(三)亡国の姫①
廃墟となったカラリアは、街道からは外れた場所に存在している。
以前は主要街道が集まる場所であったのだが、戦で廃墟となった後、帝国によって街道が整備し直された為である。
ラーソルバール達は、現在の街道を外れ、旧街道を通ってカラリアを目指していた。
「存在ごと消す、ということか。街が有った事も、国が有った事も……」
憤るようにエラゼルが呟いた。原因は「道」である。
旧街道は放置され補修されることなく荒れ放題となっており、今はそこが「道であった」という事を辛うじて知ることが出来る程度でしかない。侵略し街を破壊し尽くした歴史を無かった事にしたいという、帝国の意思が働いている事は言うまでも無い。
荒れた道を走ること一刻ほど、ようやくカラリアの跡地が見えてきた。
「ああ、結構大きな街だったんだね」
街を取り囲む城壁は、その大きさを示していた。「この全てが廃墟なのか」という言葉をラーソルバールは飲み込んだ。
馬車を降りると、門へと歩を進める。焼け落ちた城門の残骸が、戦争の証人でもある。
「約束の花を埋める前に、街を見ていってもいいかな?」
ラーソルバールの意外な言葉に、誰も異論を挟むことはなかった。戦火に消えた街がどのような物なのか、その目で見なくてはならない。そんな気持ちが皆を突き動かした。
「見たら後悔するかもしれぬぞ」
エラゼルはそう言ったが、歩を止める事は無くむしろ先導するかのように進む。その手には大事そうに箱を抱えたままで。
門をくぐると、街の姿というよりは街だった物の姿が目に入ってきた。炭のように黒く焦げたものが随所に転がっており、住居だったと思われる瓦礫の山が一面に広がっているだけだった。
時の流れにより崩壊した所もあるのだろうが、それを考慮しても凄惨すぎる様に言葉を失う。この廃墟と化した街を歩けば、きっと遺体があちこちに放置され、白骨が散らばっているに違いない。そう思うと、足を前へと動かせない。
「亡霊?」
不意に発せられたシェラの一言に、誰もが背筋を寒くする。
「……何言ってるの、気のせいでしょ?」
「ううん、あっちの方で動く人影を見たの」
そう語るシェラの顔色が心なしか青白い。
「こんな昼間から亡霊なんて……って!」
ディナレスの顔が一瞬でひきつる。ゆっくりと指差す方角に確かに人の姿が有った。
「救護院は教会の息もかかってるんだから、霊とかそういうのは専門分野だろう?」
ガイザの言葉にも、ディナレスは固まったまま答えない。
仕方ないという様子で、ガイザは人影のあった方角に走り出す。一瞬遅れてラーソルバールが後を追う。
エラゼルも走って追いたいところだったのだろうが、箱の中の銀細工が気になって走ることができなかった。
「居た!」
人影を見つけると、ガイザが駆け寄る。
足音に気付いたようで、人影は驚いたように振り向いた。
「あなた方は?」
「あなたは?」
ほぼ同時に声が発せられる。
「すみません、私達はシルネラから来た冒険者です。ちょっとした依頼でここに立ち寄っただけです」
「……そうですか。ここで人に会ったのは初めてなものですから……」
そこに居たのは若い女性だった。
「亡霊、ではないですよね?」
「……ふふ、生きていますよ。驚かせてすみません、私はオリアネータ。かつてここの住人だった者の末裔です」
「そう……ですか……。何と申し上げて良いやら……」
ラーソルバールは言葉に窮した。生きている人間だった場合、その可能性が高い事を考慮していたが、凄惨な街の姿を見た後では、この女性に何を言えば良いのか思いつかなかった。
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