この未知が溢れる世界で
夜月
第1話
カチ…カチカチッ…
「そこ…よし!…ナイス味方!おつかれ~!───ふぅ…」
ヘッドセットを外して一息つく。画面にはvictoryの文字。よくあるFPSゲームだ。
「うーん、やっぱり飽きたなぁ…。仲間と協力して勝利を!ってのは楽しいんだけど、どうしても回数やると疲れるし…」
俺はこれを多分4,5年ぐらいは遊んでいる。一緒に遊んでくれる仲間が居るから続けてはいるが、この度流石に飽きました。
「久しぶりにゲーム屋にでも行くかぁ…何か買うかは別としてな」
外出用の服を着て、荷物の確認を済ませ部屋を出る。ちゃんと確認しても後々何か忘れてる気がするのなんなんだろうな。そんなこと考えながら一階へ。
「母さん、ちょっと出掛けてくるー!」
靴を履きながら一応声をかけておく。
聴こえてるかな?なんて考えてたら、はーい!と返事が帰ってきた。杞憂だったか。
ガチャッ───
扉を開けると眩しい日差し。同時にセミの鳴き声。あっつい。
ゲーム屋まではそこまで遠くないので歩いて行く。自転車を使っても良いんだが、最近運動不足が気になってな…。
ミーンミンミンミン───
俺は今年で21歳の大学3年生。就活だなんだと教師や事務員から嫌というほど聞かされ、そろそろ考えなきゃいけないんだがと思いつつ、今の行動理由はゲーム。正直将来が怖い、こんな調子で大丈夫か。
「大丈夫じゃねぇよなぁ…はぁ…」
あれこれ考えてると公園の近くまで来ていたらしい。子ども達の楽しげな声が聞こえてくる。
いくぞー! わー! きゃー!
「楽しそうだなぁ。あぁ、小学生とか中学生に戻りてぇ…就活やだ…」
思わずダメな呟きが漏れてしまう。でもこの歳になると大体みんな言っちゃうよね。…俺だけ?
おーい!そっちいったぞー!
そんな声が聞こえたと同時に目の前を男の子が走っていく。その先には道路。
嫌な汗が出る。まさかそんなと思いたかったが、道路だもんな。案の定車が走ってくる。男の子はボールに夢中で気づいていない。
「止まるな!走れ!」
咄嗟に声が出ていた。男の子が走ってくれれば対岸に間に合うからだ。だが。
え…?わぁ…!?
止まってしまった。車が迫る。もう時間がない。
「くっそぉぉぉぉぉぉ!!」
走り出す。俺のせいで逆に止まってしまったのかもしれない。助けなければ。
ブォォォォォォォッ
ドンッ!
─────
お兄…ち…おに…ちゃん…お兄ちゃん…!
朦朧とする意識の中、聞こえてきたのは男の子の声。良かった。助けることができたみたいだ。
「怖…かった…な…。良か…った…良かっ………」
まさかこんな風に終わるなんて思ってもいなかったけれど、誰かを助けて死んだのならそれは多分良いことなのだろう。あるのなら、天国に行けたらいいな。
─────
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