『逃亡するうどんさん』

やましん(テンパー)

『逃亡するうどんさん』

 これは、フィクションです。


 現実とは、関係ありません。



   🍜       🍜



 やましんは、お盆が明けた、あるトンでもない暑い晩、めずらしく、コンサートを聴きに行ったのです。


 人が沢山いる場所が、大嫌いなやましんであります。


 アマチュアの演奏会でした。 

 

 自分がかつて所属した事がある合唱団も参加するので、毎年、このコンサートだけは聞きに行くのです。


 古くからの友人も、途中から合流していました。


 演奏会後、ふたりで、ふらふらと、気の抜けた豆腐みたいに街中を歩き、友人の推薦する、小さなうどん屋さんに入ったのです。


 15人も入れば、満杯になるだろう、くらいの座席数です。


 友人は、以前も来たことがあるらしいです。


 やましんは、『とり天うどん』にしました。


 5分もすると、目の前に、得も言われぬ、美しい『とり天うどん』さんが現れたのです。


 おつゆと、薬味などをカップに入れまして、


『いっただあき、まあす!』


 うどんさんは、艶々と、輝いています。


 やましんは、お箸で、うどんさんを捕まえにかかりました。



 つるっ!


『あり?』


 うどんさんが、逃げました。


 一筋、捕まえにかかると、つるっ、と、逃げる!


 二筋、捕まえにかかると、別の方向に、逃げるのです。


『むむむ!ならば!』


 やましんは、まとめて、捕まえに行きました。


 ずるっ!



『ぎょわ。くっそう〰️〰️〰️。』


『なにしてるのお?』


 うどんさんを頬張りながら、友人が不思議そうに言います。


『だって。逃げるんだ。おわ、集団脱走だあ。』


 うどんさんたちは、なんと、テーブルから下に逃げるのです。


『うぎゃ。落っこちたあ!』


 やましんは、テーブルの下を覗きました。


『どしたの?』


『いやあ、消えた。どこにも、いないんだあ。』 


 店員さんが、笑いながら言いました。


『うちのうどんさんは、生きが良いから!』


『そういう、問題でも、なさそうな? あ、いた!』


 なんと、うどんさんたちは、テーブルの裏側に、集団で、引っ付いていたのです!


『あららあ。あのね、ぼくは、お金だして、君たちを、食べさせていただく、権利を確保しようと、しているのれす。』


 ぼくは、うどんさんの説得にかかりました。


 しかし、薄暗い、テーブルの裏側から、なかなか、離れようとは、しないのです。


やましんと、うどんさんの、にらめっこです。


『なにやてるの?ほら、こうするんだよ。』


 友人は、つゆがはいったうつわを、うどんさんたちの下に持ってゆきました。


 それから、テーブルを、ドカンと、叩いたのです。


 薄暗い中のうどんさんたちは、うつわのなかに、すぽん、と、転落したのです。


『これは、もらう。あ、もう、ひとさら、たのんますね。こいつ、しろと。だから。』


『あいよ!』


 大将が、当たり前のように答えました。


 気がつくと、あっちのテーブルでも、こっちのテーブルでも、どかん!と、上を叩いている人がいたのです。


『なんだあ。それで、普通なんだあ。』


 やましんは、納得しました。


 やっとお口に入ったうどんさんは、大変、美味でありました。

 



  🍜  🍜  🍜  🍜  🍜




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『逃亡するうどんさん』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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