(二)騎士学校と修学院①

(二)


 交流期間中、ラーソルバールは何度男子生徒から言い寄られ、断ったか分からない。半分以上は、断ったというよりは逃げたと言った方が良い。

 片やエラゼルはというと、公爵家という肩書きからか、そういう機会は数える程だった。

「ラーソルバールは男子に人気があるのだな」

 無自覚な公爵令嬢は、男子生徒の告白から逃げ切った直後のラーソルバールに対し、そう言って笑った。

「貴女の場合は、みんな肩書きに二の足を踏むんです! 貴女が公爵家の娘じゃなかったら、私なんか比べ物にならない程に寄って来ると思うよ」

「ふむ。寄ってきたのは子爵家以上の者達だったな」

 とぼけたように言うが、本人は意識して言っている訳ではなさそうだった。

 うん、身元のしっかりした人ばかりだね。ラーソルバールは口に出さず、苦笑いをする。隣に居たシェラも、エラゼルを見ながら似たような顔をしていた。


「シェラや、フォルテシア、エミーナはどうなのだ?」

「貴女がた二人と一緒に居て、あえて私の所に来る奇特な人が居ると思う?」

 エミーナが眉間にしわを寄せて抗議する姿勢を見せる。

「私は……ひとり。断ったけど」

「うん、私は二人。同じく断った」

 フォルテシアとシェラの歩調を合わせぬ言葉に、エミーナは固まった。

「シェラが断るのは分かる……。好きなのはガ……」

 恐ろしい形相を浮かべ、シェラがフォルテシアの口を手で塞ぐ。

「最近ね、私……刺繍が上手くなったんだよ。フォルテシア、ちょっと試し縫いしてみようか」

 息が出来ずに苦しみながら、フォルテシアは首を横に振る。

「仲がいいな、二人は」

 やり取りの意味を知ってか知らずか、エラゼルは笑う。


「まあ、でも交流期間ももうすぐ終わりだし、また平穏な日々に戻るよ」

 自身も余計な話を続けたくないとばかりに、ラーソルバールは話を切り替えようとする。だが、返って来たのはただの同意では無かった。

「そうだね。交流期間が終われば休暇だし、ガラルドシアに行って、愛しの人に会えるもんね!」

 フォルテシアを解放したシェラが、からかうように言って笑う。

「うほ、そんな話があるんですか!」

 嬉しそうにエミーナが首を突っ込もうとするが、させじとばかりにラーソルバールは余計な事を口走る友の鼻をつまんで牽制する。

「ふふふ……シェラ、私も最近、刺繍の練習してるの」

「あう……」

 シェラはその圧力に負け、口を閉ざさるを得なかった。鈍い公爵令嬢も何かを言おうとしたようだが、流石に理解したらしく、開きかけた口をゆっくりと閉じた。


「嫌な事も多かった交流期間も、終わると思うと何だか少し寂しいですね」

 思うところがあるのか、エミーナがしみじみと言う。

 ラーソルバールにしてみても、死線を彷徨うような事件があった事を含め、良い事も悪い事もあった。人間関係も順調とは程遠いもので、交流対象外の学年である三年生や、一年生との軋轢もあり、今まで良く大事にならなかったものだと関心せざるを得ない。


 今年はラーソルバール自身やエラゼルといった、注目を集めやすい人物が居たとはいえ、過去の交流では問題が起きなかったのだろうかと疑問に思う程だ。

 ファルデリアナとの関係は改善したとはいえ、取り巻きの令嬢達は、関係改善には面従腹背といった姿勢を保っている。他クラスの生徒に至っては、未だに険悪な雰囲気を醸し出す事が多い。

 基本的に修学院と騎士学校では折り合いが悪いのだろう、他クラスと交流している生徒達から聞こえて来る話も大差が無い。むしろ、両者の関係性で言えば、ラーソルバール達のクラスが一番良いほどだ。

「最終日までには、全体的にもう少し関係を改善できたらいいんだけどね」

「んん、何かいい案でもあるのか?」

 エラゼルが尋ねる。彼女も少なからず両者の関係を気にしていた、という事だろう。

「んー……」

「では、こういうのはどうでしょう?」

 頭を悩ますラーソルバールに救いの手を差し伸べたのは、エミーナだった。

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