聖と魔の名を持つ者 ~ラーソルバール・ミルエルシ物語~
草沢一臨
プロローグ
プロローグ
「
戦場に響く若い女性の声。ヴァストール王国最強と言われる騎士団長の檄が飛ぶ。
三倍を超える数の帝国軍の攻勢に対し、ヴァストール王国軍は善戦していた。ここで敗走すれば、侵略してくる帝国軍の勢いは増す。王国存亡がかかった一戦と言っても過言では無い。
「団長、右翼が持ちません!」
突出する敵軍を抑えきれず後退しつつある様子に悲鳴のような声が上がる。
「やはり……。ここは預けます。私は右翼の援護に行きます!」
「はい!」
白銀の鎧が馬上で揺れた。
馬に気合をつけて走らせると、襲い来る敵軍を剣で薙ぎ払い、戦場を横断する。
「フィルフォースの魔女だ!」
「白銀の悪魔が動いた!」
そこかしこから叫び声が上がり、帝国軍に動揺が走る。
この白銀の鎧で戦場を駆ける姿は、帝国軍が何度も味わってきた恐怖の象徴となっていた。
「白銀の悪魔を狩れ!」
帝国軍から檄が飛び、恐れ後退しようとする兵を押しとどめる。数では圧倒的に優勢なのだから、たった一人の行動で兵を動揺させる訳にはいかない。
「鋼鉄将バハラーゼ参る! 白銀の悪魔よ、勝負せよ!」
大男が大声で名乗りを上げ、戦場を横断しようとする相手に呼びかける。
白銀の騎士は、馬を駆り迫り来る巨体を一瞥すると、馬首を返して剣を閃かせた。
「邪魔をするな!」
バハラーゼと名乗った男は、次の瞬間には馬上から地面に叩きつけられていた。
「鋼鉄将が白銀の悪魔にやられた!」
衝撃的な出来事に、帝国軍の攻勢が一瞬止まる。
「押し返せ!」
瞬時の隙を見逃さず、澄んだ声が王国兵達を勇気付ける。不敗の象徴であり、王国兵の希望。
少しずつ押し返す王国軍。だが、多数の相手を引きつけた右翼の負担は大きい。
急ぎ馬を駆り、帝国兵を跳ね除ける。だが、このまま援護に回っても他の部隊の連携がとれなくなる可能性がある。
一瞬の迷いが生じた時、右翼前方より、王国の旗を掲げる一団が駆けて来るのが見えた。
「間に合った!」
安堵し、気力が戻る。剣を強く握ると、高々と突き上げた。
「援軍だ! 皆、勝てるぞ!」
戦場に響く透き通った声に、王国軍が奮い立つ。
そして援軍を率いて来た、若い女性が叫んだ。
「待たせたな。我が友、ラーソルバール!」
物語の始まりはここから数年前に遡る……。
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