(二)情熱③

 二回戦が終了した後、生徒達は教室に戻ってきていた。

 負けたエミーナはやけ食いするのかと思わせるほど、屋台で食べ物を買い込んできていた。

 既にお菓子のような者を口に入れ、満面の笑みを浮かべている。負けた悔しさも吹き飛んでしまった様子だった。

 この日以降に試合予定が無い者達は、試合観戦しつつ、屋台で買ってきた食べ物に舌鼓を打っていた。

 騎士学校は訓練は厳しいため、食事制限をかけなくとも太る心配が無い。

 それだけに色々な店が出店するこの大会は、美食大会と言われる事も有る。

 王都に限らず国内各地の店も出店しており、普段は食べられない物を食べることが出来る良い機会になっている。

 騎士となった後も、各地に遠征した際に出された料理でこの大会を思い出し、懐かしむ者も居るらしい。

 ご多分に漏れずラーソルバール達もいくつか食べ物を買い込んでおり、一緒に食べるべく代表会に行ったフォルテシアの帰りを待っていた。


 しばらくして食べ物が冷めかかってきた頃、ようやくフォルテシアが疲れた顔で戻ってきた。トーナメントの組み合わせ自体には代表会は一切関与できないのだが、出席者数名が組み合わせ内容に異議を唱え、会を紛糾させたらしい。

 フォルテシアが代表会で受け取ってきた三回戦以降のトーナメント表が、教室内に貼り出された。

 役目を終えたとばかりにフラフラと席に戻るフォルテシア。

「あらま、エラゼルさんの願いが叶ったのかな、それともラーソルの願いかな? このまま勝ち上がったとしても、エラゼルさんと当たるのは決勝になっちゃうんだね」

 表を指で辿りながら、シェラが何となく楽しそうに呟いた。

 ラーソルバールに渡された串焼きを頬張りながら、フォルテシアは頷いた。

 フォルテシアいわく、組み合わせを見たエラゼルは一瞬だけ会心の笑みを見せたらしい。

 今でもラーソルバールと戦う事にこだわっている、ということなのかもしれない。だとしたら、決勝という舞台はエラゼルにとって最高のものなのだろう。


 ラーソルバールにはひとつ気になっていた事が有る。それはエラゼルの姉、イリアナの言葉だ。

 彼女の言葉が本当ならば、エラゼル自身は元々騎士学校に来る気がなく、騎士になろうという意志もなかったという事になる。

 エラゼル自身の希望ではなく、デラネトゥス公爵が経験を積ませようという思いから、幼年学校に引き続き騎士学校を学びの場にと選んだという事だろうか。

 果たしてのエラゼルの目的がラーソルバールとの対決なのだとしたら、決着がついた後、彼女は何を目的とし、どう行動するつもりなのだろう。

 結果はどうあれ、もしエラゼルがここを離れると決めたとしたら、自分には何ができるのだろうかと、ラーソルバールは自問する。


「間違いなく、エラゼルさんはラーソルと戦いたがっているよ。だからエラゼルさんは決勝まで絶対負けないし、貴女も負けられない……」

 シェラの言葉が胸に刺さる。考えていたことを見透かされたような気がして、ラーソルバールは何も言えなくなった。

 そうだ。少し馴れ合った程度で変わるはずもない。

 時折見せる闘争心と、変わらぬ一途な情熱。幼年学校の頃と何も変わることなく、自分は彼女の『宿敵』なのだから。

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