JD-148.「浮島を探せ!」



『そうか、助けになるつもりが逆に助けられてしまったようだ』


「いや、そんなの気にしないでくれよ。マリルにはこのぐらいじゃ返せないぐらいお世話になってるしさ」


 スフォンの街へと、シルズの女の子2匹(?)を連れて戻って来た俺たちを、マリルをはじめとする数匹のシルズ達が出迎えてくれた。

 どうやら、彼女たちが帰ってこないことを気にしていたらしい。俺には区別が毛の色以外つかないけど、声の感じからして友達かな?


「ふわふわすべすべは大事。守る……よ?」


「まあ、ジルの話は極端としてもよ。好きにやってることだもの、ね?」


 鼻から蒸気が出そうなぐらいに、やる気を見せるジルちゃんを撫でつつ、ルビーの顔には可愛くウィンク1つ。

 ルビーもだいぶ打ち解けてきたというか、冗談が飛ばせる余裕が出てきたというべきか……うんうん。


「とーる、嬉しそうだね?」


「ん? そうだね。こうしてわいわい騒げるのはいいことだなーって」


 大げさかもしれないけれど、生きている、とすごく実感が最近あるような気がするのだ。もちろん、平和である意味安全な地球の暮らしがどうかと言われると優劣はつけにくい物ではある……かな?

 そこにジルちゃんたちがいないという点で言えば間違いなくこちら側の生活の方が良いのだけど。


 ふと、足元には俺たちが助けた形になったシルズの女の子。こちらをつぶらな瞳で見上げていた。

 こうしてると本当に生きてるぬいぐるみ、という表現がぴったりだ。そのままお持ち帰りされたりしそうな可愛さがあるよね。


『あ、あの! 改めて、ありがとうございました!』


「さっきも言ったけど、気にしないで」


 そのまま飛び跳ねそうな勢いでなおもお礼の言葉を言ってくるので、俺はしゃがみこんで手をそっと差し出した。

 人間と同じ習慣があるかどうかはわからないけど、やりたいことは伝わったらしい。ヒレにしか見えないけれどその小さな手を俺の物と合わせて、上下に数回。


「これで友達さ。みんなともね」


『……はいっ! やった、お父さん! お友達が出来たよ!』


『そうかそうか。よかったな』


 ちょっとカッコつけすぎたかな?なんて思いはすぐ後の言葉で半分ほど吹き飛んでしまった。

 陽気な声で、マリルに駆け寄る女の子。言われてみれば、毛並みというか毛色は近いような……。


「マリル、子供がいたんだ……」


『うむ? 言ってなかったか?』


 確かに彼に子供がいてもいなくても関係は特に変わらないけれど、なんとなく……そう、なんとなくなのだが……先輩って呼びたくなった俺がいた。

 人生、シルズは何生って言えばいいのかな? ともあれ、戦い方以外にも学ぶ物は多そうである。特に女性関係に関して。


『何を考えているかはよくわからんが、話は追々な。真偽は定かではないが、面白い話があるぞ』


 俺以上に衝撃を受けているのか、マリルに子供がいると判明してから妙に静かなみんなを引き連れ、俺達はシルズが良く出入りしているという港そばの建物に向かうことになった。

 マリルたちが見つけた、あるいは聞いたという話を聞くためだ。






「ミステリーなのです。サスペンスなのです!」


『さすぺん? ま、まあ……話を戻すぞ。我々が人間と協力して漁をしているのは言うまでもないことだが……最近、いや……話自体は前から実はあったようだが……。妙な島があるのだ』


 不思議な島を見たという話がある。そんな言葉がマリルから飛び出すと、ニーナが妙に興奮して叫び出した。

 大半は俺の記憶からの知識なんだけど、ニーナはその影響を他の子よりやや多く受けてるように感じる。台詞なんかも飛び出てくるしね。 

 それはともかくとして、マリルが同胞たち……他のシルズに俺達の狙いである暴走気味の魔物がいないかといったことや、不思議な出来事があったりしないかという話を振ったところ、この話が返ってきたのだという。


「島、と言えば閉鎖空間。ああ、マスターたちと水入らず……失礼、話を続けてくださいな」


『コホン。実は誰もが見たというだけで上陸は出来ていない島なのだが……ある時は夜明けとともに消え、ある時には目と鼻の先に近づいてきた、そんな島の話だ。近くまで行けた者の話では特に何も住んでいないということだったが』


「浮島……かしら。でも海の上で……?」


 同じく何かのスイッチが入ったようなラピスをジルちゃんは不思議そうに見つめている。いつもよりも若干ボケの多い空間にマリルの渋い声が響く。そしてその内容は、確かにミステリーな物だった。ルビーの言うような浮島だとしたら、外洋にそれがあるというのはなかなか難しい話だ。

 確か浮島は浅い場所に多くできるって言うからね。俺も詳しくは知らないけど……。


『呼び名は浮島で行くとして、ここ最近その目撃数が増えている。つい先日も見た者がいるそうだ』


「不思議だねー。でも貴石はなさそうだね……」


 目撃されている数が多くなっているということはもしかしたら浮島が複数あるということかもしれないし、それ以外の理由かもしれない。俺はふと、とある考えが頭に浮かんだ。

 話を聞いていて思い浮かぶのは、漫画なんかでありそうなヤシの木が2本ぐらい生えた小さな小さな小島。そしてそれは……生き物の上にあるのだ。


「ご主人様、ジル……見てみたいな」


「そうだね。見てないうちに何もないと決めるのも問題かな……。マリル、その目撃地点はこの街から遠いの?」


『いや、前にいった島よりも下手をすると近いかもしれん。拠点で休憩している者の中にも目撃者がいるからな。皆さえ良ければひとまず拠点まで向かおうか』


 かつて、モンスターに支配されてしまいマリルたちの祖先が追い出された島。そこは今、奪還されてシルズ達の沖合の拠点となっている。波の浸食は色々な仕組みで抑えているらしい不思議な島だ。

 俺達はマリルの提案にほぼ即決した。ほぼ、というのは泳げないニーナだけは若干引き気味だったからだ。

 それでも俺と一緒に行こうかと誘えば頷いてくれた。練習したら泳げるようになるのかな?


 善は急げとばかりに、港の一角で俺達はシルズ達の上に乗せてもらう。何度目かの海上アトラクションであるかのように滑るように全員が動き出した。

 何度味わっても、なかなか代えがたい経験に思える。これは確かに、泳げないと怖いという気持ちもわかるね。


『トールよ。その子を抱えて泳ぐ準備をしておけ。どうも嫌な予感がする』


「えぇー……トール様、お願いするのです」


「それはいいけど……? あれ、なんだろう……」


 波の穏やかな、広い海原。遠くには目的地である島が見える。あそこにはシルズ達が思い思いに暮らしているはずだ。人間も立ち寄れるように桟橋だってあるはず。前来た時よりも静かなぐらいの海面。

 しかし、マリルの言葉が呼び水となったわけではないのだろうけど、どうも落ち着かない。

 嵐が来るわけでもなさそうだ……となると?


「トール様! あれを!」


「え? 嘘でしょ……島だ……」


 ニーナが指さす先。さっきまで何もなかったように思う場所に急に出てきた、あからさまな小島。

 大きさは100メートルもなさそうな、本当に小さな島だ。それでも急に出現するような代物じゃない。

 砂浜のように見える白い部分の先は海。まるで群青色の絵の具を塗りたくったような青が……んん?


「マリル! とにかくアレから離れて!」


『何!? そうか、そういういうことか!』


 俺は落ち着かない理由を知った。波が静かなわけだ。普段なら海流が流れる場所に……そいつがいるのだから。

 何かを合図に、急激に加速して小島から離れていく俺たち。そして一気に目的地の島が大きく見えてきたころ……背後で海が弾けた。


「くじらさん?……違う?」


 皆の見つめる先で、ジルちゃんのつぶやき通り……浮島を体の上に乗せた、大きな何かが顔を出していた。


 

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