節句を祝おう、避妊具で祝おう
……うーん。
何となく俺は思った。
池谷はひょっとして、この暴力的なおっぱいを自由にできる権利を手に入れるために、白木さんと付き合ったのではないか。
でも、白木さんはそれを許さなかったから、それで浮気をしたのではないか、と。
それでもね。
浮気するならせめて彼氏がいない相手にすればいいのに、なんでよりによって相手が佳世なんだYO!
「……なんでいきなりラッパーみたいなハンドサインしてるんですか、緑川くん……?」
「心の叫びだ」
「はい……?」
「まあそんなことは取るに足らない。それよりもひとつ確認しておきたいのだが、池谷はひょっとしておっぱい星人か?」
「お、おっぱい星人……?」
「巨乳に限りない劣情を抱く人種のことだ」
その言葉を受け考え込む白木さん、傍らで再度おっぱいをガン見する俺。
──お、腕を組み始めた。すげえ、腕の上に脂肪が乗っかっている。夢の詰まった脂肪の塊が。
やっぱ、池谷っておっぱい星人じゃないのか。佳世も白木さんには負けるとはいえ、おそらくバスケ部内では一番の巨乳だろうし。
「……あの、いろいろ考えたんですけど。やっぱり池谷君は、おっぱい星人ではないと思います」
組んだ腕を解いて白木さんが結論を語りだした。至福の瞬間が終わってしまい少し残念。
「そうなん? その
「だ、だって、池谷君は『胸は大きさじゃない』と前に言ってましたし……」
「……マジか」
読みが外れた。じゃあ、単に同じバスケ部だから、佳世に相談か何かをして、それがきっかけで──
「は、はい。触り心地を確かめたい、とか……」
いろいろ不満が募っていた佳世もそれについ感情移入して、相談に乗っているうちに──
「顔をうずめたら気持ちよさそうだね、とか……」
お互いの境遇に同情が芽生え、それがいつしか愛情に近くなり──
「それだけ大きかったら挟めるよね、とか言ってましたけど、でも大きさじゃない、って最後ははっきりと……」
「それどこからどう判断してもおっぱい星人の言い分じゃねえかよ! 間違いねえよ、池谷はおっぱい星人だよ!」
考えがまとまんねえ。クッソ、なんなんだよ本当に白木さんは。鋭いのかボケボケなのかはっきりしろや。
……
いや。ひとつだけ重要なことがはっきりした。問題は……
「ところで、白木さん。池谷をストーキングしてた日に」
「ストーキングじゃなくて、彼氏を見つめていただけです」
「気づかれずに見つめていたらそれはストーキングというものだ。んなこたぁどうでもいいんだよ、その日スキンを買った池谷はどうしたんだ?」
「は、はい。午後二時三十二分に自宅へと戻りました。そうしてしばらくは自分の部屋の掃除などをしていたようですが、そのあと、午後三時二十八分に、吉岡さんが訪ねてきまして」
「……なんだと」
「そのあとは、カーテンがかけられて、窓からは確認できませんでした。そうして午後七時十六分に、何やら満足したような吉岡さんが出てきて……」
「なんでそんなことがわかるんだよ」
「幸せそうにニヘラっと笑いながら、彼の家から出てきましたから。さすがにあの時はわたしにも殺意の波動に芽生えそうでした……」
「瞬獄殺とかマスターできそうだな」
「コマンドが難しくて無理です。中パンチキャンセル昇竜拳なら楽勝なんですけど」
「その話題に乗られるとは想定外だったわ」
「あ、でも今はバルログ使いなので」
いやバルログ弱いだろ。なんでそんな修羅の道を進もうとする……じゃなくて。
「それはどうでもいい」
誰も格闘ゲームの話など聞きたくはないはずだ。いやもっと大事な話をしているはずなのに、なんでこうも話が脱線するのか。
はたから見ると会話が弾んでいるとも言えなくもないが、目的はそれではないはず。
「つまり、だ。池谷の家で池谷と佳世が、サカキオリジナルを必要とする何かをしていた、という可能性が高いわけか」
「あ、あの、そこは可能性じゃなくて、そうとしか考えられないのでは……?」
「いやいや、セッセッセをしていた可能性もあるし」
「ううぅぅ……」
「冗談だ」
逆にセッセッセでそれだけ佳世が満足した表情をしているのなら、ある意味俺は佳世を許してもいい。
「まあ、していたことは間違いないにしても、証拠がないしな」
怒りが閾値を通り越したのか、それともこの会話の雰囲気のせいか、俺はわりと落ち着けていたおかげで、冷静な判断を下すことができた。
もし浮気を糾弾するなら、画像にしろ動画にしろ、何かしら必要な気もする。
池谷と佳世がぐうの音も出ないくらいにしないとならない。さていかにすべきか、少し悩んだのちに。
「証拠……ありますよ?」
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