バズったけれども

「今野さんはなんで、このバズについて調べているの?」推し作品に「いいね」をつけながら、あずきさんが言う。

「……俺はウェブライターだけど爆発的にバズったことないし、そもそもバズって何だろう、って思ってさ……」俺は正直な感想を言ってしまう。

「あ、本当、悩んでいるとかなじゃいんだけど」

「ふうん?須藤は秀才型バズ作りインフルエンサーだからね。彼の理論を学べばいいとこまでいくでしょ。まあ、本物のバズ女には敵わないわ」

「本物のバズ女?」

「たぶんあれもう、マーケの天才よ」

「そんなやつがいるのか」

「いる。ってか本当に知らないわけ?バカ?」

「いや、多分知っているけどアカウント名と呼び名が一致しないだけだと思う……」俺はごにょごにょごまかす。

「ま、でも、どっかのバカ見ていると、バズもいいもんじゃないって思うけどね」

「そうですよ、俺のストッキング宣伝で本当にストッキングの宇井上げが上がっているかと言うとそうでもないし……」

「でしょうね」間髪を入れずにあずきさんがとどめを刺した。

「結局、バズって反応してもらっても、そこから気持ちを持続させて何か行動に起こしてくれる人って、本当に一握りだからな……」須藤さんが小さくつぶやいた。

「ま、でもお陰であんた有名だけどね」

「須藤さん、変態ですけど応援しています」

「ありがとうございます」と須藤。

「貶されているんだよ」とあずきさんが肩をたたいた。

「ところで、さ」あずきさんがぐいっと俺に顔を近づけた。須藤さんはつぶやいったーでのマーケリサーチに入った。

「あなた、男の人が好きってこと、ないよね?」

「ふえっ?!!!!!」俺は心臓が飛び出るかと思った。実際に口からアイスティーを少し吐きだした。

「きったな。……で、今野さん、男の人が好きなわけ?」

「いや、そんなはずはない」俺は口元をウェットティッシュでぬぐう。

「ただ、この前不思議な男を見かけた」

「ふうん。のわりに随分動揺しているけど。ときめいたの?」

「ときめいた……わけないよ。ただ、突然のことにびっくりした」

「そう? あなたより年上?」

「ずいぶん年上だと思う」

「……どんな人?」

「落ち着いている。声がすごく落ち着く」

「そう……」

「それにしてもあずきさん、なんで俺のこと、わかるんですか?」俺は思わず須藤さんを見る。彼は自分の携帯に集中していた。

「いや何もわからないわよ。ただ私が適当に今野さんに質問したら、たまたま当たっただけ。でも人って、そんな偶然に必然を感じがちだよね」

「あずささん、先輩って呼んでいいですか?」

「良いよ気持ち悪いけど。あ、取材のお礼に今度その人の話、聞かせてよ」あずきさんがいたずらっぽく笑う。

「うん……取材…・・・、そうだ、さっき言っていた、『本物のバズ女』って?!」

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