。
俺は放課後はさっさと学校を出た。
少しだけ白木さんを探したが、池谷らしき高身長で足も長くて寝ぐせみたいなヘアスタイルをワックスでセットしている制服を着崩したチャラい野郎がそばにいたので、近寄らず離れた。
白木さんが遠目にも困惑していたのがわかったので、メッセージで『今日は早く帰ってきなさい。母より』とだけ送っといたけどな。
とりあえず、シベリアを販売しているところを近場で探し出さなければならない。
羊羹とカステラから自作するのもハードルが高いし。
そんなわけで、帰宅そうそう自室にこもってインターネット三昧。
きょうはオヤジとおふくろが高校の同窓会のため、帰りが遅い。ゆえに晩飯は適当に済ませた。
インターネット中、さまざまなわき道にそれ、シベリアのこともいつしか頭から飛んでしまい、時間も忘れて没頭してると。
ガチャ。
なぜかノックも声もなく部屋の扉が開く。
妹の佑美かな、と思って、ドアのほうに視線を向けたら。
「……祐介……」
きょう学校を休んだはずの佳世が、やつれた表情でそこに立っていた。
ガチャの結果は
……じゃなくて。
土日の前に、池谷の家じゃなくてのこのこと俺の部屋に登場ですか。予想害もいいとこだぞ、おい!
──次回、修羅場。
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