(一)小隊の初任務②

 翌日、定刻よりも早く王都西大門にやってきた第十七小隊。

 彼らの表情からは「王族の警護」という重圧が見て取れた。

「何だ第二の。先に来ていたのか?」

 後からやってきた一団は、ラーソルバールらの姿を見るなりそう口にした。

 首元と、肩にある小さなプレートが騎士団の番号を示している。彼らのプレートに刻印された数字は「一」。第一騎士団を示すものだった。

「万が一、先方が予定よりも早く現れるような事があったときに対処できるようにしたまでです」

「いらねえよ、そんな気遣い。所詮は敵、敗戦国の使者だろう? もし何かあっても第二なんかいなくても俺達だけで対処できる。第二は邪魔はするなよ」

 ラーソルバールの答えに、悪態をつくかのような言葉が返ってきた。

 第一騎士団は王都防衛を主任務としているため、選ばれた部隊であるという認識を持ち、他の騎士団に対して優越感を抱いている者が多いと聞いている。この第一騎士団十六小隊の小隊長、バロウル・ボーガンディ三星官はそうした考えの持ち主なのだろう。

 赤みを帯びた茶色の髪と筋骨隆々の肉体、歳は見た目は二十代の半ばといったところ。事前に確認した資料では二十四歳とあったので、相応だろう。

「第一も第二もありません。ここは協力して任務にあたるべきではありませんか?」

「ケッ、英雄様だか何だか知らねえが、生意気な娘だな」

 書類では性格も思考の方向性も分からない。ルガートで学んだばかりの事だ。

「我々は指令書の通り、任務をこなすだけです」

 相手の言い分に付き合っていても、利があるとは思えないだけに安易に挑発に乗るような真似はしない。

(いいじゃないですか、相手の思うままにさせておけば。失敗したら奴らの責任だ)

 そっとラーソルバールに耳打ちをしたのはルガートだった。

(問題なく任務が終わるならそれでも構いませんが、何か有れば彼らは必ず我々に責任を転嫁してくると思います。それに失敗は即外交問題。下手をすれば泥沼の戦争になりかねませんので、万一の失敗も許されません。それに……)

 ラーソルバールは言いかけて止めた。飲み込んだのは「嫌な予感がする」という言葉。それが、自らの勘に基づくものだけに、口にしたところで明確な理由を示せるとは思えなかったからだ。

(なるほど、成功したら奴らの手柄、失敗したらこちらの責任という結果になりかねないという事ですか)

 ルガートは納得したように頷くと、素直に引き下がった。


 間もなく予定時刻という頃、サンドワーズ第一騎士団長が数名の文官と思われる人々を連れ立って現れた。

 待機していたふたつの小隊に近寄り敬礼をすると、鉄面皮の如く表情を変えずに任務にあたる面々の顔を眺めた。

「遅くなって済まない。別の用件があって時間が押してしまってな。日中は君達の二部隊が、夜間は予定通り別の隊に後退してもらうが、不測の事態があった場合には、対応してもらう事になるかもしれない」

「はい、了解しました!」

 息を合わせたかの如く、全員の声が重なる。

 この一体感も、騎士団長が居なくなれば崩れるだろう。ラーソルバールは横目で第一騎士団十六小隊の面々を見やった。


 そして予定時刻から僅かに遅れて、豪華な馬車を連ねた一団が西大門にやってきた。

 馬車の側面にはレンドバール王家の紋が描かれていたため、すぐに護衛対象だと判断することができた。

 馬車は西大門の前で停車し、中の一台から壮年の男性が降りてきた。

「お出迎え有難う御座います。私はレンドバール王国、軍務大臣グロワルドでございます。我が国の第二王子共々、交渉の席に着かせていただきたく、参上いたしました」

 迎えるように、サンドワーズの傍らに居た文官が進み出る。

「ようこそおいで下さいました。宰相府の事務官でコンドレッサーと申します。殿下や方々の王都内での護衛は、後ろに控えております騎士達が勤めさせていただきます。御身の安全は保証させて頂きますので御安心の程を……」

「第一騎士団のサンドワーズと申します。よろしく御願い致します」

 サンドワーズが頭を下げると、レンドバールの軍務大臣は僅かに安心したように小さく息を吐いた。

「誠実を持ってなるサンドワーズ騎士団長が護衛と有らば心強い。よろしく頼みます」

 双方の呼吸に合わせ、ラーソルバールらも頭を下げた。

 その時、ちらりと馬車の窓から青年が顔を覗かせたのをラーソルバールは見逃さなかった。日陰になっていて分かりにくいが、金髪もしくは亜麻色の髪。かなり容姿の整った青年だという印象を持った。

(あれが第二王子だろうか?)

 儀礼的な挨拶が交わされる間、窓から僅かに覗く視線はその光景を目にして、何を思ったのだろうか。それをラーソルバールが理解できるはずも無いが、護衛対象となる人物への興味が少しだけ沸いた瞬間だった。

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