(一)追悼③

 大講堂脇は石畳で出来ているため、足跡は残っていない。

 ラーソルバール達は、追悼式の後、足跡を探して石畳以外の場所を調べていた。

「……あった!」

 足跡探しに協力していたフォルテシアが、珍しく大きな声を出した。

「まことか!」

 近くに居たエラゼルが駆け寄る。

「足跡が沈んでいる。確かに全身鎧の重さの影響だな。それにこの数、間違いない無いな」

 寮と校舎との中間辺り。石畳が切れて土を露にした場所があり、そこには無数の足跡があった。

「ここまでか?」

 その足跡を追うと、校舎の陰になるあたりで足跡は消えていた。

 そして確かに有った。

「黒い石……これが門石ゲートストーン?」

「まて!」

 フォルテシアが触ろうとして手を伸ばしたが、エラゼルに静止される。

「何があるか分からぬ。とりあえずは触れずに、魔法院に知らせた方が良い」

 エラゼルは自らの頭を押さえ、大きくため息をついた。

 予想していた結果とはいえ、現実にそれを突きつけられると憂鬱になる。


 急いで校長に報告すると、騎士団から魔法院へ連絡してもらうべきという話になった。騎士学校は軍務省管轄であるため、管轄の異なる魔法院への直接の取次ぎは難しい、という理由があったからだ。

 それならば、事情を知っている第一騎士団のグランザー三月官に依頼すれば、話が早いという事になり、仲介役を引き受けて貰うよう要請することになった。


 連絡から二刻程経ち、日が沈みかけた頃にグランザーが魔法院所属の数人を連れ、騎士学校に現れた。

「お久しぶりです、グランザーさん」

 久々に会った騎士に、ラーソルバールは笑顔を向けた。

「また会えて何よりだが、こういう厄介事を持ち込むのは止めてくれ。……というのは冗談だが、聞いた通りだとすると事態は深刻だな」

 笑顔で握手をしたが、石を見て表情を曇らせる。

「魔法院の方々、処理を頼む」

 短く告げると、共にやって来たキゴーア三月法官が頷き、部下に指示を出す。

「今回の一件の裏には奴が居るのか?」

 グランザーが吐き捨てるように言う。

「恐らくは……」

 ラーソルバールが頷き、応える。

「フォンドラーク侯爵も抱えた不満に付け入られ、奴とその背後に居る『誰か』に踊らされたのかもしれません」

 エラゼルが歯に衣着せずに言ってのける。

「そこから先は私の手に余るな。軍務大臣から宰相……いや、国王陛下にまで及ぶ話だ。今は聞かなかった事にしよう……」

「……そうですよね」

 ラーソルバールは苦笑した。

「私もこういう話より、反乱軍と一戦交えていたほうが気楽だよ」

 つられるようにグランザーも苦笑いする。


「グランザー三月官……」

「ああ、すまない」

 キゴーアに声をかけられ、グランザーはラーソルバール達との話を中断して振り向いた。

「やはり、門石に間違いないですね。使用した痕跡もあります」

「そうですか。協力に感謝します」

 そう言葉を交わしつつも、二人は互いにため息をつく。

「門石は回収しますが、建前は別として、本音としてはもう面倒事は要りませんと言いたいところです」

「全くですな」

 先を越された、というような少し驚いた表情を見せたグランザーだったが、キゴーアに同意すると、手を差し出した。

「今度は良い話でお会いしたいものですね……。では、お先に失礼します」

 キゴーアもそれに応じて握手をすると、グランザーと生徒達に別れを告げて去っていった。

「良い話で、か……。私もそう願いたいな」

 グランザーもラーソルバールとエラゼルの顔を見ると、苦笑いした。

 互いに生死を分ける戦いを行った戦友でもある。意図するところは十分に理解できた。

「はい、今度は良い話で……」

 ラーソルバールとエラゼルは順に手を伸ばして握手をすると、敬礼で感謝の意を伝え、再会を約束して別れを告げた。

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