第2話
「残念ながら天国には行けませんよー!起きてくださーい!えいえいっ」
そんな声が聞こえてきた。随分可愛らしい声だ。ただ痛い。顔が痛い。やめて。
ペチン…ペチン…──
ペチンペチン──
ペチンペチンペチンペチンペチンペチン──
「んー!!やめろ!顔が痛いっ!」
「わわわ、急に起きないでくださいよ!危うく顔がぶつかるところだったじゃないですか!」
起きろと言ったのはアンタだろうに。気持ちよく寝てるところによくも…ん?
「あれ?俺死んだよな、子どもを助けるために飛び込んで…そんで車に轢かれて…うっ」
そう考えた途端、寒気がする。俺はあの時思い切り突き飛ばされた筈なのに身体は全く痛くない。その感覚がかえって気持ち悪かった。
「ええ、
なむなむ…と目の前の少女が手を合わせる仕草をしている。すごくムカつくんだが…。
しかし、やっぱり俺は死んでるらしい。
「ならなんで俺は生きてる?そんでアンタは誰なんだ?」
当然の疑問だ。死んでいると言うのならこうして会話できてるのがおかしい。
それに、ブカブカな白いニット服を着て、クリーム色の髪をしたおかっぱの少女なんて知り合いはいない。いるわけがない。
「貴方が生きてるのは選ばれたからですよ」
「誰に?」
「ボクにです!」
えへん!と胸を張って誇らしげな表情を見せる。訳が分からない。そしてやっぱりムカつく。
「んで、だからアンタは誰なんだ…」
「アンタじゃないです、ボクはエンジェ・ルールなのですよ」
「…エンジェル?」
「エンジェ・ルールですよ!まぁ天使ちゃんと呼ばれてもボクは嬉しいですけど♪」
どうやらこのエンジェルは天使らしい。うん、何を言ってるんだろうな。そりゃエンジェルは天使だし、天使はエンジェルだろう。あはは。
「気持ちはわかりますが、現実から逃げないでほしいのですよー。貴方にはしっかりしてもらわないと、貴方を選んだボクが困るのですよー?」
いや、不安そうな顔をされても困るんだが。そもそもさっきから選んだ選んだって、なんで俺が?
「ちなみに選んだ理由はですね…貴方が優しい人だからですよー、いい人だからですよー。ボクは貴方が気に入ったのですよー!」
「んー…選ばれた理由が悪いことじゃないのは分かったけど、選ばれたら何がどうなるんだ?」
「それはですねー、新しい世界で新しい命として誕生してほしいのですよ!つまりは、第二の人生を謳歌してほしいのですよー♪」
なるほどなぁ…。この短時間で訳が分からない事が起こりすぎてもう驚かなくなってきた。慣れって怖いなー。
「いいよ、ただ新しい人生を送ればいいんだろ。前の人生に未練がない訳じゃないけど、俺はまだ生きていたいし」
「やったー!ありがとなのですよ♪それじゃ、ちゃちゃっと儀式を済ませるのですよ!」
そう言って、何か少女が呟きだしたと思えば周りの景色が光に飲まれていく。
母さんや親父、少ないけれど大事な友だち。未練は色々あるけれど、いくら考えたところでどちらにせよ戻ることはできない。
それなら、俺は新しい人生を送りたい。好奇心に逆らうべからず…俺の人生の教訓だ。
「準備完了!これから貴方は、貴方がまだ見たことのない未知の世界に行くのですよ!そこで頑張って、そして楽しんで、第二の人生を謳歌してくださいなのですよー!」
「分かった、頑張るよ」
「ボクと会えなくなるので少し寂しかったり…?」
「それはない」
速攻で否定してやると、むーっと頬を膨らませて怒っている。容姿は確かに可愛いんだが言動がな…。
「そういう素直じゃないとこ直さないとダメですよー?それでは…」
「行ってらっしゃい、なのですよ!」
「はいよ、天使さん。行ってきます」
─────
光に飲まれて気がつくと新世界に…なんて感じではなく、光に向かって走っていけば着くらしい。行ってきますって言って走り出し始めたとき、後ろで「あっ、モンスターの存在伝え忘れたのですよー…」なんて聞こえた気がした。そう、気がしただけだ、その筈だ、そうであってくれ。
なんにせよ、楽しみだ…!
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