(四)勲章と褒賞①
(四)
私達が案内されたのは、それほど大きくない会議室のような場所だった。
国の紋章が壁に描かれている以外は、装飾も少なく殺風景で、窓の外の緑と空が見えていなければ、味気ない部屋だったろう。
机が片付けられ、椅子だけが用意されていて、皆が順に腰掛けた。
「少々お待ちください」
私達を案内してきた人は、それだけ言い残すとさっさと居なくなってしまった。
「愛想がないなあ。事務官ってのは皆がああなのかねえ」
リックスさんが私にだけ聞こえるように愚痴る。
それが可笑しくて思わず笑ってしまった。
「体の方はもういいのかい?」
今度は普通の声で聞かれた。
「完治です! 多分」
「そうか、良かった。君が倒れてて、隣の娘が泣いていた時はどうなるかと………」
言葉が詰り、リックスさんは顔を背けた、
恐らくエラゼルが睨んだのだろう。
間が悪く、ドアをノックする音が聞こえると、先程の事務官が扉を開けた。
開いた扉からは、すぐに軍務大臣ナスターク侯爵が入室してきた。
大臣自らのお出ましかと、思っていたら、国家治安大臣のウェルデリル伯爵までもが続いて入室してきた。新年会で、そのお顔を見た覚えがある。
手紙が連名であったため特段驚くことでは無いが、やはり大臣を二人も前にすると緊張する。
大臣ばかりを気にしていたら、見慣れぬ人も数人部屋に入ってきていた。
「気にしなくていい。広報の関係者と、街の情報業者だ」
私が彼らを眺めていた事に気付いたのだろう、軍務大臣が教えてくれた。
本来であれば、遠い存在の人であるはずだが、何度も直接会話をしているので、そう言った感覚は薄れつつある。
公私をしっかりと線引きしないといけない。
私は大臣二人に視線を戻した。
「本日君達に来て貰った理由は、既に書面で分かってくれていると思う。国として昨日の騒動で率先して街を守ってくれたことに対し、感謝の意を伝えるとともに、形ある礼をする事となった」
「国家治安省からも、身を危険にさらしてまで、街のために戦ってくれた事に対し、礼を述べなくてはならない。損害はゼロではないが、君達が居てくれなければ、もっと酷い結果になっていただろう」
そう言って、二人は息を合わせたように頭を下げた。
大臣が頭を下げるという異例の事に、騎士学校の生徒たちはどよめいた。
「私達はやるべき事をやっただけです。大臣であるお二方に頭を下げていただくようなものではありません」
横目で見ると、エラゼルは私の言葉に微笑を浮かべていた。
「例え、そうであったとしても、国としてはその行為に報いねばならない」
軍務大臣が軽く手を鳴らすと、情報業者らの陰から女性の事務官が進み出て、持っていたものを大臣に手渡した。
「まずは、感謝状。次に小さいが街の守護者としての勲章。これらは食べられず、腹の足しにはならないからな。それとは別に、わずかばかりだが褒賞金もある」
誰も声を発しないが、生徒達の息遣いが変わる。
「あの……よろしいでしょうか」
私は小さな声で、大臣に問いかけた。
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