3つの扉(短編)
月冴(つきさゆ)
【Episode1-1】 3つの扉
「さあ、どの扉を選びますか?」
いかにも怪しげな男が、3つの扉の前に立っている。なぜ初対面の男相手にいかにも怪しいと形容するかといえば、黒と白の上下
しかし、そのいかにも
では、何がおかしいのか。
扉は空間のど真ん中に、ただ、ポンと立っているからである。通常扉は壁に備え付けてあるものであり、向こう側とこっち側を行き来するのを隔てるためにあるはずである。それが、何もない空間にぽつんと立っているものだから、怪しい以外に形容しようがない。
「独り言は終わった?もう、先に進めてもいい?」
男は軽く
「あ…すいません。つい、癖で」
どうやら、俺はいつもの癖で頭に思い浮かべた事柄をそのまま口に出してしまっていたようだ。特に不安を感じれば感じるほど無意識のうちに声に出てしまい、治そうと自覚はしているものの————
「君、友達いないでしょう?」
怪しい男は俺の話(独り言)を遮ると、「まあ、いいや」と大きくため息を吐く。それからゴホンと咳払いをして、話しを再開する。
「えー。改めて。君はこの3つの扉から1つだけを選んで、先に進まないといけません」
「すいません!」
ここで、授業中に挙手をして先生に質問をする生徒のように、俺は手を挙げる。怪しい男は明らかに苛立ちが多少怒りに変わった口調になっている。
「なに?まだ説明の冒頭も読み終わってないんだけど?まあ、いいや。で、なに?」
「えと、ここはどこですか?それに、あなたは誰ですか?」
「それは、すべてが終わったら言います。続けるから」
再び口を挟もうと口を開きかけたが、男にキッと
「1つだけ扉を選んでください。なお、1つの扉につき1回だけ、向こう側の世界を体感できます。3つを体感したのち、最終的に1つを選び、その向こうの世界で人生をやり直してください」
「もし3つとも選ばなかったら、どうなるんですか?」
「選ばないとどこにも進めないので、この空間に私と一生一緒にいないといけなくなります」
ここで俺はようやく周囲を見回す。どうやら、東京ドームよりも大きな円盤状のホールの中にいるようだ。この巨大な空間に、俺と男と扉3つが立っているのみである。
「え…こんな何もないとこで?……嫌です」
「私の方が、嫌です。なので、君には何が何でも1つを選んでもらいます」
男は
「まずは、青い扉から、どうぞ」
と指を鳴らすと、青い扉が自動的に開き、向こう側からまばゆい光が溢れ出してきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます