(二)覚悟③
荒れ狂う嵐の如く兵士を薙倒すジャハネートと、相手を翻弄しつつ舞うように敵を倒すラーソルバール。その姿は、強襲した兵士達を恐怖させた。
講堂内に居る兵士の数は増え、五十人程は居る。だが、二人を掻い潜って宰相を狙うという事の困難さを目の当たりにし、腰が引けていた。
「怯むな、行け!」
隊長格だろうか、兵士達の後ろから声が響く。
だが、兵士達の足は動かない。戦意の衰えた兵士に檄を飛ばしたところで、それが改善するはずもない。誰かが二人に抗えると、証明して見せれば良いだけだ。
隊長の命に応えるように、一際体の大きな男が二人を止めようと立ち塞がる。
「殊勝じゃないか。ただ、図体ばかりでかくても駄目なんだよっ!」
ジャハネートの剣が唸る。
辛うじて大男はその剣を自らの剣で受け止めた。そのまま力勝負に持ち込もうと、体重をかけて押し込もうとする。
「力勝負なんて、ランドルフの馬鹿にでも挑みな!」
ジャハネートが体を捻って力を横に逃がすと、大男はよろけて前のめりになる。その瞬間、ジャハネートは一回転して、後頭部を目掛け、恐ろしい速度で剣を振り下ろした。
ガンという激しい音がした直後、男はそのまま力無くゆっくりと倒れ込んだ。
「アンタが戦場で会った敵国兵なら、その首落としてるところだよ」
ジャハネートも、相手が国内の反乱分子だと分かっている様子だった。憐れむような視線を落とした後、不機嫌そうに手にした剣を見る。
「ちっ、剣が曲がっちまったよ。これだから重いばかりで出来の悪い剣は嫌だね」
ジャハネートは剣を投げ捨てると、たった今倒した男の手から剣を奪い取る。
「複数でかかれ!」
期待した兵士があっさりと倒された事に慌てた男は、生徒達には目もくれずに標的を指差した。
「正念場ですか?」
「いやぁ、まだ足りないねぇ」
不敵に笑うジャハネートを見ていると、焦りが消える。これが騎士団長の存在感というものか。ラーソルバールはそれを肌で感じた。
一斉に襲い掛かる兵士を相手に、ラーソルバールも少々苦戦する。それでも確実にひとりずつ倒し、宰相に近寄らせない。
「ラーソルバール! 無事か?」
兵士達の後方からエラゼルの声が聞こえる。
「何とかね! そっちは大丈夫? 避難は終わった?」
「皆で抑えている。あとは負傷者の搬送だけだ!」
敵を前に余裕とも思える会話をする。
(アル兄、エフィ姉どうしてるんだろ……)
考えながらも、手も体も止める訳にはいかない。
いつの間にか、軍務大臣ナスターク侯爵が剣を持って戦っているのが見えた。さすがは元騎士といった剣捌きで、相手の兵士達を翻弄している。
そしてファンハウゼンは宰相を守るように、警戒しながら前に立っている。少人数の割には奮戦し、押し止めていると言えた。
何とかなる、そう思った瞬間だった。
「グ……!」
うめき声と共に、鮮血が飛ぶ。
ラーソルバールの視界の端で、軍務大臣が肩を押さえる姿が見えた。
「軍務大臣!」
瞬間、ラーソルバールは叫んでいた。
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